秘密の部屋

正体

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。

 リドルの新しい狙いは自分だった。

 思いがけない言葉に、ハリーは面食らう。

 再び日記を開いたジニーは、ハリーが日記を持っているところを見てパニックになっていたという。

 もしハリーが、日記の使い方を見つけてしまったら。リドルがハリーに自分の秘密を話してしまったら。もしもハリーに、鶏を絞め殺した犯人を教えたら。

 そうしてジニーは、ハリー達の寝室に忍び込み、日記を取り戻したのだった。

 リドルは分かっていた。ハリーがスリザリンの継承者の足跡を追跡していると。どんなことをしてでも謎を解くことも。ジニーから色々と聞かされていたから、ハリーがそうだと分かっていた。


「そこで僕は、ジニーに自分の遺書を壁に書かせ、ここに下りてきて待つように仕向けた。ジニーは泣いたり喚いたりして、とても退屈だったよ。でも、この子の命はもうあまり残されてはいない」


 それは、あまりにも日記に魂を注ぎ込んでしまったから。そのおかげでリドルは遂に日記から抜け出せるようにまでなったのだった。


「ハリー・ポッター、僕は君に色々と訊きたいことがある」

「何を?」


 ハリーがリドルへ軽蔑の目を向ける。

 しかし、リドルの方は微笑を湛えながら答えた。


「これといって特別な魔力も持たない赤ん坊が、不世出の偉大な魔法使いをどうやって破った? ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに、君の方はたった1つの傷痕だけで逃れたのは何故か」


 リドルの双眸に、チラチラと赤い光が宿る。


「僕が何故逃れたのか、どうして君が気にするんだ? ヴォルデモートは君よりあとに出てきた人だろう?」


 ハリーが落ち着くように努めて述べると、リドルは静かに口を開く。


「ヴォルデモートは――僕の過去であり、現在であり、未来なのだ」


 徐にハリーの杖を取り出すリドル。その杖を操り、空中に文字を描く。


TOM MARVOLO RIDDLE


 杖を一振りすると、その文字が動いて並び方を変えた。


I AM LORD VOLDEMORT



 その真実に、サクラは言葉を失う。

 リドルの正体があのヴォルデモートだったなど、考えてもみなかった。


「『名前を呼んではいけないあの人』は学生時代、優秀な生徒を演じていたのね……最強の闇の魔法使いなら、確かに非凡な生徒だったのも頷けるわ」


 去年、禁じられた森で目の当たりにしたヴォルデモート。

 学生時代の姿だったとしても、彼の日記が側にあったことや、ハリーが実際に対面した事実を考えると、サクラは身が凍りつく思いである。


「この名前は、ホグワーツ在学中にすでに使っていたらしい。親しい友人にしか明かしてないけど。マグルである父親の姓が嫌だったんだ」


 リドルは、このときから既にマグルに嫌悪していたようだった。



 リドルは、汚らわしいマグルの父親の姓を使っているのは嫌だという。


「母方の血筋にサラザール・スリザリンの血が流れているこの僕が? 汚らわしい、俗なマグルの名前を、僕が生まれる前に、母が魔女だというだけで捨てた奴の名前を、僕がそのまま使うと思うかい? ハリー、ノーだ」


 そうしてリドルは、いつの日か魔法界全てが恐れる名前を自分で付けたのだった。


「その日が来ることを僕は知っていた。僕が魔法界一偉大な魔法使いになるその日が!」

「――違う」


 暫く言葉を失っていたハリーが、そう口を開く。

 目の前のこの少年がやがて大人になり、自分の両親や、多くの魔法使いを殺したのである。

 表現出来ない程の憎しみを、言葉に込めた。


「何が?」

「君は世界一偉大な魔法使いじゃない」


 最も、初めからこの存在が世界一偉大な魔法使いではないのである。

 リドルは、自分を過大評価して勘違いしているだけだった。


「君をがっかりさせて気の毒だけど、世界一偉大な魔法使いはアルバス・ダンブルドアだ」


 ヴォルデモートが強大だったときでさえ、ホグワーツを乗っ取ることも、手出しをすることも叶わなかった。

 それに、リドルが在学中のときもダンブルドアは彼のことを見透かしていたし、どこに隠れていようと、ヴォルデモートは結局ダンブルドアを恐れているのである。

 リドルの顔からは、今まで湛えていた微笑が消え失せる。


「ダンブルドアは僕の記憶に過ぎないものによって追放され、この城からいなくなった!」


 リドルが顔を歪ませながら言い放った。


「ダンブルドアは、君が思っているほど、遠くに行っていない!」


 リドルを怯ませるための咄嗟の言葉だった。

 しかし、ハリーはこの言葉を言えるほどダンブルドアを信じているし、そうであってほしいとさえも思った。

 そこでリドルも口を開くが、言葉を発することは叶わなかった。

 どこからか音楽が聞こえてきたのである。

 それは、今まで聴いたことのない不思議な旋律だった。

 すると、すぐ側の柱の頂上から炎が燃え上がり、その存在が照らし出された。

 不思議な旋律を響かせていたのは、白鳥ほどの大きさの鳥だった。炎のような真紅の鳥で、孔雀のように長い金色の尾羽を靡かせている。

 輝く長い爪には、艶やかな姿とは不釣り合いのぼろぼろの包みを掴んでいた。

 その鳥は、優雅な姿でハリーへ下降していき、足元にその包みを落としてハリーの肩へを止まった。

 その身がまるで炎のようで、肩と頬に暖かさを感じる。


「不死鳥だな」


 リドルが鳥を睨みつける。


「フォークス?」


 ハリーには、この不死鳥の名前を知っていた。

 それに応えるかのように、鳥はハリーの肩を優しくぎゅっと掴んだのだった。


「そして、それは――古い『組分け帽子』だ」


 リドルは、ハリーの足元へ目をやる。

 新入生の歓迎会では軽快に喋って歌っていたのだが、今ではぴくりとも動かないただの薄汚い帽子だった。

 リドルの高笑いが、部屋に響き渡る。


「ダンブルドアが味方に送ってきたのは、そんなものか! 歌い鳥に古帽子じゃないか! ハリー・ポッター、さぞかし心強いだろう? もう安心だと思うか?」

 

 徐々にハリーは勇気が湧いてきた。

 勿論、フォークスや組分け帽子が何の役に立つのか分からないが、ハリーはもう独りではない。

 リドルが再び、ハリーがどうして生き残ったかを問うてくる。

 ハリーは必死に考えて、勝つ方法を見つけようとした。

 リドルにはハリーの杖があり、こちらにはどうすれ良いのか分からないフォークスと組み分け帽子。どう見ても不利である。

 しかし、そうこうしている内にジニーの命が磨り減っていくし、リドルの輪郭がはっきりしてきた。


「――君が僕を襲ったとき、どうして君が力を失ったのか、誰にも分からない。僕自身も分からない」


 けれどもハリーには、何故ヴォルデモートが自分を殺せなかったのかが分かる。


「母が、僕をかばって死んだからだ。母は普通の、マグル生まれの母だ」


 ヴォルデモートがハリーを殺すのを、母が食い止めたのだった。


「僕は本当の君を見たぞ。去年のことだ。落ちぶれた残骸だ。辛うじて生きている。君の力のなれの果てだ。君は逃げ隠れしている! 醜い! 汚らわしい!」


 リドルの表情が歪む。そして無理やり笑顔を作り、その表情にぞっと背筋が震える。


「そうか。母親が君を救うために死んだ。なるほど。それは、呪いに対する強力な反対呪文だ」



 状況は違えど、サクラにはハリーに似たものを感じた。


「……ハリーのお母さんが、ハリーを守ったんだね」


 少し震えた声が出た。


「うん。母さんが、身をていして守ってくれたんだ」

「私も聞いたことがあるわ。リドルが言うとおり、愛情は呪いに対する強力な反対呪文だって」

「いくら『例のあの人』が最強の魔法使いだったとしても、ハリーへのお母さんの愛情は、とても強かったんだね」


 それは、自分自身にも言えると確信出来る。

 サクラを守る両親の愛情は、強力なものである。



「――分かったぞ」


 リドルが少し嬉しそうに言葉を紡いだ。


「結局君自身には、特別なものは何もない訳だ。実は何かあるのかと思っていたんだ。何しろ僕達には不思議と似たところがある。君も気付いていただろう」


 ハリーとリドルは、ふたりとも混血である。そして両親を亡くし、孤児でマグルに育てられた。更に、サラザール・スリザリン以来のたったふたりのパーセルマウス。

 確かに、ふたりには共通点が多かった。


「しかし、僕の手から逃れられたのは、結局幸運だったからに過ぎないのか。それだけ分かれば十分だ」


 リドルは、サラザール・スリザリンの継承者であるヴォルデモート卿と、有名なハリー・ポッターとの手合わせを願おうと述べる。

 フォークスと組分け帽子を嘲るように目をやり、そしてリドルはその場を離れた。

 スリザリンの石像のところまで行き、リドルはそれを見上げる。


「スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ」


 それはパーセルタングだった。

 石像の口が開き、暗く深い闇が見える。

 そこから何かが蠢いて這い出てきた。

 ハリーは、部屋の壁にぶつかるまで後退りをしたのだった。

著作者の他の作品

言いたいことが色々あって我慢出来ず、このような場を作ってしまった。作品の...