唇に唄を 弐~刀から主へ~

まっつん◆お刀
@mty_nrms

十、鳥の行方、風の行方  山姥切国広の事

 僕が今まで息をした理由わけ

 君がここまで生きてた理由

 あなたと出会えて恋をしました

 二人は笑ってるんです



 暁を待つ青白い空気の中で目を覚ます。

 傍らには温かい気配がある。柔らかい布と俺の腕に包まれて穏やかに眠っている主――その丸い頭やふわふわとした髪の流れをそっと撫でる。

 腕の中の主をそうして撫でるのが好きだと、こうするようになって初めて知った。

 懐に擦り寄ってもぞもぞと動く気配が愛しいという事も、初めて知った。

 暁の頃、傍を離れていく温度が寒い、それが恨めしいと初めて知った。

 それを厭わしく思うのが、傍の温度を慕わしく思うのが、恋しいという事なのだと初めて知った。

 喩えそれが人の言う恋でなくても、仮初の身で感じる余興のような、本物とは到底言えぬ模造の愛でも、そうして過ごす事に幸福を感じた。

 こんな写しの、存在そのものが模造のような俺でも、幸せだと思った。

 それが、俺という刀が此処まで在ってきた事の意味になったと、そう思う。

 ――主はどうなのだろう……

 主は主の今生を、意味のある、幸福を感じるものとして過ごせてきただろうか。

 静かに寝息を立てている主の顔を眺めながら、俺が主に齎したかもしれないものを次々に心に浮かべてみる。

 ずっと、俺は主の言う良い刀なんかではないと言っていた。

 手入れを拒んで、俺なんかものの数にはならないと振り切って無茶をした。

 油断と無謀の果に折れかけた。

 満身創痍で帰ってきて、主を怒らせて、泣かせた。

 勝手に想いを募らせて、絆を望んで傍に寄った。

 主の心を推し量る事もなく、その言葉に勝手に傷ついて、落胆した。

 化生の身で主を乞うて、危うい関係を持った。

 その癖、主が身に刻む運命と覚悟を疑って、振り払おうとした。

 ずっとずっと、主の全てに甘えて、寄り掛かってきた。

 散々に掻き乱された生の中で、主は幸福な何かを得てきただろうか。

 悔いても悔いても追いつかぬ想いと共に主の体を腕に抱えて、思う。

 ――もう、この先は、迷わない

 これからの時がどう流れようと、この先の未来がどうなろうと、悔いる事はしない。憂う事はしない。

 空を遠くに渡っていく鳥の姿を見送るように、吹き抜けていく風の行く末を眺めるように、俺は最後まで主の傍らで過ごす。最期の時に主が望む覚悟を叶えたら、その後はもう、遠い遠い魂の廻りの果てでもう一度出逢うまで、その時を願い続けていよう。

 その先でも、主がきっと微笑っていられるように――そう短く祈って、あと少しの間を微睡もうと俺はもう一度目を閉じた。



 散らかった僕のこれまでの道 君を傷つけてばっかり

 あんな風にぶちまけた青い棘の後に寄り添って

 守るから

 鳥は今何処へ向かう? それは全部風に聞け

 風は今何処へ向かう? それはもう水に流せ

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