ぬくもりと愛情

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年末も押し迫った冬のある日。


何とか…ほんとーに何とかして休みをもぎ取って、同じく休みなんてあってないような立場にある彼女と、久々のデート。


仕事関係で連携することもあるから、合わない日が続くってことはないけど、恋人としての時間はさっぱり皆無。


やっと手に入れた、玲との時間…だったんだけど。


俺はコートのポケットに手を突っ込んだままでため息を吐きつつ歩いていた。


今向かっているのは、玲との待ち合わせ場所。


デートに向かうっていうのにため息をついてしまう理由は、ポケットの中に忍ばせたスマホが原因だ。


「いや、ホントに無理くりもぎ取ったし、もしかしてこういう展開にならないとは限らないとかは思ってたけどさ」


誰に聞かせるわけでもない独り言を道に吐き捨てていく。


通りすがりの人も、見ず知らずの俺の呟きなんて知らないふりで過ぎていってくれるからありがたい。


こんな情けない姿、間違っても玲には見せたくないなーと男としての矜持を振り絞って、俺はまっすぐに前を見つめる。


ポケットに入ったスマホを手で触るのだけはやめられないまま、俺は玲の待つはずの場所へと向かっていった。








俺が玲を好きになったのは、『ちゃんと俺を見てくれてる』からだと思う。


性格上、喜怒哀楽の「喜」「楽」だけの人間に思われがちだけど、それ以外の感情がないわけじゃない。


玲は超能力があるわけでもないのに、なんとなく俺の感情を察して、そして気遣ってくれる人だった。


今も、また。


「菅野くん、なにかあった?」


いつも通りの顔で『やっとデートできるなー』なんて明るく言ったつもりが、少し間の空いた玲の返事は、気遣う表情とともに降ってきた。


「え、何で?」


「…なんか、なにか気にしてるっていうか…いつもより気が張り詰めてるっていうのかな、何となく、そんな感じがして」


「……」


思わず無言になってしまったのは、びっくりするくらい正解だったから。


捜査一課として追っていた大きなヤマ。


犯人の方にも捜査状況的にもなかなか進展がなくてヤキモキはしてた。


それが、事件のことは気になりつつも玲とのデートのために何とか休みをもぎ取った後にあれよあれよと進展し出すなんて。


大きな動き――犯人確保のために動くことが決まれば、休みを返上して俺は現場に行かなきゃいけなくなる。


そのことがあって、コートにしまったスマホが鳴らないかずっと気にしてしまっていた。


「…菅野くんたちの方でも、大きい事件があったんでしょ?」


「まぁねー。今頃司さんとか蒼生さんが必死に追いかけてるかも」


「…菅野くんも気になってるんでしょ」


サラリと流すはずが、玲の真実を突き刺す一言は重い。


俺も子供じゃないから、「俺が仕事いってもいいのかよ」とか拗ねたりはしないけど。


分かってくれてる彼女ってのも、こういうときには嬉しくもちょっと辛い。


「菅野くんの顔見れば分かるよ。私も…きっと同じ立場なら、スマホ気にしちゃってしょうがないかも」


あはは、と軽く笑う玲の仕事も、休みがあってないようなマトリだ。


でも、そこで個人的理由で緊急の呼び出しを無視したり投げ出したりしないのが、玲だし、…俺でもある。


「もー…玲には全部わかっちゃうんだよなー」


困った顔をしつつ、コートのポケットから手を出していく。


その中には連絡待ちの証拠のようにスマホがあって。


「げ」


「え?」


何故か狙いすましたかのように着信の音が鳴り響いた。


「マジ?」


「……わぁ…」


あまりのタイミングに、俺も玲も唖然とするけれど。


目を見合わせて苦笑を零す。


分かってる、と無言で頷く玲にごめん、と手を掲げてから、俺は耀さんからの電話に出た。


「もしもーし、菅野でーす」


『夏樹? マトリちゃんとのデート中に悪いね~』


「少しも悪いと思ってないですよね? …で、進捗と状況はどうなんですか?」


『うまーく裏をかかれちゃったみたいなんだよねぇ。たぶん駅方面に逃亡中かなってとこ。夏樹、近いでしょ』


「玲との待ち合わせ場所言ってないのに把握してるんですか? 怖いなー」


『ま、いいじゃないの。じゃ、とりあえずよろしく~』


それだけ言った耀さんの口調はのんびりしたものだが、俺は託されたことで顔が引き締まる思いだった。


「えーと、玲、ごめん!」


「ううん、いいよ。それより早く行ったほうが…!」


「うん、じゃあ今度、絶対埋め合わせするから!」


玲まで切迫した顔をしたことに申し訳なさも生まれるけれど。


これで犯人が無事捕まったなら、きっと玲も一緒になって喜んでくれるだろう。


だから、俺は玲が笑顔になってくれるように走り出す準備をする。


「あ、菅野くん!」


「ん? …って、え…」


玲の声に振り返った俺の首にふわりと巻き付けられたのは、それまで玲がしていた白いマフラーだった。


「走る時には邪魔かもしれないけど…今日は寒いから、ね?」


「玲…」


こんな時にも俺のことを考えてくれてる彼女が愛しくて愛しくて。


「…サンキュ、いつもより早く走れそう!」


「頑張って!」


「うん! 捕まえたら連絡する! 夜までには全部諸々終わらせるから、ご飯は一緒にだ食べよ!」


「…分かった、待ってるね」


おおよそ、これから犯人を捕まえに行くなんて殺伐とした雰囲気なんてないまま、俺は玲に手を振って駆け出した。


冷たい風が吹き抜ける中、彼女の思いが込められたマフラーが、俺に力をくれているようだった。







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