抱えていくもの【過去】

ラリー。
@RARIH_108

羽林の場合『僕の季節』

ゴミ溜めとなっている空き地の横を通るルートのおつかいからの帰り道。

いつもの生臭さじゃなく、鉄臭さ。

なんだろうと思って急ぎ足で進むと、同い年くらいの女の子が草刈り鎌を持って大人二人を殺していた。

すると女の子は鎌を落としてその場に座る。

子供のときの自分には衝撃的なシーンを目の前にして取り乱さなかったのは流石だと自分でも思う。

ボソリと何か呟いた女の子は重い足取りで大人二人に近づいた。


「…誰が殺した?」


その言葉が聞こえた途端、人生で一番の恐怖を感じたことを僕は忘れない。

自分で殺しておいて『誰が殺した』だなんて、イカれてるとしか言いようがない。

自分が殺したことに気づいていないのか?それともショックで忘れているのか?

殺していた時にチラリと見えた笑みからして、後者はないだろう。

きっとあの二人はこの子の親だ。

ここにいては自分も殺されかねない。

けれど、今までに感じたこともない好奇心が溢れ出した。

それは僕の足をまっすぐ前へと進めた。


「ねぇ君。何してるの?」


「お母さんを、お父さんを殺したのはあんたなの?」


「僕は今ここを通りかかったところだよ。そこで倒れてるのは君の親かい?」


「そうよ。ここで殺されてるのが私の両親。」


「これから君はどうするの?」


「一人で生きるわ。身寄りなんてないもん。」


「じゃあ僕のところに来なよ。雨に濡れて風邪ひいちゃうしさ。うちはおばあちゃんと僕しかいないけど。」


そのまま僕は女の子を、橘を連れて家に帰った。

これが僕と橘の出会い。

そんなロマンチックとは程遠い、赤黒い出会い。


それから僕は中学に入学した。

隣の席に座っていた女の子が、後々彼女になる二枝だ。

儚げな見た目に反して、正論を暴言と一緒に吐く強い女の子だなぁなんて思ってた。

だって、初対面から


「ウザったい前髪ね。」


なんて言ってくる女の子だよ?

それでも隣の席だからなのかもしれないけど、何かと僕を助けてくれた。

僕は戦闘が少し苦手だから放課後に足の運び方とか教えてくれたし、優しいことは知っていたんだ。

だから、僕が参謀になるって決まった時に上官に『彼女を補佐に任命したい』と申し出た。

彼女も拒否しなかったし、むしろ喜んでくれた。

その時の笑顔は絶対に忘れない。

それからは時が経つのが早くて、実績を何度も残す度に彼女との信頼関係は築けていた。

成長してキレイになる彼女を今以上に独り占めしたいなんて思ったのは心の内に秘めておこうと思っていたけど、やっぱり気持ちは止まらなくて中学の卒業式に思い切って告白する。

そんなロマンチックな告白ではなかったけれど、彼女は僕にだけ見せる笑顔でOKしてくれたんだ。

彼女の弟の三詠くんとも仲良くなれたし、この頃が一番幸せだった。


それからまた数年して、中学3年生になった橘が嬉しそうに暗殺部隊に配属されたことを教えてくれた時、お祝いという名目で片耳イヤリングを送った。

イヤリングの入っていた箱には発信機がついている。

僕がプレゼントとして送ったのはイヤリングだけだから、赤軍基地の場所が分かってしまうのは自業自得。

ちゃんと用心しなきゃダメじゃないか、なんて思ったよ。

勿論罪悪感なんてなかった。


「赤軍基地、特定しましたよ。例の作戦、明日にでも実行可能です。」


『よくやった。では今からこちらで招集をかけておいてやる。最終確認を頼んだ。』


「了解でーす。………どうしたの二枝。」


「橘ちゃんを利用したの?」


「僕は利用したつもりないけど…。橘が勝手にやったことだよ。」


「優雨のそういうところ、とてもズルいと思う。」


「酷いなぁ。僕は裏で策を練るようなことはしてないよ?」


「だからこそよ。タチが悪いったらありゃしない。」


「そのタチの悪い奴が君の彼氏なんだけど、そこはどうなの?」


「…どうもしないわ。端末が着信音鳴らしてるし、優雨も行きましょ。」


「はいはい。」


例の作戦。

それは赤軍にスパイを送ること。

赤軍は謎が多い。

だから少しでも情報を入手したいということからこの作戦を立てた。

首謀は僕。補佐は勿論二枝。実行は同じ2年生の緋衣忍木という男子生徒。

彼を選んだのは…まあ素質を感じたからだ。

常に冷静で頭がキレるのは、想定外の時に役に立つからね。


「じゃあ全体の確認をするよ。今回の目的は赤軍の実態調査。赤軍に潜入して、1日の調査結果を僕にデータで送ってくれればいい。まぁ今回難しいことといえば白軍とバレないようにすること。けれど、この作戦が成功すればかなりの力になる。ここまではOK?」


「「OK。」」


「実行は明日。『指定の場所』で空腹で倒れてる演技。助けてくれた人には行く宛のない孤児の設定で軍学校に身を寄せようかと考えていることを話せばいい。非道な奴や冷酷な奴はまず助けてくれないからね。この話をすればきっと何かと助けてくれる。できるだけ赤軍の生徒の近くに入れる場所ならどこでもいい。それは実行者である君が判断してくれ」


「了解。」


「質問は?」


「「……。」」


「OK。取り敢えず君の連絡先を教えてくれ、忍木さん。あ、念のために二枝の連絡先も持ってた方がいいかな?」


「そうね。もし端末をトイレに落としたら大変だものね。」


「そ、それはもういいだろ…。あ、改めましてよろしくね。緋衣忍木さん。僕は羽林。彼女は風見二枝。手は出さないでくれよ?」


「…はぁ。よろしくお願いします。」


それから数日間。

赤軍についてのことを忍木さんから報告をいくつも受けた。

同時に『たまたま』一緒に住むことになった橘からも世間話という報告を受けていた。

いい調子で進んでいるとき、面倒な事態が起きる。


「ねぇ、羽林くん。今の子、だぁれ?」


「凪斗さん…。妹、ですよ。」


「へぇ…。見たことないなぁ?先輩に何部隊所属か教えてよ。」


「一般兵ですよ。見たことないのはきっと、僕と同じであの子は戦闘向きの子じゃないんで救護班である先輩のお世話にならないからじゃないですか?」


「そっかー…。でもあの子、赤いもの沢山付けてたね!」


「……何が言いたんです?」


「赤軍の子と関わるなんて、イケナイことだよ?」


「そうですね。ま、赤軍の生徒で白軍基地に来る肝が据わってる子なんているんですかねー…?」


嫌な人に見つかった。

この人は前から嫌な気はしてたんだよな。

仁見凪斗は確信してる。

橘が赤軍だってこと。

あの人のことだからきっと上官に報告するだろうね。

それも匿名で。

そうなったら俺は軍に殺される。

まあ唯一の救いは凪斗さんが二枝のことを知らないってことだ。

二枝に被害が及ぶことはない。

…けどなぁ。



「…どうしたの?こんな夜遅くに。」


「二枝、二人で話したいことがある。」


「…大事なことなのね。」


「うん。」


そう言って二枝は自分の部屋に招き入れてくれた。

リビングの方に光がついてテレビ音があったからきっと三詠はそっちにいるんだろう。

二枝の部屋は何度も入った。

別に緊張とかすることはない。

僕はいつも通り二枝の勉強机の椅子に座り、二枝はベッドに座った。

遠くも近くもない距離。


「それで?話って何よ。優雨はいつも勿体ぶるから嫌よ。ハッキリ言って。」


「そうだね。今日は手短に言うよ。」


「………。」


「きっと僕は殺される。」


「っ!?どういうこと!?」


「落ち着いて。ある人に橘と、赤軍と話しているところを見られた。あの人はきっと面白がって上層部に報告するだろう。」


「軍に、殺されるってこと?」


「そんなところかな。だから、生きているうちに二枝には別れの言葉をと思ってね。」


「別れの言葉って何よ…。いつ死ぬかなんてまだわからないじゃない。馬鹿なの?」


「嫌な予感がするんだよね。僕は今日死ぬ。」


「何よそれ!!信じないわ!!!」


「僕の嫌な予感が外れたことなんてなかったろ?」


そう言うと二枝は表情を暗くして大人しくなる。

席を立って二枝の正面に来る。

こちらに顔を向けて来ない二枝の頬に手を添える。


「ねぇ二枝。冬っていつから冬なんだと思う?」


「え…?」


「木の葉が全て落ちた時かな?」


「私に聞かないでよ。」


「人の冬はいつやってくるんだと思う?」


「死んだとき?」


「死んだら季節を感じることはできないよ。」


「じゃあ何だというの…?」


「心を閉ざしてしまった時だよ。君の心の季節はいつだい?」


「……冬でないことは確かよ。」


「僕の季節は春。君がいるだけで春のような暖かい気分になれるんだ。僕はさ、君の季節も春でいて欲しい。ずっと、僕が死んでも。」


「私を縛るのね。」


「嫌かい?」


「本当ズルいわ。嫌なわけがないじゃないの。」


よかった、と一言告げて頬から手を退ける。

物足りなそうに二枝は僕の手を少し追いかけた。


「僕が死んでも二枝の中で生き続けてるから。」


「珍しくベタなことを言うのね。」


「キツいなぁ…。それじゃあ、またね。」


「酷い人。でも愛してる。世界が滅んだ先もずっとね。」


「君は強い人だよ。……僕も愛してる。世界が亡くなった先もずっと。」


「…またね。」


僕は静かに戸を閉めた。

扉の先には三詠君が立っていた。


「………。」


「二枝を頼むよ。」


「わかり、ました。」


「君も、またね。」


「また…うちに来てくださいね。」


何も返事をしないまま、家を出た。

そのまま、橘と落ち合ういつもの場所へ足を運ぶ。


「曇り、か。」


すると重たい足音がこちらに近づいてくる。

珍しいな。

普段は足音なんて、物音なんてひとつ立てないのに。


「やぁ橘。どうしたの?夜遅くに。」


「暗殺命令が、羽林の。逃げて。」


「僕の暗殺命令?誰に下ったの?僕の知らない子?」


「わ……私、なの。」


「そっか。じゃあ殺してよ。」


「やだ………生きてよ。」


「それは無理かな。僕さ、多分軍に殺されるから。」


「なん、で?」


「泣かないでよ。橘には笑顔が一番なんだから。僕はもういらないってだけなんだよ?だから、軍に殺されるぐらいなら橘に殺されたいな。」


「やだ。やだよ。やだやだやだやだ!!」


「じゃあ、僕が橘を殺して自害するよ。」


「羽林…?」


橘は僕を殺せない。

だから僕が殺されに行くしかないんだ。

橘に向かって刀を向ける。

すると橘は反射的に鎌を構えた。

僕が向かっていけば橘は逃げた。

今の橘は中学1年生の一般兵でも殺せる。

だから僕にだって殺せる。

でもそれじゃ意味がない。

橘が後ろに下がって逃げた時、橘と同じ方向に跳び、鎌の内側に入る。


「僕の名前はね、ゆぅーーーーー」


最後だし、教えてあげようって思った。

けど、届いたかな?僕の声。

忍木さんには二枝に会う前に一通連絡を入れた。


『きっとこの一通が最後になると思う。まぁ察してくれ。君は君の判断で逃げてもらって構わない。ただ、最後の僕のわがままを聞いて欲しい…なんて思ってる。逃げる際、橘が所持する赤軍に関するものを持ち出して逃げてくれ。それから誰かに見つかって、そして橘のものをその場に落として無事に生き延びて欲しい。君にとっては命に関わることだとわかっている。ただ、橘が疑いの目を向けられるのは僕が嫌なんだ。まぁただのわがままだ。余裕がなければスルーしてもらって構わない。次、何かあれば二枝の方に連絡を頼む。スパイと言う辛い仕事を任せて済まなかった。ありがとう。』


ただ、自分のわがままを綴っただけだけど。

僕は後ろに跳んだ。

首のところで上下にわかれるのが分かる。

人は死んだら数分間、聴覚だけが生きるという。

けれど何も聞こえなかった。

最後に人の声を聞いて死んでいきたかったかな。





僕の季節は春。

桜が満開で優しい風が吹く春。

僕は桜の木の下で待つよ。

僕の大切な人達が幸せを感じた後、寿命を迎えるまで。

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