【チカナリ】Deep blue

西夜中
@bsr_SS_S

 「…400年ぞ」

 「…うん」

 元就は、400年間、生まれ変わった全ての人間の記憶を有していると言った。

 「400年もの間、我は貴様を探しておった。

 今生でも会えなんだ、今回もまただめだった、…貴様にわかるか?」

 会えたとしても、元親が自分を憶えているという保証はどこにもない。

 もし憶えておらず、宣言通り忘却の彼方へ送られていたら?憶えていたとしても、戦国の世のように激しい憎悪を向けられたら?

 …自分はきっと、立ち直れない。

 「幾度くり返したのだろうな、我は諦めてしまった。これは我に科せられた罰なのだと。焦がれた相手に会えず孤独に生きる日々…。人並みに家族を持った記憶もあるが、胸の裡は空虚であった。

 しかしそれがどうだ、今生でやっと会えたと思ったら貴様は我を憶えており、且つ愛情を向けてきた。…どうすればよいのかわからなくなったのだ。言いたいことは山のようにあったはずなのに」

 そう言って泣き出した元就を、元親は抱き締めることしかできなかった。


 こいつの涙なんざ、初めて見るな。…否、厳密には彼は元親の肩口に顔を埋めているため涙を見ているわけではないのだが。

 そんなどうでもいいようなことを考えながら、ゆっくりと元就の背を撫でる。

 「俺ぁよ、不謹慎だが嬉しいぜ。そんなに好いてくれてたのかってな。400年前出会ったあの日から、ずっと」

 「…自惚れるでないわ」

 「うるせぇ」


 …互いを想い合うだけでは、越えられぬ壁がある。

 それは身分であったり、立場であったり、性別であったり、その他のことであったり。

 少なくとも、戦国の世ではそうだった。

 自分も元就も国と民を背負う身で、お互いは敵国の主で。


 しかし現代なら、と、元親は思う。

 身分も立場もない、自由に恋のできる現代ならば──それでも男同士にいい顔はされないが──そんなしがらみに囚われず、もっと素直になってもよいのではないだろうかと思うのだ。

 そんなようなことを噛んで含めるように元就に話す。あやすように背中を緩いリズムでぽんぽんと叩きながら。


 ふと、元就が顔を上げた。

 「……その言い方では、貴様も我を好いていたように聞こえるのだが」

 …ああ、やはりこの男は聡明なわりに鈍い。

 「…そう言った。なんだよ、気づいてなかったのか?」

 「………初耳ぞ…」

 「まあどっちにしろ言うつもり無かったけどよ。それこそ越えられねえ壁ってやつだ」

 「待て、ということは貴様は我の気持ちに…」

 「気づいてたぞ?つーかダダ漏れ」

 「!?!?不覚…ッ!!!!」

 今生の元就は、人並みに表情が変わるようになった。普段が能面なのは変わらないのだが、それでも400年前と比べれば雲泥の差だ。

 現に今だって。つい先刻まで泣き濡れていたというのに、もう悔しそうに柳眉を寄せている。元親はその眉間をつつきながら、言葉を紡いだ。


 やっと会えたのだ。その上、気持ちが通じ合っている。

 もうふたりを隔てるものは、元就の素直じゃない心だけ。


 「なあ毛利さんよ、そろそろ素直になってもいいんじゃねえか?」

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