まほろばインザダーク

夢女いろんな回bot
@hachiemode

#1

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100%完全にばっちりと安全な機械など存在しない。例え非常に低確率でも、必ず事故は起こるものだ。みんな分かっているけれど、自分はそんな目に遭うわけないと信じて、人は宇宙旅行へ旅立つ。

「お姉ちゃんが結婚しちゃうなんて実感ないなー。」

みくは銀色のパッケージからコーヒーを吸い出した。みくの乗っているエコノミー船では重力調整のサービスは提供されないので、乗客は普通のカップで液体を飲むことができない。

「実は私もー。」

「お姉ちゃんが実感なくてどうするの?」

「これさ、最後の家族旅行ってことでしょ?なんか寂しいな。」

「そんなことないでしょ。結婚してもまたお父さんとお母さん連れて旅行行こうよ。」

「そうだね。ありがとう。」

日本時間だともう夜遅い。姉妹の両親はとっくに床に就いており、エコノミー船の展望デッキには、人もまばらだった。

「私ももう戻るよ。みくもあんまり夜更かししないでおきなよ。」

「うん。」

みくはカラになったコーヒーのパックをねじって折り畳んで、ダストシュートへ吸い込ませたあと、窓へ身を乗り出してみた。大きな窓のすぐ向こう側で、大小様々な星が冷たく光を瞬かせている。いつの間にか展望デッキには誰もいなくなって、話し声も聞こえなくなった。

エコノミー船とはいえ、ここまで数日間、完全にばっちり安全な宇宙旅行だった。今も穏やかな機械音が一人になったデッキを包み込んでいる。このまま一週間の宇宙旅行を終えて、何枚かいい感じの家族写真を撮って、地球に戻ったらお姉ちゃんが結婚して、しばらく…多分、二度とこの4人で家族旅行をすることはないだろう。

「寂しいなー。」

誰も聞いていないと思って大きな声で言ったら、答えられたみたいなタイミングで機内アナウンスがピンポンと鳴った。

『お休みの所恐れ入ります。御搭乗の皆様に操縦室からご』

アナウンスはそこで途切れて、その代わり大きな音でサイレンが鳴り始めた。そして機体もうそみたいに揺れ始めた。

「うそうそうそ。」

みくは慌てて壁にしがみついたけれど、揺れが収まる気配は無い。しかも展望デッキから客室への自動ドアが開かない。

『お……様、…が一に備……非常……宇…服を着用……』

途切れ途切れのアナウンスが聞こえた。みくは反対側にEMERGENCYと書かれた宇宙服収納のロッカーを見つけ、壁を伝って扉に手を伸ばした。中には非常脱出用の宇宙服が10着ほど。慌てて1着取り出して、搭乗時に見せられた映像を思い出しながら、もたもたと腕を通した。

『緊急脱出ポッドを開放します。係員の指示に従って、速やかに…』

エコノミー船から脱出したみくの目に飛び込んできたのは、大破してくしゃくしゃになってしまったファーストクラスの高級船だった。脱出に成功した乗客が乗っているであろう脱出ポッドが小窓からいくつか見える。お父さんとお母さんは?お姉ちゃんは?みくが一人で乗り込んだ脱出ポッドは回転しながら、眩いピンク色の光に流されて消えてしまった。


マホロアは今になってようやく思う。この宇宙にはいつも優しい風が吹いている。もしもっと過酷で冷たい場所だったら、あの後すぐ塵となって消えていたかも。マホロアは結局今も、ローアに乗って宇宙を漕ぎ進んでいた。あんなに渇望した支配が成功したとして、それが本当に望んでいた事かどうかは、今となってはよく分からない。今は何も考えたくない。ともかく、目が覚めたらローアの中にいたので、あてもなくぼんやりと旅を続けているのだ。代わり映えのしない毎日に不健康な食事。生かされたけれど、こうして穏やかに宇宙を彷徨っているのは死に場所を探すためかもしれない。罪滅ぼしなんてガラじゃないし。

そして今日はひときわ体が重くて怠い。マホロアは浮くことを止めて卵型の体を操縦室の床に転がらせた。どうせ誰も見ていない。

ローアのメインスクリーンに、近づいた星や付近の宇宙空間の情報がポップアップした。

「ヘェ…異空間ロードが閉じたアトなんダネ」

寝転がったままスクリーンを見上げていると、星に近づくにつれて情報が更新されていく。スクリーン右方に小ウィンドウが開いて、小さな灰色のカプセルの画像が映し出された。近くにカプセルの主と思われる、白い異星人の姿も見える。

「ワァ。遭難者カナァ?仲間がイナイみたいダ。」

ウィンドウに接近と回避の選択肢が表示される。

「…もしかして、助ケロって?」

マホロアは操作パネルを叩いて、ローアを漂流異星人の星に接近させた。

マホロアはこの目的の無い旅を始めてしばらくして、ローアには心があるかもしれない、という考えに至った。何かを選択する時、なんとなく訴えかけて来ているような気がするようになった。ローアはマホロアが選択した通り、緩やかに高度を落として、着陸態勢に入った。

みくはエコノミー船から脱出した後、時間や空間を超えた遠い場所へ繋がった異空間ロードに巻き込まれた。そして脱出ポッドのハッチが開いた後、周りに同じ船の人どころか生命体らしきものが全く見当たらない不毛の星に着陸してしまった事に気付いたのであった。

希望を捨てずにしばらくうろうろしてみたが、地平線の果てまで土と石しか見えない。他の星との距離が近いようで、光の加減かもしれないが、水滴のような形をした星まで見える。あっちに落ちたほうがよかったのではないかという気持ちになっただけだった。

変化のない地平線の向こうから青白い光が差したのは、探索に飽きたみくが座り込んでしまった頃だった。じっと光の方を見ていると、徐々に近づいてくるそれが空色の船であることが分かった。白いオールをひらめかせて、波をかき分けているみたい。

土と石ばかりの土地に、鈍い音を立てて船が着陸した。