秘密の部屋

嘆きのマートル

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 魔法史の授業が終わり、今日の授業が全て終了した。

 夕食前に荷物を寮へ置きに行く生徒達に混ざって、サクラ達もグリフィンドール塔へと向かった。


「サラザール・スリザリンが狂った変人だってことは知っていたよ」


 人混みを掻き分けながら、ロンが話しかけてくる。


「でも、知らなかったなあ。例の純血主義のなんのってスリザリンが言い出したなんて。僕ならお金をもらったって、そんなやつの寮に入るもんか。はっきり言って、もし組み分け帽子が僕をスリザリンに入れたら、僕、汽車に飛び乗ってまっすぐ家に帰るな……」


 ハーマイオニーは頷いたが、ハリーは何か考え事をしているようで、顔色もよくないように見えた。


――ハリー、どうしたんだろう。それにしても、スリザリンは本当に、悪い人達ばっかりなのかな。純血主義の人しかいないのかな。


「やあ、ハリー!」


 人の群れから見え隠れする、小さな人物。

 ハリーに憧れを抱く、コリンだった。


「やあ、コリン」


 ハリーが、事務的に挨拶を返す。


「ハリー、僕のクラスの子が言ってたんだけど、君って……」


 小柄なコリンは、言い終わる前に人波に流されていったのだった。


「あとでね、ハリー!」


 そう言い残して、コリンの姿が見えなくなる。


「クラスの子があなたのこと、何て言ったのかしら」

「僕がスリザリンの継承者だとか言ったんだろう」


 暗い調子でハリーが述べる。


「ここの連中ときたら、何でも信じ込むんだから」


 だんだんと混雑が緩和し、4人は余裕を持って階段を上っていった。


「本当に『秘密の部屋』があるって思う?」


 ロンが訊いてきて、先ほどのビンズの話を思い出す。


「先生方は存在しないって言うけど、でも今回のミセス・ノリスの事件で、何かがあるんだと思うけど……」


 ハーマイオニーを見ると、彼女は考えるようにして口を開いた。


「そのミセス・ノリスをダンブルドアが治してあげられなかった。ということは、私考えたんだけど、猫を襲ったのは、もしかしたら……うーん、人じゃないかもしれない」


 そこで4人が角を曲がると、丁度あの事件のあった廊下に出たのだった。

 松明の腕木にはもうミセス・ノリスはいないが、壁にはまだ文字が残っている。


「あそこ、フィルチが見張っているところだ」


 文字が書かれた壁を背に、椅子がひとつだけ置かれている。


「ちょっと調べたって悪くないだろ」


 ハリーは鞄を放り出して、床を探し出した。


「焼け焦げだ! あっちにも、こっちにも……」

「来て! 変だわ」


 今度はハーマイオニーが声を上げる。

 ハーマイオニーは、壁に書かれた文字のすぐ脇にある窓を指差している。

 20匹ほどのクモが壁を登っていき、窓ガラスのヒビから出ていっていた。妙なのは、クモが一列に並んで這い出ていっているのである。


「クモがあんな風に行動するのを見たことある?」

「ううん」

「僕も。ロン、君は?」


 ハリーが尋ねるが、ロンは近くにいなかった。

 振り返ると、ロンが離れたところに立っていた。


「どうしたの?」

「僕……クモが……好きじゃない」


 ロンが情けない声を出す。


「まあ、知らなかったわ。クモなんて、魔法薬で何回も使ったじゃない」

「死んだやつなら構わないんだ。でも、あいつらの動き方が嫌なんだ……」


 ハーマイオニーがくすくすと笑ったので、ロンが顰め面を見せる。


「何がおかしいんだよ……訳を知りたいなら言うけど、僕が3つのとき、フレッドのおもちゃの箒の柄を折っちゃって、あいつったら僕の――僕のテディ・ベアをバカでかい大蜘蛛に変えちゃったんだ。考えてもみろよ。嫌だぜ。クマのぬいぐるみ抱いてるときに、急に脚が生えてきて、そして……」


――確かにそれは恐ろしいけど……でも、テディ・ベアを大切にするロンがかわいいな。


 ハーマイオニーはというと、まだ笑いを堪えていた。


「ねえ、床の水溜りのこと、覚えてる?」


 ハリーが話題を変える。


「あれ、どっから来た水かな。誰かが拭き取っちゃったけど」

「この辺りだった」


 気を取り直したロンが、置かれた椅子から少し離れたところを指した。


「このドアのところだった」


 その取っ手に手を伸ばすが、ロンは慌てて手を引っ込めたのだった。


「どうしたの?」

「ここには入れない……女子トイレだ」

「あら、中には誰もいないわよ。ねえ」

「うん。誰も入りたがらないしね」


 サクラも女子なので、ここの女子トイレの事情はよく知っている。

 このトイレの住人に、この間の「絶命日パーティ」に会い、やはりここのトイレは利用しない方がいいと思ったのだった。


「そこ、『嘆きのマートル』の場所だもの。いらっしゃい。覗いてみてみましょう」


 ドアには「故障中」と掲示してあるが、ハーマイオニーが構わず取っ手を捻って開ける。

 ここは、掃除や修理が行き届いていないトイレである。その上、暗くて陰気で臭いもひどい。

 サクラとハーマイオニーを先頭に、中へと進んでいく。ここの住人がいるのは、一番奥の個室である。

 個室の扉はどれもペンキが剥げているし、何故か引っ掻いたような傷もあった。


「ハロー、マートル。元気?」


 一番奥の個室に向かって、ハーマイオニーが声をかける。

 中を覗くと、「嘆きのマートル」がトイレの水槽の上で漂いながら顎のにきびを潰していた。


「ここは女子トイレよ」


 ふたつ結びにした髪は艶がなく、重く肩に垂れている。分厚い眼鏡レンズを通してマートルがこちらを睨みつけた。


「この人達、女じゃないわ」

「ええ、そうね。でも私達、この人達にちょっと見せたかったの。つまり……えーっと」

「ここが、とても素敵なところだって」

「ええ、そう」

「何か見なかったって聞いてみて」

「何をこそこそしてるの?」


 ハリーがサクラに耳打ちしたところを、マートルが目ざとく見つける。


「何でもないよ。僕達、訊きたいことがあって……」

「みんな、私の陰口を言うのはやめてほしいの」


 慌てて釈明しようとするハリーの言葉を聞かず、マートルが涙声を出した。


「私、確かに死んでるけど、感情はちゃんとあるのよ」

「違うの、マートル。誰もあなたのことを傷つけようと思ってないよ」

「傷つけようと思ってないですって! 冗談でしょう!」


 マートルの悲痛な叫びが、トイレに響く。


「私の生きている間の人生って、この学校で、悲惨そのものだった。今度はみんなが、死んだ私の人生を台無しにしようとやってくるのよ!」

「あなたが近頃、何かおかしなものを見なかったかどうか、それを聞きたかったの。ハロウィーンの日に、丁度あなたの玄関のドアの外で猫が襲われたものだから」

「あの夜、この辺りで誰かを見かけなかった?」


 急いで聞くハーマイオニーに続き、ハリーもマートルに尋ねる。


「そんなこと、気にしていられなかったわ。ピーブズがあんまりひどいものだから、わたし、ここに入り込んで自殺しようとしたの。そうしたら、当然だけど、急に思い出したの。私って……私って……」

「もう死んでた」


 ロンがマートルの言葉の先を述べると、彼女はすすり泣きながら空中へ飛び上がった。そして向きを変えて、頭から便器の中へ飛び込んだのだった。4人に水飛沫を浴びせたマートルは、便器の中のU字溝辺りで泣いているようである。


「全く、あれでもマートルにしては機嫌がいい方なのよ」

「割と喋ってくれたしね。さあ、もう行こう」


 寮に戻ったらすぐに身体を乾かそうと考えながら女子トイレから出る。


「ロン!」


 大きな声が聞こえ、4人は一斉に飛び上がった。


「そこは女子トイレだ!」


 階段の上に、ロンの兄でグリフィンドールの監督生であるパーシーがいた。

 とても衝撃を受けたような表情で、こちらを見下ろしている。


「君達男子が、一体何を……」

「ちょっと探してただけだよ。ほら、手掛かりをね」


 ロンが何でもないという素振り見せるように肩をすぼめるが、パーシーの顔がみるみる赤らんでくる。


「そこ、から、とっとと、離れるんだ」


 パーシーが大股で近づいてくる。


「人が見たらどう思うか分からないのか? みんなが夕食の席についているのに、またここに戻ってくるなんて……」

「何で僕達がここにいちゃいけなんだよ」


 顔が髪と同色になりつつある兄に、ロンが言い返す。


「いいかい。僕達、あの猫に指一本触れてないんだぞ!」

「僕もジニーもそう言ってやったよ」


 語気を強めるパーシーだが、兄としても優しさも伺える。


「だけど、あの子は、それでも君達が退学処分になると思ってる。あんなに心を痛めて、目を泣き腫らしてるジニーを見るのは初めてだ。少しはあの子のことも考えてやれ。1年生はみんな、この事件で神経をすり減らしているんだ」


――パーシーは、兄らしくて、上級生らしくて、そして監督生らしいことを言っている。


「パーシーはジニーのことを心配してるんじゃない」


 耳まで赤くなっていくロンの言葉に、サクラは僅かにショックを受ける。


「パーシーが心配してるのは、首席になるチャンスを、僕が台無しにするってことなんだ」

「グリフィンドール、5点減点! これでお前にはいい薬になるだろう。探偵ごっこはもうやめにしろ。さもないとママに手紙を書くぞ!」


 大股で去っていくパーシーを睨みつけるロン。

 パーシーの首筋ももう真っ赤になっていたのだった。


「ロン……ちょっと言い過ぎじゃない? パーシーは監督生だしお兄さんなんだし、本当にロンとジニーのことを心配して言ってるんだと思うよ」


 そう告げるが、ロンに「兄弟のいないサクラには分からないよ」と言われてしまったのだった。

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