新旧折衷幻想郷

ヘカーティア魔界へ行く 前

の世で無い何処か。

溶岩と悲鳴が絶えず流れるその空間は、数多くある“世界”の中でも極めて広大で、そして異端だった。



「おいあんた、どこから来たんだ?」


「ひぃぃっ!化け物!」


「ハァ~…地球の文明圏か……そら鬼なんて知らんわな。………まあいい。あんたは極寒の刑罰だ。良かったな、まだ楽な方だぞ。そこの突き当たりを右な。」


「へ…?ぇ……はい……」



いかつい顔には似合わない正装で身を固めた鬼が、人間と受け答えをし、またすぐに次の相手と受け答えを始める。

今度入ってきたのは得体の知れない人外の存在だ。


そう。ここはあらゆる世界から死者がたどり着く場所……

― 地獄 ―



「おいそこ!立ち止まるな!」



ここにいる者は二通りに分けられる。

生前の罪を罰せられ、輪廻を繰り返す者……

そしてそれらを管理する者……



「やめろ放せ!俺ァまだ肉も女も喰い足りねぇんだ!」


「列を乱すな!いい加減にしろ!」



所は変わり、死者の列の中……

生前強い力を持っていた妖怪が未練のあまり騒ぎ立てている。

列を見張る担当者が止めに入るが暴れ回る妖怪の霊に手が付けられない様子だ。

列が止まり、管理者達が慌ただしく走り回る大騒ぎであるが、集まる者の顔も性格も文化も種族も常識もそれぞれ異なりすぎる地獄では日常茶飯時である。

それに、広大な地獄の全体から見れば些細なことに過ぎない。



「……………またか。」



…にもかかわらず、深刻な面持ちでそれを見つめる者が一人。

他の管理者達とは段違いの空気を纏うその妖は、地獄の末端を歩き回るには不釣り合いにすら見える。



「騒がしいな。そこの、何の騒ぎだ。」


「はっ……あなたは…!」


「何の騒ぎだと聞いている。」



治まる気配の無い場に、その妖は一切の断り無く割り込む。

苦労していた管理者の反応からしても明らかに格が違う。

額には風格のある一本角を携え、右手に盃、そして腰には鞘越しにも分かるほどの妖気を湛えた長刀を帯びている。



「はっ、あの亡者が暴れ、列がめちゃくちゃに……」


「何度目だ。今度からはもっと早く呼べと言っているだろう?」


「しかし……貴方様の手を借りるわけには……」



その強力な妖は、自ら望んで地獄を巡回しているようで、日々治安の維持に努めている。

果たすべき義務でもないその仕事を苦労なく何度もこなすことからも実力が窺い知れる。



「なんだぁ?てめぇ、見覚えがあるな……星熊の姉御に似ているような……」



「……見苦しい。」



「……気……が……?」



相も変わらず横暴に振る舞い続けた妖怪に対して、地獄の妖は短い言葉と共に容赦無くその強大な力を振るってねじ伏せた。

抜刀の見えない達人技で妖怪の肉体無き体は一瞬で二つに分かれてしまい、最終的には周りの死者と同じように、火の玉状の魂の形に変わった。



「人違いも甚だしい……この方はこの地獄の最高管理者の一人、コンガラ様であるぞ!」


コンガラ「欲ゆえ地獄に堕ち、それでいてなおも欲ゆえ喚き散らす……拙い事この上ない……。その者は回復し次第、灼熱地獄へ送っておけ。」


「はっ。」



他からKonngaraと呼ばれる彼女は一見、鬼種族のようであるが、実際は妖怪達より格上、神仏の存在であった。

剣の凄まじい実力と、足が無い霊体のような容姿から“星幽剣士”の名で呼ばれている。

それほど格の高い地獄の上層部の一人である。

真面目で几帳面な彼女は地獄の各地を巡回してはその手腕で喧騒を解決する一方で、本来の与えられた業務をこなし、残り時間を鍛練に使う日々を送っているが、彼女にはもう一つ役目がある。



「コンガラ様。ヘカーティア様が呼んでおられます。」


コンガラ「またか……あの方は……」


「あの方の心労を理解し、話し相手ができるのはコンガラ様くらいしかおられませんゆえ……あ、その…いい意味で…。」


コンガラ「……私の心労も理解して欲しいものだな。……すぐ行く。」


「はっ。」



肩書きの割に何かと暇な地獄の女神の話し相手である。

コンガラの上司である地獄の女神ヘカーティアは、三つある体のどれかで、どこにでもふらりと出かけては、妙な物や話を持ち帰る。

そしてヘカーティアの話し相手を誰もが面倒がり、その仕事もコンガラへと回ってきたのだ。

そしてコンガラはそれを請け負ってしまうのだ。



コンガラ「ヘカーティア様、コンガラです。失礼します。」


ヘカーティア「んもう、遅いわよん。寂しいじゃないの~。」



威厳のある重厚な扉を開き、コンガラが入室する。

しかしそこにいた女神ヘカーティアは来客面会用…という名目で設置されたソファーに四肢を投げ出し寝転がっていた。

死者に対する支配域の広さを象徴する、三つの惑星を模した球体も地面に放られている。



コンガラ「地獄は広いので。」


ヘカーティア「女を待たせてからの言葉がそれ?冷たいのねぇ…」


コンガラ「灼熱地獄ならちょうど空いてますよ。」


ヘカーティア「そういうのじゃないってば~。本当に真面目で冗談が通じないわねぇ、コンガラちゃんったら。」


コンガラ「褒め言葉ですよ。……それで、今日は何の用ですか?……まあ察しは付きますが。」



ヘカーティアの絡みを慣れた様子で軽く流し、コンガラ自身も向かいのソファーに座り込む。



ヘカーティア「暇なの~。コンガラちゃん何か考えて~。」


コンガラ「いつもクラウンピースとままごとをしてるではありませんか。」


ヘカーティア「そのクラウンピースちゃんがいなくなっちゃったのよん……」


コンガラ「いないのなら追えばいいのでは?時間も潰れるでしょう。」



管理のほとんどはヘカーティアの配下の上層部だけででやり繰りできる上、稀に入る仕事も三つの体を集合させて一瞬で片付けてしまうヘカーティアの私生活の大部分は、まだ性格的に幼い従者のクラウンピースの遊び相手である。

ヘカーティアからしても微笑ましく、楽しい時間なのだが、そのクラウンピースもいないのだ。



ヘカーティア「体その3が追っかけてるわよん。」


コンガラ「……その2は?」


ヘカーティア「今喋ってるのがその2よん。その1は魔理沙の家にお邪魔してるわね~。まあ核はここに置いてるけど。」


コンガラ「どうやったらそれだけのことを同時進行した上で暇になるんです……」


ヘカーティア「どうもこうも、三つのこと同時に考えれるんだから仕方ないのよん……しかも全部暇なこと。」



幻想郷の魔法使いと話しつつ、遠目に従者を見守りつつ、さらにコンガラと雑談を交わす。

一つの魂で三つのことを同時に行うという芸当からはヘカーティアがいかに飛び抜けた存在であるかが垣間見えるが、ヘカーティア自身にとっては深層心理の領域で造作も無くできることであり、コンガラをしても驚きを隠せない。



ヘカーティア「あ~……何か面白いことは無いかしらねん……」


コンガラ「とりあえず酒でも入れましょうか。」


ヘカーティア「そうそうお酒と言えば魔理沙ったら酷いのよ!」


コンガラ「!……?」



ヘカーティアの口数が少なめだと、コンガラが内心ほっとして酒を注ごうとした瞬間、ヘカーティアが突如声を荒げる。

ヘカーティアを落ち着かせるつもりが、喋りのスイッチを入れてしまったことに唖然とするコンガラ。



ヘカーティア「前にお酒を持って行ってあげたのよ。」


コンガラ「いつの間に……」


ヘカーティア「……そしたら何て言ったと思う?!」


コンガラ「それは……」


ヘカーティア「『美味いが……勇儀に飲ませてもらったやつの方が美味かったぜ』……なーんて言うのよ!?酷くない!?そもそも誰よ勇儀って……」


コンガラ「落ち着いてください、ヘカーティア様。……確か…その勇儀という者は知り合いですが、彼女の注ぐ酒は私の知る中でも群を抜いて上質でした。」


ヘカーティア「ありゃ?コンガラちゃんの知り合いだったの?」


コンガラ「はい。旧血の池地獄と旧灼熱地獄の処置を決めるために一度旧地獄の方へ参った際に知り合った鬼の一人です。」


ヘカーティア「鬼ねぇ…」


コンガラ「いっそのこと旧地獄へ行ってみてはいかがでしょう?私の紹介で、ここでは飲めない上質な酒が飲めるかもしれません。」



巧みに話を誘導し、ヘカーティアが興味を示しそうなものを示す。



ヘカーティア「……ちょっと待って。」


コンガラ「は…」


ヘカーティア「体その1が魔理沙から面白いことを聞いたみたい。」


コンガラ「それはそれは………素晴らしいですね。」(いろんな意味で)



ヘカーティア「ふーん……コンガラちゃん、魔界って知ってる?」




1 / 7