死神と少女

音切萌樹@剣の作成頑張る
@moegi_voice

死神と少女

自分のことを「死神」と名乗ったヒトは、自己紹介もそこそこにゆっくりフードを取った。

漆黒の闇を身に宿したような髪と瞳が少女の目に止まる。

烏とも言えるが烏よりも深く、吸い込まれるような黒に少女は自分の髪を触りながら小さく息を吐いた。

少女を見つめていた死神はふっと目をそらすと一通り辺りを見回し、手近にあったパイプ椅子を近くに寄せて少女と目を合わせるように座った。


「どうもはじめまして……俺は死神。お前の魂を死後、冥府へといざなう、いわば魂の届け屋だ。」


先ほどと同じように口角を上げて笑いながら死神は会釈するように頭を下げた。

ゆっくりと頭を上げ、もう一度少女の目を見ると死神は一度ハッとし、すぐにまた表情を消した。

少女はというと特に驚くこともせず、死神の些細な変化も気付くことはなく死神を見つめながら一度だけ小首を傾げた。


「はぁ、しにがみ、ですか・・・」


その反応は死神の想像し得ないものだったのか、今度は死神が首を傾げた。

こてん、と首をかしげるたびに死神の髪がサラサラと流れる。


「なんだ?驚いたり叫んだりしないのか?今までのヤツラは『死神は帰れ!』と叫んでばかりだったが」


どこの時代に「死神です」と名乗りを上げた不審者を歓迎する者がいるというのか。

いたとしてもそれは天寿を全うしたものだけであろう。もちろん、天寿を全うしたからと言って自身を「死神」と名乗る不審者を受け入れるとは限らないが。

少女の反応を不審がる死神の問いに、少女はただ申し訳なさそうに頭を下げた。

少女の顔の動きに合わせて髪がスルリと肩から流れ落ちる。


「えっと、すみません・・・興味、なくて」


下げた頭を戻しながら少女は無表情のまま申し訳なさそうに言葉を投げた。


嘘ではない。

少女は自分へも他者へも興味がないのだ。

非現実的な死神という存在にでさえも少女は興味を抱かなかった。

すぐ間近に迫る死というものにさえ、興味も関心も持てなかった。

少女には生まれ持って人間として何かが欠けていた。まだそれを少女自身が自覚している分マシなのかも知れない。


無表情のまま死神の問いに答えた少女を見つめたまま、死神は固まった。

パチクリと何度か瞬きを繰り返し、ようやく少女の言葉が飲み込めたのか最後に大きくゆっくりと瞬きをした。


「興味が、ない?死神に・・・?」

「はい。死神、という存在がいるということは知識として知っていましたが…興味は、ない、です……」


ぽかんとしたままの死神に少女は無意識に追撃をかけた。

知識と知っていても興味は全くないと本人を目の前に言ってのけた少女は、なぜ死神がぽかんとしているのかわからない様子のまま首を傾げた。

自分に恐怖を抱くこともなく、驚くこともない少女を見つめ、今度は声をあげて笑った。


「ハハハッ!コイツは驚きだ!久しく俺のことを驚かない奴に出会えた!」

「いままでは、嫌われていた、のでしたっけ…?」

「あ?…あぁ、どこに言っても帰れ、消えろ、どっかいけ!の応酬だったな。こんな人間もいるんだな、勉強になる……」


ひとしきり笑いながら少女の問いに答えた死神はローブの中からバインダーのようなものを取り出すと何かを記入し、またしまった。

いったいあのローブのどこにしまっているというのだろうか。

じっと死神を見ていた少女ははっとしたように死神を見上げた。


「ところで、死神さんは何をしにここへ?あと、どこから入ってきたのでしょうか?」


気が付けば、いつの間にか部屋の中に入ってきていた死神。

一体何をしにこの部屋に来たのか、何の目的があってきたのか少女は死神の存在よりもそこが気になったしまった。

死神は呆れ顔を浮かべつつも、また口元だけ上げた。


「目的は死後のお前の魂の回収。そしてどこから入ってきたか、という問いについては……内緒だ」


悪戯っ子のように笑う死神を見ながら少女は一人、不満そうに首を傾げた。