秘密の部屋

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。


 ある日、ベッドの上のハーマイオニーがサクラに向かって怪訝そうな表情を向けた。

 その顔は、もう毛が全て取れて綺麗になっていた。


「――サクラ。あなた、一体どうしちゃったの?」

「え?」


 突然そのようなことを訊かれ、サクラはきょとんとしたのだった。


「あなた、ずっと変よ? 何かあったんじゃない?」

「何が?」

「おいおい、ハーマイオニー。少なくともサクラは、猫になった君より何もないと思うよ」

「どうかしたの、サクラ?」

「何でもないけど……どうして?」

「いいえ。私には分かるわ。サクラ、何だか悩んでるように見えるの」


 ハーマイオニーに指摘され言葉に詰まると、やっぱり、とハーマイオニーの目が光る。


「さ、ハリーにロン。あなた達は戻ってちょうだい」


 そうハーマイオニーがにべもなく言った。


「え? 何でだい?」

「分からないの? 私達、今から女の子同士で話をするのよ。男の子は聞いちゃだめ」

「分かった。じゃあ、僕達は戻るよ。あとでね、サクラ」


 ハリーは、「女子ってほんとよく分かんないよな」というロンの肩を押して、ふたりは医務室から出ていった。


「これで話してくれるわよね」

「別に何でもないのに」

「いいえ。あなたはまだ言ってないはずよ。あのとき、どうして戻ってくるのが遅かったのか」

「あのときって……」

「スリザリンの談話室に行って、マルフォイから話を聞いたときよ」


 サクラは言葉が見つからなくて押し黙ると、ハーマイオニーが探るように見つめてくる。


「あのとき、どうしてハリーとロンと一緒には戻ってこなかったの? 何かあったの?」

「お、怒らない?」

「私が怒るようなことなの? いいから言って」

「……マルフォイくんから話を聞いてる途中で元に戻り始めたから、急いで戻ってきたって言ったよね」


 サクラは観念して口を開く。


「あのとき……マルフォイくんに捕まっちゃったと言うか」

「何ですって?」

「えっと、何て言えばいいんだろう。捕まったじゃなくて、掴まれた?」

「何を?」

「腕を。それで、もうわたしに戻っちゃうから、マルフォイくんが気を利かせてくれたのか、誰もいない廊下まで連れて行ってくれて」

「ちょっと待って。ストップ」


 ハーマイオニーは、首を振るってサクラを制止した。


「マルフォイが気を利かせて? 誰もいない廊下に連れて行ってくれて? どういうこと?」

「分からないけど、でも、『こっちだ』って言って誰もいない廊下に連れて行ってくれたから、気を利かせてくれたのかなって」

「マルフォイが?」

「うん」


 ハーマイオニーが、信じられないわ、と呟く。

 サクラにとっても信じがたいことだが、それは事実である。


「それで?」

「それで、最初はどういうつもりなんだって怒ってて、どうせ自分がスリザリンの継承者かどうか探りに来たんだろうって」


 そして、ドラコに自分の気持ちを告げる、自分を気遣うようなことを彼に言われたとハーマイオニーに伝える。

 それを聞いたハーマイオニーは、最早絶句していた。


「えっと、ハーマイオニー?」

「信じられない。信じられないわ」

「わたしだって信じられない。それにわたし、急いで戻ろうとして、それで転んじゃったの。本当に本当に恥ずかしくて、でもね、マルフォイくんが立たせてくれて、目が見えないんだろうって言って、玄関ホールに続く階段まで連れて行ってくれたの」

「それ、本当にマルフォイだったのかしら……」

「本当にマルフォイくんだったよ」


 ハーマイオニーが、考え込むようにしばらくの間黙ったのだった。

 やがて口を開き、重く言葉を紡ぐ。


「――分かったわ。とても信じられないけど、何があったのか分かった。つまり、こういうことかしら。マルフォイは、純血主義でマグルを貶す最低の人だけど、でも、サクラの前では違う」

「そうなのかな」

「だってそうでしょう? 今ままでもサクラからマルフォイのことを聞いたことあるけど、全然イメージが違うんだもの」

「……何でだろう」

「あなた達って、まるで――」

「え?」

「何でもないわ。とにかく、油断はしちゃだめね。彼は、とっても危険よ」


 ハーマイオニーの言い分はよく分かるが、それでもサクラには、何故かドラコがそこまで危険人物だとは思えなかった。


「それに……あなたは何故、そこまでマルフォイのことが気になるのかしらね」

「それは……分からないの」


 ハーマイオニーが優しい表情で問いかけてくる。まるで、何かを諭そうとしているようだった。

 しかしサクラは、いくら考えても気持ちの整理がつかないので肩を竦める。


「純血主義でマグルを見下すマルフォイくんが、どうして自分にここまでやってくれるのか、全然分からないの。だから、ちょっと気になっちゃって」

「本当にそれだけ?」


 嘘はやめて、とでも言いたげなハーマイオニーの目。サクラは正視出来なくなる。

 すると、ハーマイオニーが手を握って優しく言ってきた。


「サクラ。何もあなたを否定するつもりはないわ。何か悩んでいるなら言ってほしいし、本当のサクラの気持ちを知りたいの」

「……」

「言いたくない?」

「わたし……」


 開きかけた口を一旦閉じ、少し逡巡して再び言葉を紡ぐ。


「好きなのかな」

「ええ、私にはそう思えるわ」

「でも、やっぱりよく分からないの。これが、恋なのか。ただ、本当に気になるの。どうしてマルフォイくんが、わたしにそこまでしてくれるのか」

「そうね……私からは何も言えないわ。でも、やっぱり彼はとても危険なの」


 ハーマイオニーの言葉が、サクラに重く圧し掛かる。


「だって、サクラにも分かると思うけど、彼ってすごく性格悪いじゃない?」

「それは……」

「もし、マルフォイが性格のいい人だったら、迷わずサクラを応援するわ。それに……あなたに対してあまり言いたくないけれど、でも、あの人のサクラへの接し方に、何か裏があるかもしれないって思ってしまうわ」

「わたしもそう思う……騙されてるんじゃないかって」

「そうね。だから、あの人を好きになるのは、とっても難しいと思うわ」


 もしこの気持ちが本当に恋だとしたら、ハーマイオニーの言うことは頷ける。しかし恋ではないとしても、ドラコの言動が気になって仕方ない。

 ドラコが本当に自分を騙そうと思っているのだったら、それは一体何のためか。

 彼の真意は、ハーマイオニーでも分からなかった。


「でも、今私達が気をつけなければならないことが、他にあるわね」


 ハーマイオニーの真剣な表情に、サクラも頷いた。


「スリザリンの継承者は、マグルを狙ってる。わたし達は、それから自分の身を護らなくちゃ」

「ええ。でも、スリザリンの継承者はどうやってマグルを襲っているのか分からないと、護りようがないわ……」

「わたし、思ったんだけど、継承者は蛇を操ってるんじゃないかな」


 ハーマイオニーがはっとする。

 ハリーがパーセルマウスだということを知ったときから少し考えていた。

 サラザール・スリザリンはパーセルマウスだった。だから、彼の継承者もパーセルマウスだったとしても、おかしくないだろう。


「そうよ、そうだわ!」

「継承者は、パーセルタングで『部屋』を開けて、そして蛇を操ってマグルを襲う」

「でも、どうやって? 蛇が校内を這いずり回っているのかしら……」


 蛇1匹なら、誰にも気付かれずにマグルを襲えるだろうか。


「分からない。それに、本当に『部屋』ってどこにあるんだろう」

「分からないことが多いわね。ああ、早く退院したいわ」


 ハーマイオニーが、もどかしげに体を揺すったのだった。



 ある日、ハーマイオニーのお見舞いに行ったあとの夕方。

 グリフィンドール塔へ向かっていたサクラ、ハリー、ロン。階段を上っているとき、上の階からものすごい剣幕の声が聞こえてきたのだった。


「フィルチだ」


 3人は階段を駆け上がり、フィルチに見つからないように身を潜める。


「誰かまた、襲われたんじゃないよな?」


 サクラ達は、緊張しながら耳を傾けた。


「――また余計な仕事ができた! 一晩中モップをかけるなんて。これでもまだ働き足りんとでもいうのか! たくさんだ。もう我慢の限界だ。ダンブルドアのところに行くぞ――」


 フィルチの足音が遠くなり、そしてドアが閉まる音が響いた。

 3人は、廊下の曲がり角から首を出した。そこは、ミセス・ノリスが襲われた廊下である。そこの半分が、再び水浸しになっていたのだった。

 嘆きのマートルのトイレのドアの下から水がまだ漏れ出ているので、ここからから大量の水が流れ出たのだろう。

 トイレからはマートルの泣き叫ぶ声が聞こえているので、サクラ達は顔を見合わせた。


「マートルに何かあったのかな」

「行ってみよう」


 ローブの裾をたくし上げながら廊下を横切り、「故障中」の掲示がしてあるトイレのドアを開けた。

 床や壁がびっしょりと濡れていた。そのため蝋燭が消えて、中は薄暗い。


「マートル、どうしたの?」


 サクラが問いかけると泣き喚く声が止み、「誰なの?」と返ってくる。ごぼごぼと水の音がしたので、マートルは便器の中にいるのだろう。


「また何か、わたしに投げつけにきたの?」


 奥の個室まで行き、中を覗く。


「どうして僕達が君に何かを投げつけたりすると思うんだい?」

「わたしに聞かないでよ」


 マートルが、便器から大量の水を溢れ出しながら姿を現した。


「わたし、ここで誰にも迷惑を掛けずに過ごしているのに、わたしに本を投げつけておもしろがる人がいるのよ……」

「だけど、何かを君にぶつけても痛くないだろう? 君の体を通り抜けていくだけじゃないか」


 ハリーの言うことは最もであるし、ロンも頷く。しかし、そうであってもサクラはハリーの言葉に同意しかねた。


――いくら体を通り抜けられても、痛くなくても、すごく悲しいよ。


 するとマートルが、体を膨れさせて喚いた。


「さあ、マートルに本をぶつけよう! 大丈夫、あいつは何も感じないんだから! 腹に命中すれば10点! 頭を通り抜ければ50点! ハハハ! なんて愉快なゲームだ――どこが愉快だっていうのよ!」

「誰が投げつけてきたの?」


 サクラが尋ねると、マートルは先ほどとは打って変わってしゅんとしたのだった。


「知らないわ……U字溝のところに座って、死について考えていたの。そしたら、頭のてっぺんを通って、落ちてきたの。そこにあるわ。私、流してやった」


 手洗い台の下辺りを指差すマートル。サクラ達は、そこを探してみた。黒い革表紙の本が落ちていたのだった。

 ハリーが、その濡れた手帳のようなものへ手を伸ばす。


「気は確かか? 危険かも知れないのに」


 しかし、ロンが腕を伸ばしてハリーを制止したのだった。


「危険? どうして? 何でこんなものが危険なんだい?」


 笑いながら言うハリーに、ロンは訝しげにその本を見る。


「見かけによらないんだ……魔法省が没収した本の中には――パパが話してくれたんだけど――目を焼いてしまう本があるんだって。あと『魔法使いの14行詩ソネット』を読んだ人はみんな、死ぬまでバカバカしい詩の調子でしかしゃべれなくなったり。それに、バース市の魔法使いの老人が持ってた本は、読み出すと絶対にやめられないんだ。本に没頭したっきりで歩き回り、何をするにも片手でしなきゃならなくなるんだって――」


 ロンが、父親から聞いた話を教えてくる。それを聞く内に、その本も本当に危険なものなのではないか、と思えてきたのだった。


「それから……」

「もういいよ、分かったよ」


 しかし、ハリーはそんな話を聞いたにも関わらず、その本を拾い上げたのだった。


「だけど、見てみないとどんな本か分からないだろう?」


 本から水が滴り、ハリーは軽く水を払う。

 サクラも近づいて、その中身を見てみた。その本はどうやら日記のようで、50年前のものだった。


――『秘密の部屋』が開かれたのも50年前。偶然かな。


 最初のページには、掠れたインクで『T・M・リドル』と記述してある。


「ちょっと待ってよ」


 用心深く近づいてきたロンが、そう漏らす。


「この名前、知ってる……50年前、学校から『特別功労賞』をもらったんだ」

「え?」

「どうしてそんなことまで知ってるの?」

「だって、処罰を受けたとき、フィルチに50回以上もこいつの盾を磨かされたんだ」


 そのときのことを思い出すように、ロンがうんざりとして言う。


「ナメクジのゲップを引っかけちゃった、あの盾だよ。名前のところについたあのネトネトを1時間も磨いてりゃ、いやでも名前を覚えるさ」

「じゃあ、どうしてその人の日記がここに?」


 ハリーが、濡れたページを破れないようにそっとめくった。しかし、どのページにも何も書かれていなかった。

 これでは、手がかりが何もない。


「この人、日記に何も書かなかったんだ」

「誰かさんは、どうしてこれをトイレに流してしまいたかったんだろう……」


 その日記の裏表紙を見てみると、ロンドンのボグゾール通りの新聞・雑誌店の名前が印刷されていた。


「この人、マグル出身に違いない。ボグゾール通りで日記を買ってるんだから……」

「マートル、この日記を投げつけてきた人、どんな人か見なかった?」


 サクラがマートルへ尋ねてみる。マートルは便器の上で塞ぎ込んでいた。


「知らないわよ。私、ずっとこの中にいたんだから」

「でも、女子ってことだよね? 声とかしなかった?」

「分からないわ。でも、きっと喜んだでしょうね。何せ、私の頭に当たったんですもの……」

「――マートルの鼻に命中すれば50点」


 ロンの小声が聞こえたのだった。

著作者の他の作品

言いたいことが色々あって我慢出来ず、このような場を作ってしまった。作品の...