ハロウィンの夜

「瑛希くん、10月31日はどうするの?」


僕の可愛いフィアンセが聞いているのは、今度の僕の公休日のことだ。残念ながら、彼女は宿直。僕は寂しい夜を過ごすことになっている。


「うーん……まだ決めてないかな」


本当はちょっとした予定を考えていたけど、実現できるかは限りなく未知数だ。


「そっか。まあでも久々の休みだし、しっかり満喫できたらいいね!」


彼女はそう明るく笑うと、やけにあっさり仕事に戻っていった。同じ家に住んでしばらく経つのに、この微妙な距離感はたまに、すごくもどかしい。


***


「……ワオ…」


10月31日の公休日。密かな計画を進めようと、スーパーの野菜コーナーに立ち寄ったときだった。もう3軒目だというのに、やっぱりここにもない。アメリカだったらこの時期どこにでも置いてあるのに……どうしたって日本には、濃い緑色のカボチャしかないらしい。知識としては知っていたはずなのに、肝心なときに思い出せなかった自分が少し情けない。


日本語ではジャック・オ・ランタンとかかぼちゃランタンとか呼ばれているようだけど、アメリカでJack O’Lanternといえば、本物のカボチャを使って手作りする人が多い。うちの家でも母親が作ってたし、幼稚園や学校でも作る機会はあった。


ただ……濃緑のJack O’Lanternはあまり聞いたことがない。出来上がりを想像してみても、ちょっと不気味だ。今になって思い出してみると、日本のカボチャはかなり硬かったはずだ。単なる工作とはいえ、料理もロクにできない自分にできるのか……もともと未知数だった僕の計画は、いよいよ頓挫しそうになっていた。


***


……結局、僕は濃緑のカボチャを買って帰った。失敗するかもしれないけど、疲れて帰ってくる可愛いフィアンセに、何かサプライズがしたかった。


不格好だってかまわない。くりぬくのは無理でも、文字くらいは彫れるだろう。趣味で買い溜めていた和風のペーパーアイテムをあしらえば、それなりに味のある和風Jack O’Lanternになるかも。スーパーからの帰り道、家が近づくにつれ、僕は不思議なくらい前向きになっていった。


その日の夜。僕は家で一人、濃緑のカボチャと対峙していた。改めて見る日本のカボチャは、何だかとっつきにくそうで、どことなく不機嫌そうにも見える。


”Don’t be too hard on me?”


軽く愛想笑いしてみても、カボチャは相変わらず無愛想なままだ。まあ、当たり前か。僕はふっと頬を緩ませて、未知なるJack O’Lanternづくりに取りかかった。

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