愛しき日々

アトムハート水素ポン
@mugi071344

へし切り長谷部は忠義を尽くす

へし切り長谷部一人称視点の主を取り巻く複雑な事情、そして「三日月宗近」の話と、ある予感の話。主、長谷部、燭台切光忠、加州清光、大和守安定。


 

 我が主は、控え目に言っても優秀な審神者である。

 一般には幼少の折りに審神者としての能力の兆しがある方が、能力者としては優秀であると言い伝えられている。主は審神者としての兆しが現れることなく過ごし、我々刀剣男士と審神者を統括する「時空管理庁」に配されて後方支援に励む中で、力に目覚め、今に至っている。成人後の審神者が極端に少なく、能力的には劣るとされている中でも、主の手柄は群を抜いている。

 かつてこの国で活躍した偉大な審神者の名前を継いだお方のお側で勤めを果たせることは、私だけでなくこの本丸に集うものたちの誉れでもある。


 だが。その主は、近頃ひどく塞ぎこまれる日がある。今日も例外ではなかった。普段はもっと穏やかで、明るい表情が疲労と苦悩に曇るのは、主お世話係としての力不足を痛感する。俺一人の力不足であれば良いのだが、今主が悩まれている問題は、この本丸全体の問題であるからだ。


「長谷部の旦那、今日は主と一緒じゃないのか。」


近侍台から戻る途中、声をかけてきたのは薬研藤四郎だった。


「主は鍛刀の組合わせの研究をされるおっしゃって、先程近侍台にお入りになられた。急ぎの用がなければ、今日は人払いをとのことだ。」


「人払い、なあ。相変わらず政府のお偉いさんも人が悪い。大将ひとりに丸投げとはな。今の面子でだって戦績はあげてるだろうにさ。」


 少年の面影が残る顔で辛辣な言葉を吐く薬研が苦手な政府の面々を思い出して、俺は苦笑した。我々が外見通りの歳の人間であると誤解する連中が多すぎる。だが、薬研の言う通りのことばかりでもない。


「主が、『朔』の血筋に連なるお方でなければ、これほどの重荷を背負わされることはなかっただろう。・・・これは主に責はない。」


「わかってるよ。それがわかってるから、自分が情けないんだ。俺だって、気にかけてねーわけじゃない。なんとか見つけて、大将の手柄にしてやりたいよ。」


 刀剣男士と審神者の任務は、時間遡行軍との戦闘だけではない。鍛刀や遠征先で発見される刀剣から新たな刀剣男士を顕現させること。亡くなった祖父の審神者としての名前を与えられた主の働きに箔を付け、刀剣男士否定派の声を押さえ込み、審神者・刀剣男士の士気効用のために神格化するために

下された命令が、天下五剣が一振り、三日月宗近の顕現だ。

 馬鹿げている、と思う。主に過去の英雄の姿を投影させ、守り刀まで同じにさせることで自分達に都合のいい人形作り上げていこうとしている。

 主ほど力があれば、そのような下らない命には従わないことも出来たはすだ。だが。あのお方は、その命を承諾したこと告げると、こうもおっしゃった。


「断れば、時間管理庁は・・・いや、政府はどのような形でこの本丸に圧力をかけるかわからないでしょう。目的は、ここを潰すことじゃない。私ー『朔』に要求を呑ませることよ。」


「主は、要求をのまれるおつもりですか。」


「表向きは。ただ、あいつらのお飾りになってやる気はさらさらない。結果を出したら、しっかりケリ付けさせてもらう。」


 今剣や小夜三文字を相手に見せる穏やかな表情ではなく、我々と同じ戦場に向かう者の表情だ。こうなったときの主は、言葉だけでない勇ましさを感じる。そして、我々共に戦果を手にして来た。


「楽ではない道ばかり通らせて済まない、長谷部。でも、ここで折れる訳には行かない。あいつらに教えてやるんだ。お前たちが求める審神者の『朔』は過去にしかいない。今目の前にいるのが誰なのかをわからせてやりたい。」


「・・・存じております、主。我々が忠義を尽くすのは、主のみ。」


 身勝手な理想を重ねて見てはいない。どんな不利な状況でも、我々を力付けるあなたがあってこそ。


「まったくだな。我々は『朔』の名に惹かれたのではない。主だからこそお仕えしている。」


「ほんっと旦那は忠臣だよな。・・・ま。それもいいけどよ。たまには肩の力抜いて、大将甘やかしてやるのはどうだ。」


「なんだそれは」


「忠臣で働き者だけど、カタブツすぎるとおっしゃっていたぞ。さっき頼まれもの届けた時に、な。」


じゃ、とひらひらと手を振って去っていく薬研見送りながら、俺はしばらく立ち尽くした。・・・主。この長谷部になにをお求めでしょうか。

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