クリスマス

「理希也さんってやっぱりサンタさんは信じてないですか?」

「ん、何だ急に」


終業式後の処理も一段落して、寮の見廻りも済ませて、やっと訪れた二人きりのクリスマス。私たちはまた寮を抜け出し、都内のホテルでささやかな甘い夜を過ごしていた。


「科学的に説明出来ないことは信じないって、前に言ってたような気がして……」


ほとぼりの醒めない身体を持て余している。照れ隠しのように口走った子供っぽい話題に、理希也さんがふっと微笑んだのが肌越しに伝わった。


「俺んとこはあんまそういうのしなかったし、特に思い入れもねぇしな」


なんとなく、私の夢を壊さないようにと配慮してくれているのがわかる。やがて、二人のときにしか見せない眼差しで、理希也さんはいたずらっぽく私の髪を弄び始めた。


「あんたのとこには来てたのか、サンタクロース」

「はい。小学校を卒業するまでは毎年来てくれてました」

「へえ……いいコにしてたんだな」


不意にぽんぽんと頭を撫でられる。なんだかくすぐったくなって私は必死に次の話題を探した。


「理希也さん……物理的に説明したら、やっぱりサンタさんっていないんですか?」

「……ん?」


あ、なんか変な話に持っていっちゃったかも……


「やっぱり短時間でたくさんプレゼントを届けなきゃいけないってなると、サンタさんには結構負担かかったりするのかなぁって……」

「そうだな……」


そういって、理希也さんは少し困ったような顔をした。


「まあ、全世帯の子供に配るプレゼントの重量と、クリスマス中に移動する距離と制限時間とそこから導かれる速度と、それを可能にするトナカイの頭数を考えたら……それ相応の負荷はサンタにも周囲にもかかるだろうな」


どことなく気まずそうに、でも一生懸命言葉を選びながら答えてくれる理希也さんがなんだか愛おしい。思わずくすっと笑みがこぼれた。


「ったく……何笑ってんだよ」

「いえ……やっぱり理希也さんは物理の先生なんだなぁって」


そこまで言うと、理希也さんはお仕置きとばかりに少し乱暴なキスをお見舞いしてくれた。貪るような口づけに私はすぐに蕩けてしまって、しばらく何も考えられなくなった。視界にぼんやりと映る理希也さんの眼差しはなんだか熱っぽくて、今夜が特別な夜なんだと思い知らされる。こんな風にすべてを忘れて二人きりになれるなんて、今の私たちにはなかなかないことだから。


そうこうしているうちに、今度は理希也さんが切り出した。


「そういやさっきの話だけど……サンタって実は1人じゃないのかもな」


少し照れたように言うと、理希也さんは探るような眼差しで私をみつめた。


「サンタがもし1人で世界中をまわってたら、そりゃあちこち大変なことになってるかもしれねぇけど……もし複数人で分担してたら、そんな大層なことにはならねぇんじゃねぇか?」

「あ……!」


私が勝手に始めた子供っぽい例え話に、こうしてちゃんと答えを考えてくれたことに心が温かくなる。


「それに、サンタが1人で超高速で移動してたら、せっかくの鈴の音が聞こえねぇだろ」


そう言いながら、理希也さんがこめかみに優しくキスを落としてくれる。ああ……この人はどうしてこんなにあったかいんだろう。


その後も甘い夜は続いたけど、ときどき私は外の音に耳をそばだてていた。ひょっとしたらサンタの鈴の音が聞こえるかもしれない。そんな淡い予感がどうしても頭から離れなかった。


そんな私に理希也さんも気づいていたみたいで、ときおり二人で押し黙っては、くすくすと笑い合っていた。ほんとひとときだけどあたたかい、そんなクリスマスの夜だった。

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