いない

ねこもち
@atarimecat

いない

いない。

教室の中に、誰かがいない。

一つだけ空いた席が、その空間の異物のように、ポツリと。

騒がしい教室、叱る先生、それでも鳴き止まぬ生徒たち。誰も気にしない。気にしてはくれない。

「ねえ」

騒音が声をかき消す。

「誰か...」

誰も興味を示さない。

「気づいてよ」

主の消えた椅子を、手がすり抜ける。

「私に、気づいてよ...!」

教室内では、いつも空気より存在感が薄かった。だから担任も気づかなかった。だからクラスメイトも気づかなかった。

だから...、だからみんな気付かない。死んだ事には気付いてくれない。

自分が座っていた椅子に、腰掛ける真似をしてみる。いつもここで本を読んでいた。休み時間、誰も話しかけてくれない、孤独な時間で。いつもここで授業を受けていた。先生にも気付いてもらえない、暇な時間で。ここが、ここだけが、私の居場所だった。

音をたてずに立ち上がる。教室のドアをすり抜けて、日差しが照らす廊下に出る。

いずれ、私の居場所は消えるだろう。教室の、一つだけ空いた席という異物を取り出すのだろう。廊下側の一番後ろの席。そんなに目立たない所に置かれた異物。捨てるときも、誰も気付かないだろう。

日差しに溶けてゆく。柔らかな光に吸い込まれてゆく。さようなら、世界で一つだけの私の居場所。さようなら、教室内で一つだけ空いた私の席。

今度こそ、私はいない。いない、いない、いない

著作者の他の作品

翼も無くて声も出ない。そんな鳥ってどう思う?暗いのかもしれない。初投稿。