スカーレット.2

めめ子🐷@只今ライベル原稿完成までお休み
@memekodayo1

再会.16 ライナー編

ライナーは肩越しに振り向いた。悠然と佇む金髪の男とその背後で怯えたような目でこちらを見詰めるかつての『相棒』の姿が遠のいて行く。両脇にいる警察は無表情で無口だ。両手に重い枷を嵌められた。


ベルトルトが病院の6階から転落し、次に狙われたのはライナーだった。だが、それを逸早く予期した兵長によって、難を逃れた。その後家に押し入ったミカサそっくりな女とアニがタイマンを張り、前者が重傷を負った。

『エルヴィン団長!こいつを連れて行きます!あんたが何を考えてるのか知らねぇが、今回の件はどういうつもりですか?あんたがこいつに異常な気持ちを抱いてるって事は解ったが…。何で俺たちに一言の説明も無しに、こんな事したんだ?挙げ句、兵長に教えてあったホテルとは、別の場所に移動してやがる。どうりで探しても見付からねぇわけだ』

団長が片手を差し出すと、ベルトルトに腕を振り払われ、熊のぬいぐるみを拾い上げ逃げ、彼の背へと隠れた。

『ベルトルト、どうしたんだ』

エルヴィンはキッチンテーブルの下に隠してあった銃口をこちらに向けた。

『おいおい。勘弁してくれよ。今度は何の真似だ?』

『不法侵入者に銃口を向けるのは当然の事だ』

『あんた、意味解ってやってんのか?それどころじゃねぇんだよ!』

悠長な事をしている暇は無かった。アニがやられた。間違い無く『敵』は一人づつ104期を消していくつもりだ。

『いいや、出て行きなさい。ベルトルトの保護者は私だ。私には、彼を危険から護る義務がある』

ライナーは特徴的な眉毛を跳ね上げた。

『は?危険ってのは、俺の事か?』

『他に誰がいるというんだ?』

やはり以前の世界から第13代目調査兵団団長は喰えない男だった。無表情無感情の仮面を被った策士だ。そんな彼がこの現状を理解出来ていない筈が無い。なのに…。

『アニがやられた!あんたも知ってんだろ!こんな事してる場合じゃねぇんだ!協力して『敵』に立ち向かわねぇと、皆やられちまう!』

喰えない男は水色の双眸をすっと細めた。

『君の言う『敵』とは、誰の事だ?』

『そりゃ『仲間』を狙ってる奴等に決まってんだろ!』

『そうか。なら、帰りなさい』

『は?』

『ここに『君の仲間』はいない。立ち去りなさい』

突き放すような淡々とした押し問答に、あまり長くも無い堪忍袋の尾が切れた。

『ベルトルトは俺の『相棒』で『仲間』だ。ベルトルトも狙われてるとすりゃ、偉そうは事を言って申し訳ないが、『ただの人間』のあんた一人じゃキツいんじゃねぇのか?あんたはベルトルトが狙われてると知ってたから、引き取って面倒看てたんだろ?兵長から聞いた。ベルトルトは誰よりも高い能力の持ち主だ。そんなヤツがいりゃ『敵』も邪魔だ。ベルトルトから狙うのは当然だ。そんな事も知らず俺はのうのうと生活していた。…団長、あんたには、本当に世話になったと思ってる。けど、これからは俺たちがいる。エレンや他の仲間たちにも、兵長が説明してる。俺たちは協力して『敵』に立ち向かう!逃げてばかりじゃ始まらねぇからな!『敵』の居場所を突き止め、こちらから仕掛ける!ミカサがいない今、ベルトルトの力は必要だ!敵は104期の上位から順番に狙ってきてやがる!幸い俺は兵長と一緒だったからな。何とかなったが、今度はアニは重傷だ。今の俺なら、ベルトルトを護ってやれる!この命に代えても、必ず護る!』

しぃ…んと鎮まり返った。

喉が異様に渇いていた。こうしてる間にも虎視眈々と『仲間たち』に『敵』が迫っているのかと思うと、いてもたってもいられない。

エルヴィンが背後で震えるベルトルトに肩越しに振り返る。

『そこの部屋に入って内側から鍵を掛けなさい。私がいいと言うまで、出て来てはいけないよ』

『…うん』

ベルトルトはエルヴィンの言い付け通り、すぐ傍の扉を開け、中へと駆け込んだ。内側から施錠の音がする。

『ベルトルトは君たちを護る為に、病院の6階から落ち、頭を強く打った後遺症で幼児退行している。あまり怖がらせないでくれ』

幼児退行。

足下に転がる壊れたトーマスの玩具を見て、舌打ちした。

『お気に入りの玩具だったのに。残念だよ』

トーマスの玩具には見覚えがあった。一度エレンとベルトルトの実家を訪ねた際、エレンの部屋にあった玩具と良く似ている。誕生日に兄が両親から貰ったプレゼンを弟が欲しがったのだそうだ。兄はそれを弟に譲り、弟がその玩具で遊ぶ様を後ろから見ていた。エレンはそれを今も大切に取ってある。

ライナーは胸が詰まる思いで、息を吐き出した。

エレンもベルトルトも、このままで良い訳が無い。

『団長、ベルトルトは大丈夫だ。今はあんなだが、正気に戻してみせる』

『その必要はない』

『?』

『彼はあのままで構わない』

何度か瞬きを繰り返した。

この目の前にいる元団長エルヴィン・スミスという男が理解出来ない。彼の狙いが何か判らない。

『あんたが良くても、俺たちはそうはいかねぇんだよ!』

『いいや。彼はあのまま私の傍に置く。正気に戻す必要性を感じない。正気に戻してどうするんだ。また危険な目に合わせるのか?私の傍が一番安全だ。それに…。元に戻そうとして戻るものでは無い事は知っているはずだ』

彼の言い方は、まるで…。

『……。エルヴィン団長、あんた…、いったい…』

ライナーは目の前の男から薄ら寒いものを感じた。

『リヴァイの予測はあながち間違いでは無い。私は彼を『敵』から護る為に、保護していた。だが『敵』もなかなか強力だ。だからこそ、『敵』を『殲滅』する事に決めた』

『殲滅?』

『あぁそうだ。効果的且つ効率良く殲滅する方法を思い付いたんだ』

『どんな方法だ?』

エルヴィンは銃を降ろし、肩で笑い出した。

渇いた空気が流れ、奇妙な感覚に苛まれる。前も見えない暗闇の中、細い糸の上を歩いているような。一歩間違えれば、奈落の底へと落下する。互いの緊張感故なのか、危うさを感じた。

『ふふふ…。ふふ…。はははは!君は何を言っているんだ!愉快だよ!ライナー・ブラウン君!』

『…は?』

『いや、…ふふ…。構わない。そうか…。まぁいい。私の手の中にベルトルトがいる。それだけで充分だ。君は今、私が警察に通報すればどういう事になるか判っているのか?』

不法侵入という事は重々承知していた。

しかし、これもベルトルトを早く他の仲間たちの元へ連れ帰る為だった。ベルトルトとエルヴィンの二人にさせるのは危険過ぎる。もし『敵』に狙われれば、取り返しの付かない事態に陥ってしまう。

ライナーは内心エルヴィンを信じていなかったのかもしれない。ミカサそっくりな女の実力を身を以て知り、ベルトルトをエルヴィン一人に任せておけるはずがないと思っていたのかもしれない。それに…。ベルトルトを護るのは、他の誰でもなく、この俺だ…という自負心があったのは事実だ。

『……。おい、団長さんよぉ…。変な気ぃ起こしてんじゃねぇだろうな?』

『とにかく御引き取り願おう。ベルトルトは大丈夫だ。私が護る』

『そういう問題じゃねぇ!『敵』がミカサとそっくりな面をした超人的力を発揮するヤツなんだぞ!エレンたちと協力する事が大切だ!』

『全くもってその通りだ。君の発言はとても理にかなっている。さすがだな』

ライナーは嫌な汗を掻き始めた。

目の前の男が掴めない。

彼はまるで拍手でもしそうな勢いで、実に嬉しそうだ。

『しかし、君もお人好しだ』

『何だ』

『エレンは君の『敵』だったはずだ』

『今と昔とじゃ、現状が違う!』

『そうだ。確かに違う。ベルトルトが君の『相棒』だったのは昔の話だ。今は違うはずだ』

『あぁ、出会うのがかなり遅くなっちまったが、やっぱりあいつは俺の『相棒』だ。俺はあいつをずっと探してたんだからな!』

『ライナー、何も犠牲にせず、ただ欲しい物だけを全て手に入れる事の出来る人間などいない。いたとしても、それは視えない何かを犠牲にしている。君も、ベルトルトに会わなければ『幸せ』な人生をおくれた』

・・・。

『団長、それ以上言うと、いくらあんたでも許す訳にはいかなくなるんだが。あんたは知らねぇだろうが、俺はベルトルトがいねぇせいで、結構大変だったんだ。幸せなんて、とてもじゃねぇがいえる訳がねぇ』

『そうか。食べる物も着る物にも困らず、それが欲しいと泣き喚きダダを捏ねる子供。それがこの世界での君の正体だ』

図星を突かれ、言葉を無くした。

エルヴィン・スミスは人の本質をも良く理解している。

確かにライナーは、ベルトルトがいない喪失感に押し潰され、一人塞ぎ込んでいた。それをどうにかする為に動いたのは両親だった。その両親も、今はこの世にいない。

『…。あんた…。…俺を見張ってたのかよ』

『君だけでは無いよ。仕事柄、私は君たち全員を見張っているよ。判る範囲内で…だが』

『…。あんた…!』

この男は危険だ!

ライナーは本気でそう思った。

ベルトルトをこいつから引き離すべきだ!…と。

こいつは流され易いベルトルトに『良く無い影響を与える』と確信した。

冷や汗が背中を伝う。

そんなライナーの警戒心を知ってか知らずか、元団長はテーブルに銃を置いた。ベルトルトの入って行った部屋の扉を二度ノックして、声を掛ける。

『ベルトルト、鍵を開けなさい。この男が君とお話したいそうだよ』

ガチャリ…と施錠が外れる音がした。

『さぁ、ライナー。彼と話をしなさい』

『…。』

本当に、このエルヴィン・スミスという男が何を考えているのか、全く判らない。悠然と笑う彼にある種の恐怖のようなものを感じた。彼には、何かある。そう思わざる負えない。

動物的勘に従うのであれば、こいつは紛れも無く『敵』だ。

部屋の扉を勢い良く開けると、ベルトルトがテディ・ベアを両手に部屋の隅で震えていた。ずかずかと歩いて行き、その腕を掴む。

『ひっ!』

『おい、行くぞ、ベルトルト。こんな処で震えてる場合じゃねぇ!』

『…い、いやだ…!エルヴィン助けて!』

必死に二体の熊の縫いぐるみを胸に抱き、頑に首を横に振る。扉の向こう側から声を聞いたエルヴィンが姿をみせる。

『正気に戻れ!ベルトルト!こんな処でお人形さんゴッコをしてる暇はねぇんだ!お前と俺が殺り損ねたあの女が、他の『仲間』たちに襲いかかろうとしてんだぞ!今度こそ、あの女を仕留めねぇと大変な事になる!アニがタイマン張って、危機一髪って処で俺が割って入らなきゃ、取り返しがつかねぇ事態に陥ってたんだぞ!』

『……。…あの女って…』

『ミカサにそっくりな、あの女だ!』

『…知らない…。知らないよ。…判らない。…た、助けて…!誰か助けて!』

『おい』

『…嫌だ。死にたくない!ライナー、アニ、助けて!』

涙をボロボロと零し、熊の縫いぐるみに必死に助けを求める親友。

ライナーはテディ・ベアと彼とを交互に見比べ、顔色を真っ青にした。彼の持つ縫いぐるみを忌々し気に掴むと、放り投げた。それは背後で床に転がった。

『…な、何するの?!返してくれ!』

彼の両肩を両手で掴む。

『いたっ』

『いいか?良く聞け、ベルトルト!ライナーは俺だ!あんな熊のぬいぐるみなんて捨てちまえ!そんな熊に何が出来るって言うんだ!俺はここにいる!俺がライナー・ブラウンだ!』

彼は揺れる眼でゆるゆると首を左右に振る。

『…う…そ』

『噓じゃねぇ!』

『……じゃぁ…なんで…呼んでも…来てくれなかったの?』

『!』

『……名前を…ずっと…呼んでた…のに。…さっきは…アニを…助けた…って言ってた…のに。どう…して、僕を…助けて……くれなかったの』

ピタリと動きを止めた。

聞いた話では、以前の世界でベルトルトは最期の瞬間ライナーの名を呼んだのだという。

『ベルトルト、そりゃぁ…』

彼の右手首の深い傷跡が目に飛び込んできた。命を絶つ為に刻まれた、痛々しい傷跡が彼の苦悩と絶望を示唆している。

ライナーは息を飲んだ。

『こちらへおいで、ベルトルト』

両腕を振りほどき、親友は床に転がる縫いぐるみを拾い上げ、エルヴィンの広げた両腕の中へ飛び込んだ。ガタガタと震え、まるで呪文のように唱える。

『…あれはライナーじゃないあれはライナーじゃないあれは違うあれは違う本当のライナーは優しくていつも僕の傍にいてくれるあれはライナーじゃないあれは別人あれは違うライナーはいつも僕の傍にいる僕をいつも助けてくれるあれは違う』

エルヴィンの手が彼の黒髪を優しく撫でた。

『よしよし、怖い思いをさせてしまったね。大丈夫かい?』

身を縮め首を左右に振る。そんな彼を痛ましそうな口調で宥めながら、もう片方の手を背に廻して擦ってやる。いたって冷徹な表情でこちらを見詰めながら。

『ベルトルト…』

『ライナー、そろそろ時間だ。やはり君にはベルトルトを護る事も、彼を取り戻す事も何も出来なかった。折角チャンスを与えてやったのに。本当に残念だ』

言い終わるや否や、部屋に警察が傾れ込んできた。

ライナーは銃を向けられ、手錠を掛けられる。

『その男は不法侵入の上に、私の子供まで攫おうとした。連れて行きなさい!』

何十人という警察に連行される。

『ベルトルト!どうしてだ?!正気に戻れ!俺だ!ベルトルト!!』

ベルトルトはエルヴィンの腕の中で怯えた双眸を向けるだけだった。

ライナー・ブラウンは人生で初めて留置所に身柄を拘束された。酷く困惑し、遣る瀬なさを隠しきれなかった。何故か一人部屋に入れられた。壁に背を凭れ、小さな窓の格子の隙間から青い空を見上げる。

エルヴィン・スミスが何を考えているのか判らなかった。

ベルトルトに忘れられてしまった事がショックだった。まさか、あそこまでとは…。彼をあんな風にしたのは…。他でも無い、ライナー自身だ。自らの手の平を見詰めた。


ベルトルト、どうしてあの時手を離したりしたんだ?

どうして俺はあの時、あいつの手を離したりしたんだ?

また、護れないのか、俺は。


今度こそ彼を護ると決めていた。

なのに…。

なのに…。

ベルトルトのあの怯えた双眸が忘れられない。

ライナーは、彼と共にもう一度過ごしたかった。あの時のように傍にいて、一緒に笑いあうだけで良かった。巨人の恐怖も使命も無い豊かな世界で、二人、幸せに暮らしたかった。ただ、それだけで良かった。

「…それも、叶わねぇのかよ…。…ベルトルト…」

「おい、出ろ」

4日後の事だ。牢屋の扉を開けられ、ライナーは訝し気な目を向けた。小首を傾げると、鍵を持った警察官に首で早く出るように促される。手錠を解かれ、衣服と持ち物を返された。案内された先には、目の大きな小柄な男と頬にそばかすを散らせた女が挑戦的な微笑を漏らしていた。

「ライナー!」

「よぉ…」

「お、お前等、何で来たんだ?」

ユミルが両肩を竦め、エレンを横目で見る。

「こいつの異母兄弟に、お前が掴まるって聞いてたから、保釈金用意して来たんだよ。ま、このままお前等が負けても良かったんだが…。私もクリスタの為に一応協力してやろうと思ってな」

「お前、相変わらずだな」

失笑すると、エレンに「行こうぜ」と促され、そのまま留置所を出た。三人で歩きながら、久しぶりの娑婆の空気を杯一杯に吸い込んだ。

ユミルがじっと覗き込み、ニヤリと笑う。

「その様子だと、ベルトルさんは失敗したんだろ?」

いったい何処まで知ってるんだという言葉はこの際ナンセンスなのかもしれない。エレンの異母兄弟のジークはかつての世界での戦士長だ。彼は巨人の力で未来を視る事が出来る。ただし、寿命と引き換えだ。

「あぁ。お前は、全部知ってるんだな。ユミル」

「大抵の事は判るが…。ジークによると、未来が判らない事があるらしいぜ?選択の連続で未来が変わる。ある人物がどういう選択をするか、その人物にどういう選択をさせるか…で未来が変わる。だから、この先の結末をジークも未だ判らねぇらしい」

「は?俺には俺が負けるって言ってたじゃねぇか!」

エレンが抗議の声を上げて割り込んでくる。

ユミルのエレンを見る目が厄介者のそれだ。

「私等104期が負ける未来は用意されてるんだよ!だから私はこっちに帰って来たくなかったんだ!なのに…」

口籠る彼女のその先を、ライナーもエレンも何とは無しに理解した。

彼女が身の危険を犯してでもこの国に帰って来た理由は、一重にクリスタことヒストリア・レイスに危険が迫っているという事だ。

「お前等、今日、うちに泊まってけ」

ユミルの申し出に頷こうとすると、またエレンが割って入った。

「え?何だよ、それ。ライナーじゃあるまいし、チャンスがあってもお前を襲わねぇぞ?」

ライナーはエレンを殴っておく事に決めた。ライナー自身も大概デリカシーに欠けるが、エレンも負けてはいない。

ユミルが深い溜息を漏らす。

「お前等、私を一人にして、もしミカサそっくりのあの女が襲ってきたらどうすんだ。女の私をお前等男二人で護ろうって気はねぇのか」

ライナーはエレンと視線を交わし、頷いた。

あのミカサそっくりの女は危険だ。

「あぁ、そうだな。あの女は危険過ぎる。俺とベルトルトでも敵わなかったんだからな」

思い出しただけで冷や汗が出てくる。

病院の6階から落ちても、ミカサそっくりの女は無事だった。超人的能力の持ち主だ。

そこまで考え、ふ…とある事に気付いた。

超人的能力は、前の世界で巨人だった者のみが持ち合わせる能力だ。という事は、あのミカサそっくりの女は、元巨人という事なのか。今までミカサそっくりの女とミカサを混合し、外見に騙され、普通の人間だと思っていた。だが、よくよく考えてそんな事はあり得ない。

「あいつ、何でミカサそっくりなんだよ…」

「んなもん単純に考えて、整形だろ?」

「!」

ユミルの言葉に二人は立ち止まった。

彼女は首を左右に振った。

「他に何があんだよ。ミカサそっくりだからって、ミカサじゃねぇんだろ?じゃ、整形に決まってんじゃねぇか。あいつの生き別れの兄弟じゃなきゃ、それしかねぇよ。ドッペルゲンガーなんて言う奴はミステリーかホラー小説の読み過ぎだ」

「そ、…そうか…。…でなけりゃ、そっくりな奴なんて…いるわけねぇよな」

「ああ。まぁ…数万人に一人の割合でそっくりな野郎がいるらしいが。そんな偶然あるかよ」

ライナーは、そう言われてみればそうだと思った。

実際、妹のアニは超人的能力を発揮し、以前以上の対人格闘を行える。なのにも関わらず、あのミカサそっくりの女に窮地に追いやられた。その時ライナーが間一髪間に合った。だが、それも偶然では無い。

アニは以前の世界と同様の能力を持っている。

それは『仲間を呼べる』のだ。

ライナーにはあの時、彼女の苦しい息遣いがハッキリと聞こえた。

そう…。

この世界に偶然とは、片手で数えられる程度しか無いだろう。

「いいか?私が協力出来るのも、恐らく今日までだ。明日になれば、また状況は変わる。私は、お前等の前に二度と姿をみせられねぇようになるかもしれねぇ。金まで使っててめぇを汚ねぇ留置所から出してやったんだ!その恩に報いろよ!ライナー!てめぇの命に代えてもベルトルさんを取り戻せ!それか、正気に戻せ!そうでないと…」

彼女は一旦言葉を切って、低い声で続けた。

「大変な事になる」

翌日、彼女は新聞を見るなりアパートから出て行った。それが、ライナーとエレンの見た彼女の最後の姿だった。

「あれ?ライナー、携帯は?」

エレンに指摘され、持っていたはずのそれを探す。

留置所では全ての荷物と衣類を没収されるが、釈放される際返却される。よく考えると、その荷物の中にさえ携帯は無かった。

と言う事は…。

ライナーは舌打ちした。

「…あの野郎…」



※ようやく時間軸が繋がった…かな??

※ユミル、金まで出してくれました。爆死。利息の話は後ほど;;