おそいちの間女の話

きゅーり on ICE
@x_watasi

おそくん

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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日雇いの単発アルバイトで、たまたま派遣された競馬場。そこが私の分岐点だった。




殴るような声援と、酒とタバコと、醜い欲が、ドロドロと渦巻いて広がり、快晴をこれでもかと汚していく。


『おおおおお!!!!今シーズンなかなか本領発揮できないでいたイチグンホワイターが驚異の速さで追い上げてきています!!あと半馬身で今シーズン常に一番人気のドカンブラッキーを抜いてしまうというところ!!こ、これは熱い!!熱いレースだあああ!!』



興奮ぎみの競馬実況が雑音に聞こえるような喧騒の中、軽やかに凛々しく2番手を駆ける馬は、どれだけの人間の欲を背負っているのだろう。ああ、羨ましい。誰かに必要とされて、誰かの人生に影響を与えて、誰かに賞賛されるような何かが私も欲しい人生だった。



とは、言うものの、何かを得ようと努力したこともなければ、一体誰の役に立ちたいのかさえ分からない。昨日と今日で全く同じ自分で、昨日のリピートをする。そうやって20年も変わらない日々を消費してきた。強い意思があるわけでも、先天性の何かがあるわけでもない。


私はそこの馬よりも弱くて、魅力のない女だ。


『ああああああ~~ッ!、惜しい!イチグンホワイター!惜しくもあと1歩というところでした、クゥ~!1位は今回もドカンブラッキーです!圧倒的な強さを見せつけましたね…いやしかし……』



投げつけるような落胆の声が実況と重なるように一斉に響く。あんなに凛々しく立派に走りきった馬でさえ、こんな仕打ちが待っているのか。



「…ほら見ろ、努力をしたって報われないんだ。」



努力をした事がない私の口癖が、思考より先にぬめりと漏れた。



このレースは記念大会らしく、来場者全員にこの総合運動公園のキャラクターである可愛らしい三毛猫と、雑くデフォルメの効いた馬のあしらわれたタオルをプレゼントすることになっている。競馬場の出口付近に長テーブルを対面するように並べ、テントを張っただけのプレゼントブース。私はそこでひたすらタオルを手渡す係を担っていた。10月初め、半袖ではもう寒いこの時期だが、競馬場の熱気は凄まじく、ポロシャツに薄いカーディガンを羽織ってこのルーティンをこなしていた。


が…


さっきのレースが終わったかそれくらいから、ドッと列が増えた。日雇い派遣の私だけではとてもじゃないけどさばききれない…。長テーブル1つにつき2人のスタッフで回すはずだが、さっきまで隣にいた手練のオバチャンは「転売目的の人もいるから、2枚目からはお金もらってね!」と言い残して若い男の子の方のブースを手伝いに行ってしまった。


青筋が既に顔を出し、舌打ちがもうそこまで来ている、そんな時だった。


「おねーさーーん!!お願い!お願いがあるんだけど!!!」


赤いパーカーに緑の松が描かれたダッサイ服を着た鬱陶しいにいちゃん、これが第一印象だ。


「…はい、どうされましたか?」


営業スマイルはバッチリだ。


「俺の弟、とっっってもとっても猫が好きなの!!だからさ!これ、もう1枚…ね?」


顔の前で両手を合わせ、片目を閉じ、首をかしげるその姿だけで、この男のどうしようもないいい加減さが伝わってきた。この物の頼み方でどうにか成るわけがないだろう……


「申し訳ございません、2枚目からは料金を頂くことになってまして…」


「そこをなんとか!!!ね?ね!」


私の両肩を掴んでブンブンと振ってきた。


「や、!やめてください!あ、あの!本当に、無理ですからっ!」


そうやって私とにいちゃんが、もう取っ組み合いになりそうになった頃、やっと手練のオバチャンが駆けてきて、私とにいちゃんを引き剥がした。

さすが手練とだけあって、オーラが出ていたのだろうか、オバチャンの説得でにいちゃんは諦めて、背筋を丸めて帰っていった。


「たいへんだったね、ごめんごめん」なんてオバチャンに軽く謝られて、その程度で終わった出来事だった。



ブースの後片付けが終わり、少し汗が滲んだポロシャツを適当なジャージに着替え、「お疲れ様でしたー」と1日だけの先輩に挨拶をし、帰路につこうという夕方、18時。少し肌寒い、家まで15分だけだからと考えなしにその場で掴んだ着替えを後悔する、そんな時。



「あ、」


赤い男が寒さに肩を窄ませながら自動販売機の横に立っていた。


「ひぁ~…さむっ…」


うわぁ…、この寒い中ずっとここにいたのか…ホームレスかな……。


少しでも早く家に帰りたい気温だが、仕方あるまい、遠回りをして帰ろう…。


「あ!あっ、あ〜!!おねえさん!?やっときた~~~!!」


見つかった…


「アハハ、どぉも~……」


「いやぁ、さっきはごめん!このとーーり!へへ」


「……ハハハ、いえいえ~」


伏し目で背中を丸め、素早く前を通り過ぎようとした。


「おねえさんー~、、ちょーっと、まって!」


腕を掴まれて、赤い男に吸い込まれた。


「わ、」


よろめいた私の背中はピタリと赤い男に密着し、「おっと」という男の声で支えられた。


「うわ!おねーさん、いいにおい~~~!」


そう言って赤い男は私を大切そうに両腕で抱えた。


「えっ、は?!」


その両腕を勢いよく払い除け、男と対面する。


「あーあ、…」


残念そうに眉を八の字に傾ける赤い男。


「え!き、きもい!」


赤い男があんまり不思議そうに私の目を見るもんだから、研ぎ澄まされた本音が発射されてしまった。


「えぇ?!ひどくない?!俺支えてあげたのに!!ちょっと嗅ぐくらい良くない??な!泣いちゃうよぉ?!」


「いや、きもい!きもいです!!嗅ぐとか!いや、支えてくれたのはありがとうございます………ってか!!あ!あなたが引っ張るから私、よろけたんでしょう!!」


「…え、あ、そーだっけ?へへ、ごめーん」


右手を頭の後ろにやりポリポリと掻きながら、例の如く軽ーーい謝罪をされる。今日はこんな謝罪ばっかりだ。厄日!厄日だ。


「はぁ。えっと。それで?用は何です?!帰りたいんですけど?」


私は機嫌が悪いのだ!という事をこれでもかと顔に書いて赤い男に見せつける。


「え、…あ~!、タオル欲しいな~~って?」


またヘラヘラと笑う男。


「はぁ?まだ諦めて無かったんですか?2枚目からはお金がいるし、それ以前に私はただのバイトなんで持ってません!」


「ん~~だよねぇ~!」


「わかってるなら聞かないでください!はぁ。じゃあ!」


なんて適当な男だ。さっさと帰ろう。コンビニで甘いものを買おう。あ~太るな。いやいや、厄日だししょうがない。


そうやって男を横切って足早に出口に向かう。


「んあ~~~!!!!!!」


完全に私の視界から男消えた時、急に彼が叫び出した。


「は……?」


とうとうおかしくなったか、とチラリと振り返る。


「まって!まって~~おねえさん!俺の名前は松野おそ松!今はニートだけど将来カリスマレジェンドになる予定!だから話聞いて~~~うぅあ~!」


その場にストンとしゃがみ込んで頭を抱えだしたマツノ。え……泣いてる…のか?まるでおもちゃを買って欲しい小学生のようだ。心の奥の、奥のそのまた奥の母性がくすぐられたのか、私はマツノに駆け寄ってしまう。


「ご、ごめん…でもタオルは本当に無くて…」


そう言ってマツノを励ますべく肩に手を置こうとした時、今度はガッシリと手首を掴まれた。


「つ~~~かまえたっ!」


顔を勢いよく上げて、二カリと無邪気な笑みを私に向ける。


「あ、え?」


泣いていたと思っていた私はもう何が何だかわからずに思考停止してしまう。


「ねぇ、おでん食べに行かない?一生のお願い!!」


私はこの時大きな小学生にこれでもかとふりまわされて、とんでもなく疲れていた。


もうなんでもいい、とりあえずこの男の言う通りにしよう……


「…あぁ…わかった…どこのおでん……」



こうして私は、松野おそ松にナンパされたのだ。




ーーーーー




激推しのおでん屋があるから俺に任せて欲しい!と大見得を切った松野を信じて、私はただ着いて行った。もちろん知らない道をずっと歩いていたし、ましてやマツノは知らない男も同然だ。


今となれば、20歳の女の危機管理能力には甚だ届かない、とっても危険なことをしていたなと、思う。


総合運動公園からおでん屋までは歩いて二十数分だったと思う。その間、松野は喋り続けた。


弟が5人いる話、自分の名前と弟の名前、今日の競馬の結果、おでん屋は同級生の店だということ、あとなんだっけな、とにかく至極どうでもいい話だった。この男は終始タメ口で軽かった。私もだんだんタメ口になっていって、しまいには名前で呼び合う仲になってしまった。



「ねぇ、おねえさん。松野さんって呼ぶのやめない?俺、女の子には下の名前で呼ばれるって子宮にいる頃から決めてたの!!お願い~~!」


「えぇ…いいけど…なんて呼ぶの?おそ松くん?」


「う~~~~~~んそれだとなんか、子どもの頃とかぶるし、題名とも……」


「題名?」


「いやいや、!こっちの話~!えっとね……ん~~~そうだな、あ!おそくん!おそくんがいいです!」


「はいはいわかった、おそくんね。」


「やっった~~!!もう童貞卒業も同然!!」


「は?…きもい、、呼ぶのやめるよ……」


「あ~~~!だめだめ!!ごめんごめんなさい!」


「はは、そんなに呼ばれたいんだ?」


「そうなの!うれしい~~~」


少なくとも私との会話や、ナンパしてきた(まぁナンパは下手だったけど…)感じからして、女に飢えてるわけでも無さそうなのに、‘’女の子に名前で呼ばれること‘’を満面の笑みで喜ぶ姿はとても可愛かった。


「私のことはレイカでいいよ。別に、名字でもいいけど?」


「レイカ!レイカって呼ぶ!ヒューヒューなんか彼氏みたいじゃな~い?」


そう言ってヒラヒラと少し体を寄せてきたおそくんにゲンコツを落とす。アイター!!って元気なリアクションと、笑顔。


この時に気がついたけど、この男、案外紳士で、ずっと私と一定の距離を保って歩いてくれている。会話には支障がなくて、おそくんからはいつでも逃げられる距離。やるじゃん。


そうやって、おそくんと‘どうでもいい楽しい会話’をしながらおでん屋にやってきた。


「て、てやんでい、おそ松が女を連れてくるなんて……」


おそくんの同級生はチビ太と言うらしい。

…まぁ、納得の容姿だった。


「ヘヘーン。まぁ、カリスマレジェンドだからさ、俺って?」


そう言ってドヤ顔のおそくんにまたゲンコツ。


「無理やり連れてこられたんです!もう!」



チビ太は話を回すのがうまいらしく、会話はだいぶ弾んだ。私は短期バイトで、いつもはただの大学生をやってることを紹介して。それから、このおでん屋と私の下宿が案外近いことも分かった。おそくんの家も近いらしい。おそくんはとても童顔で、私と同じか下くらいかなぁ?と思ってたけど、実は24歳ニート、童貞、実家暮らしらしい……終わってる…。


だいぶお酒も入ってきて、チビ太も眠そうな目でてやんでいしか言わなくなってきた頃、おそくんがあ~眠い眠い!と駄々をこねだした。

「えぇ?ここで寝ないでよ、もう!家帰りなよ」


「だぁ~~~めっ!おんらのこおいてけるわけらいもん!おくっていくろが男ってろんろ~!」


「何いってんの、もう、おそくん酔っ払いなのに送ってけるわけないじゃんかー」


「いやら!かえららい!!」


そう言ってテーブルに突っ伏してしまったおそくん。うーうーと唸っている。


「おれはなあ、レイカぁ~~~」


「な、なに?」


「レイカぁ猫背だろお~、めのしたにクマがあるしさ~~」


「あー、……うん……そうだね……」


「そのくせきがつよくってさあ~~。かわいーんだよぉ、まもってやりてえなあ~」


「なにそれ…なんか説得力ないよ?酔っ払いなのに無理して口説かなくていいよハハハ」


今日連れ回したことを謝るために持ち上げてるのかな~?相変わらず単純だなあとか、考えてた。


「いちまつになあ~にてんらよぉ、レイカぁ、」


「あぁ、四男、だっけ?猫好きの?」


「おれはなぁ、いちまつがすきなんだあ…うっ、ううっ……」


なぜか泣き出してしまったおそくん。


「ど、ど、どーしたの?!おそくん?!」


立ち上がって背中をさする。


「おらぁなあ、っ、いちまつがすきなんら~うっ、ううっ、ごめんよお~レイカぁ、レイカもすきだあ~っく、ううっ、」


「ああ、うんうん、ありがとう?」


チビ太はすっかり船を漕いでいて、助けてくれそうにない。ああぁ、ホンット今日って厄日だ……。


「レイカぁ……」


涙をぽろぽろ流しながら顔を上げて、背中をさする私の方に体を向けた。

涙を拭きながらのそりと立ち上がって、おそくんはそのまま私に抱きついた。


「ど、、どうしたの??」


あの、よろめいた時と同じように、大切そうに抱きしめてきた。おそくんの雰囲気が落ち着いて変わったのがわかる。こいつもオトナの雰囲気、出せるんだ。と。


「レイカの家行っちゃ、だめ?」


寂しそうな声だった。聞こえるか聞こえないかくらいの、助けてって訴える子供みたいな、そんな細い声だった。でも、彼は男性だった。私よりも頭がひとつ分大きくて、ニートのくせに胸板がちゃんとあって。背中に感じる手は、大きくて。




「いいよ」


男性であるおそくんを自覚しながら、こう答えた。





ーーーーー





窓から差し込む光を感じて、焦りで勢いよく目を開けた。


朝、…いやこれは昼だな。幸い今日は日曜日、大学はないことを携帯で確認する。あぁ、良かった……と安堵……はできなかった。私のベッドにはもう1人共有者がいるらしい…。あぁ、最悪……ヤったっけ…。



私は下着無しでパジャマを着ていたが、おそくんはパンツ1枚でスヤスヤと隣で寝息を立てていた。


どっちかわかんないきわどいライン…まぁおそくんなら大学生でもないから後ぐされしないし…はぁ……どっちでもいっか……。


そうやって合理化して、ベッドから降り、シャワーを浴びる。どっちか探ることはしなかった。


身支度を済ませて朝兼昼ご飯ができた頃、おそくんが大きな大きな背伸びをしてからむくりと起き上がった。



「っ~~~?!!!?!!ええぇ?!!レイカ?!!レイカの、、家?!ええ~~~!!?!!」


「う、うるさっ!なに、なによもう、!」


「え?!おれなんで!なんでパンツだけ?!!」


「……しらないわよ…」


8畳の私の城におそくんの声が響く。


「えっ、おれ、え?……した、?の?」


「わかんない。私、どうやって帰ってきたか覚えてないし……」


「や…やばいーー!女の子の……家だ………!」


明らかに目を怪しく輝かせているおそくんにチョップをかまし、


「ほら、変な事考えてないで、風呂、入ってきたら?貸すけど。」


「えぇ?!いいんすか!!」


「変な事したら殺すから。」


「あいあいさー!!!」


音符を散らしながら風呂場に向かう。おそくんが風呂に入っている間、何回か「うおー!」だかそんな声が聞こえたけど、いちいち怒るのが面倒だから聞こえないふりをしてあげた。


それからおそくんが風呂からあがってきて、私が作ったご飯を食べて、自然と…反省会をした。



「おそくん」


「はい」


「どうして自販機の横にいたの?」


「おねーさんに会いたくて」


「嘘おっしゃい」


「ほんとだって!おねーさん、好きな人に見た目が似てんの!あと気が強いとこ。」


「…あ、へえ……」


いちまつくんの…こと、かな……。

いやいや、弟だし、ない…でしょう。


「レイカは俺のこと嫌い?」


「いや別に嫌いってことはないけどさ」


「おおお!!じゃあ好きってことで!!?」


「こら、まてまて。私、おそくんともっかい会うつもり、ないからね?」


「え~~~!なんでよ!!なんでなんで!!」


「いや、ないでしょ!」


「やだ。俺来るから。暇な時。」


「えぇ…やめてよ……」


「嫌いじゃないんでしょ?俺のことっ!」


ニヤニヤ笑うおそくんにとって嬉しい言葉を出すのは不本意ではあったが、弟思いでなかなか話も面白い、顔もそこまで悪くないし……


「はぁ、嫌いではないよ?」


ただ、24歳ニートなんだよなぁ……


「よぉ~~~っし!じゃあいーじゃん!ね!」


「う~~~ん……まぁ…いっか?」


おそくんといると何故か判断力が著しく低下してしまう……まぁいっか、どうにかなるか、そう思ってしまうのだ。この男の醸し出す軽さ、侮れん…。





ーーーー




そうやって週末はおそくんが泊まりに来る日が増えた。缶ビールやおつまみなんかを買ってきて雑談してゲラゲラ笑って。おそくんが実家の使ってない古いTVゲームを持ってきたりもした。懐かしい懐かしいなんて言いながら、2人とも操作に苦戦して夜中まで騒いだりした。ご飯を作るのは私だった。その間おそくんは私のベッドでゴロゴロして、暇だ~~かまって~~って無茶なことを言ってきたりもした。2週間経ったくらいの頃から、自然と体の関係も持つようになっていた。最初は酒の弾みだったけど、体の相性もいいし、顔も悪くないし、別に良かった。だから、会ったら大体シてた。



でも、11月の中旬から、おそくんの来る頻度がだんだん減ってきた。「最近忙しいのー?」って何気なく聞くと、「あー…まぁね!」って、ゴニョっと、ぼやかされた。まぁ付き合ってるわけでもないし、良かった。別に良かったんだ。



12月に入ると、パッタリおそくんが来なくなった。鬱陶しい奴だったけど、来ないと案外寂しいもんだ。ベッドでゴロゴロしながら喚かれることもないし、漫画を読むのを邪魔されることもない、毎日。


なにか珍しいものを見つけたり、おそくんが持ってきた古いゲーム機のカセットをリサイクルショップで見つけたり、旬の美味しい食材を買ったり、そういうことを伝えたいと思うのは、おそくんだった。


新しい下着を買う理由も、ちょっといい化粧水を使う理由もおそくんだった。


来なくなって、色んな‘伝えたい事’が溜まっていった。ああ、会いたいなあ、イルミネーションを一緒に見た後に一緒にケーキを食べたい、クリスマスにはそう思った。


あ、私、おそくんの事が好きなんだ。


ただのセフレとして利用されたことが悔しくて、でも何故かまだ帰ってきてくれると信じていて。


誰かに必要とされる幸せを知ってしまった。

かまってくれなきゃ死んじゃうって駄々をこねるおそくんが鬱陶しくて、愛おしかったんだ。



おそくんへの気持ちに完全に気づいた時にはもう年末で、バイトと忘年会と大掃除に振り回されながらも、ひとりになると枕を濡らしていた。



年も明け、三が日が終わり、さあ明日から学校だという晩、おそくんはひょっこりと私の玄関に現れた。



「レイカー!久しぶり!あけおめ~~~!」


元気な声と歯を出して二カリと笑ういつもの笑顔。でも、その顔には大きなアザがあった。首元には赤黒いキスマークが、いくつもついていた。


「ど、どうしてたの……おそくん…………」



長い間目の前に現れなかった怒りよりも、彼の身が心配だった。だって、いつもみたいに笑うから。絶対何かあったはずなのに、どうして……



「うん、話すね、ごめんね、レイカ」


真剣な顔をするおそくんに、ドキリとした。