ワスレナグサ

('ω')トゥットゥルー
@ari_taikutsu

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。

君はいつだって俺に優しい。


「鉄朗、おはよ〜! 今日も髪型決まってるね」

「これ寝癖」


え、そうなの? と首をかしげる姿は、目の前ではとても言えないくらい可愛かった。


このやり取りを昨日もしたんだよ、なんて彼女が知る必要はないのだといつも思う。

可愛いその姿を何回も見れるのだから、役得だと思ったりしなかったり。


「ねえ鉄朗、私鉄朗と一緒に登校するの久しぶりかもしれない!」


明るい彼女に、俺は「そうだな」と頷いた。

本当は一週間連続だけど。


俺達はてくてくと子供みたいに手を繋いで歩く。きっとお前は自分が高校生だという自覚もあんまりないんじゃねえのかな。

俺が告白した事も、多分忘れている。


「なー、ゴッドマザー」

「ん?」

「俺の名前は?」

「えぇ? 鉄朗でしょ?」


何故か忘れられていない俺の名前を聞いて、また安堵した。

んー、と、君は軽く唸って。


「……てつろ、これあげる」


どこからか取り出した小さな紫色の花をいつも通り君は俺に渡した。

この質問をするといつもくれるのだ。


「ワスレナグサか」

「うん! 大切にしてね」


大切な人にしかあげないの、と笑う。

俺が君の大切枠に入れているということで、それが純粋に嬉しかった。


……と、ここまでがテンプレートだ。

我ながらよく飽きないもんだ。呆れる。



テンプレを繰り返すゲームのようなこの世界にも、たまにイレギュラーが発生する。

眠気の覚める放課後。

マネージャーでもない彼女が何故か俺を待っていた。


「おつかれ!」

「えっ、いや、どうした!?」


俺が部活をしている事なんて、とっくのとうに忘れていると思っていた。

それともアレだろうか。

誰かに俺がバレーやってる事を聞いたとか? とにかく本当にビックリした。


「え……普通に覚えてたよ?」


まさかそんなわけ……聞き返すが、研磨の名前もバレー部のコーチの顔の特徴まで覚えていた。なんでだ。


「失礼な! 人の名前くらい覚えるよっ」


あぁ、うん、ソウデスネー。

空返事をしながら理由を考える。記憶障害が治った?

あんな、あんな強いショックを受けて発症したものなのに。



『ゴッドマザー』

『てつろ、これ、なんだろ、お母さんも、お父さんも……倒れ、あれ……なに……?』

『もう……いい。忘れろ』



アイツの時間は、あの瞬間から消去され続けてるはずなんだ。



落ちていた空き缶を蹴っ飛ばす。思い出したくもないし、思い出させたくもない嫌な話だ。

彼女が俺を覚えていてくれるなら、それ以上の幸せがあるだろうか。

ため息をつき、貰ったワスレナグサを眺めようとして、気づく。


「……ない」


確かにノートに挟んだはずなのに!

焦ってこれまでのワスレナグサも探してみる。が、一つもない。

今まで気づかなかったというのか。


その上たった今共に歩いていたはずの彼女まで消えていた。

どこだ、どこに行った?


辺りを見回しても古びたマンションとアパートが目に入るだけ。

急いで彼女の部屋まで先回りするが、人がいる気配なんてなかった。

知らない自転車がドアの前に置いてある。こんなのアイツ乗ってたっけ?


試しにインターホンを押してみるが、何も反応はなかった。

『ただいま留守にしています……』というアナウンスが携帯から流れる。


「アイツどこ行ったんだよ……!?」


結局、その日彼女を見つけることは出来なかった。



次の日。

一件メールが入っていた。LINEじゃなくて、メール。アイツのメアドを持ってる奴なんて俺くらいだろう。


非常に簡潔でわかりやすいその内容。



『新しいワスレナグサ摘むの忘れてた! またね』



俺は彼女が死んだ事を知った。



聞けばあいつらしい静かな死だった。睡眠薬を飲んだらしい。


新しいワスレナグサなんて一つしか置いてなくて、代わりに彼女の携帯の中にメモ帳が残されていた。


『私が毎日忘れてしまう君へ––––』


嫌な予感がした。



私が毎日忘れてしまう君へ


私の世界はいつだってふわふわとしていました。

昨日の自分と今日の自分、同一人物なのかすらわからない穏やかな日々でした。

それはある意味ボケていたからかもしれません。

だからでしょう。貴方が大切な人だという認識はあっても、名前がわからない。思い出も薄れていく。


貴方から何かを言われて人生一番の衝撃だった事があった気もするけれど、それも忘れてしまっているのでしょう。


ただワスレナグサを見ると、昔の事、貴方が「忘れてしまえ」と思う様な事でさえも思い出すのです。

あの可愛い花を貴方にあげれば、貴方の事を隅々まで思い出しました。

昨日の私と今日の私は同じ人なのだ、と実感が出来たのです。


貴方に抱きしめられると嬉しいこと、バレー部の主将をやっていること、幼なじみがいること。

私が両親を殺したことも、今日初めて思い出しました。



あぁ、私は罪深い女です。

君にだけ辛い思いをさせて、現実逃避の甘えの為だけに大事な記憶もこぼしていって。


これ以上落とす前に、私の体の中に封印してしまおうと思います。


今までありがとう。

この花を最後に君に託したら、もう、二度と何かを忘れることもないと信じたいよ。


ゴッドマザーより






ワスレナグサの花言葉が「私を忘れないで」ということを知って、また俺は泣いた。



end