真夏日

四方田
@yomoda108

ジーーージーーー

午後二時。ジリジリと全身が焼け焦げる感覚を味わいながら、とっくに食い終ったアイスのはずれ棒を銜えて俺たちはブラブラ歩いていた。鼓膜を逆撫でする蝉の声と、昼間から馬鹿みたいにうるさいバイクの音と、女子高生の甲高い笑い声とが入っては出てまた入ってくる。世界は雑音でできているのだと錯覚するほど見事に、全てが俺の心を揺さぶらない。バッグを背負った背中が汗でぐっしょりと濡れていて、しかしその汗は冷えることなく更に体を温めた。脳みそがガンガンと暴れて、しょうもなく俺をイラつかせる。上からも下からも照らされて、なんだか丸裸でいる気分。ふいと隣を見ると、ただでさえ暑苦しい前髪を汗で濡らして今にも溶けてしまいそうな先輩がポツリ、今年は蝉が鳴かないな、と呟いた。


「そっすか?俺にはうるさいくらいやけど」

「きっと、俺が全部食べてしもたからや。せやからなんにも聞こえへん」

「なにを言うてはるんすか」


ああ、またか。この人はときどき、俺には到底理解できないようなわけの分からないことを言う。ときどき、というか小春先輩がおらんときはずうっとこの調子なのだけれど。小春先輩がおればこの人は鬱陶しいくらいにニコニコ笑顔作って、俺と二人でおとるときの二倍三倍はデカい声で、今すぐ飛んで行ってしまいそうなくらい軽やかに動き回るのに。いなくなった途端にこれだ。この間は自分を以前流れ星に住んでいた宇宙人だと言い聞き取れないくらい高い声でガーガー喚き始めたのでさすがに部室に置いて帰ったけれど、昨日はネコを見るや否や無言でラケットを取り出しやがったので俺はこの人を必死に止めなければならなかった。いつから俺はこの人の保護者になったんだろう。ともかく、この人を根暗たらしめている最たるはこの二面性にあると俺は思う。


「ユウジ先輩ホンマきしょいっすわ。わけ分からん」

「お前先輩にきしょいとか言うなや」


せやかてホンマのことですし。言うとわざとらしく舌打ちをして死ねとただ一言吐き捨てた。死ねってあんた。


「俺がおらんくなったらユウジ先輩、生きていかれへんやないですか」

「なんでやねん」

「こっちがなんでやねんですわ」


俺はこの人が灯油を一気飲みしようとしたことを知っている。おもむろにはさみを取り出したり、屋上の柵をのぼったり、遮断機が閉まった線路にはいったり、ドライアイスを頬張ろうとしたり、濡れた手で電気類に触ったり、長いコードを首に巻きつけたり、食べられませんを口に入れたり、体中を掻き毟ったり、髪を抜いたり、一週間近く何も食べないでいたり、人のものを盗んだり、そしてそれら全てが小春先輩に構ってもらえない寂しさから表れる行動であること、けれどそれを決して小春先輩の前では見せない冷静さをホンマは持ち合わせていることも。俺は知っている。意識的だろうが無意識的だろうが、この人は問題行動を止めてほしくてわざと俺の前でそれをするし、それを止めない。愛してくれるならだれでもいいのかって、言ってやりたい文句はあるけれど何を言ってもこの人が変わらないことも知っているから。俺は地面でジジジ、とのたうつ蝉を踏み潰す。


「なんや」

「小春先輩がおらんかったら、全て解決する気がするねんよなあ」

「なに言うてんねん」


思い切り俺をどつくと、先輩は俺が踏み潰してぐちゃぐちゃになった蝉を見て「やっと聞こえた」と満面の笑みを湛えた。ホンマ、わけが分からん。しかし本人はやけにすっきりした顔つきで、暑さも吹っ飛びそうなほどすがすがしく叫んだ。


「お前のせいや」