月が綺麗ですね

ゆ吉
@poko_dom

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「そういえば、夏目漱石が『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳したとかそれが本当かどうかは知らないが、そんなこんなであなたなら『I love you』を恋とか愛とか好きとか言わずどう訳しますかとかいうのがあったね」


「この時代の人って和歌でうまく表現しますよね」


 そんな花梨の一言から、ふと思い出した、どこかで流行った言葉遊び。

「へぇ、素敵ですね!普通に考えると、『私はあなたを愛しています』なわけじゃないですか」

「まあ、直訳だけどね。だからこそ、じゃあどうするかって話になるんじゃない?」

「うーん、思いつかないなぁ」

 花梨の様子に微妙が浮かんだ。

 過去に幾度と詠んだ歌は、もしかするとそんな言葉遊びに近かったのかもしれないなと思いながら。

「ヨウさんなら、どう訳します?」

 和歌はかつての地の白虎に習った。それ故に今の想いを和歌にしろと言うのなら適当に即席で作ることも可能だが、これはむしろ現代語訳というべきか、問われて目が丸くなる。

「まあ、自分にあった表現でいいんじゃないかな?君が、君らしく」

「えー?だって好きって気持ちならやっぱり好きって言っちゃうじゃないですか」

 現代高校生らしさに思わず頰がほころぶ。今時の、女子高生なのだ、彼女は。

「ヨウさんなら、どう訳すのか、一言っ」

「うーん……まいったなぁ」

 扇で口元を隠す。考えたこともなかったなと。

「そうだな……『甘えても、いいですか』……かな。私は、昔からそれがうまくなくて、何度も苦笑しながら窘められたっけ」

 胸の痛みを鎮めつつ、そう呟いた直後。

「おや、随分と愛らしいことを言う」

「っ!?」

 びくんと体が震えた。

 花梨との他愛ない会話に思いの外のめり込んでいたらしい。或いは、真剣に考えていたのか、足音に気づかず、耳元で囁かれた一言に心臓が跳ね上がった。

「あ、翡翠さん。いらしてたんですね」

「ふふ、今し方着いたところだよ。何やら楽しそうな話をしていたように思うが。ヨウ殿にそう言われてしまったら両の腕を広げて待ちたくなってしまうかもしれないね」

「思ってもいないことを言うっ」

 恥ずかしくなって赤くなった顔を扇で隠しながら精一杯怒鳴る。

 記憶が、想い人と混線したなどと認めたくなくて頭を振る。

「翡翠さんならきっと、他の言葉で言えるんだろうなぁ。そう思いません?」

「花梨ちゃん、相手が悪いな。ろくでもないこと言うぞ」

「おやおや。先ほどの愛らしさは何処へやら。相変わらず、手厳しいことだ」

 憎まれ口を叩かなければ余計なことを口走りそうで、それでもそう思ってしまうのはかつての想い人と彼が瓜二つなためだ。

「『あなたを愛しています』というような、想いを伝える言葉を、愛してるとか、好きとか恋とか、そういう直接的な表現を使わずに自分ならどう伝えるかって話なんですけど」

「花梨ちゃんっ」

「そうだねぇ」

 花梨からすれば、慣れた男の言葉を聞いてみたいと言う興味本位でしかなかったのだろう。

 ヨウは深々と嘆息し、熱くなった顔を扇で仰ぐように軽く手を動かしながら視線を逸らした。

『熟れた耳朶に唇を寄せたいね』

 熱い吐息が耳にかかる。

 囁かれた言葉に体は再度震えた。


 違う。

 違うはずなのに。

 この男は絶対私の反応を楽しんでいるだけなのだ。


 それでさえもかつて愛した人のようであると、認めたくなどないのに。


「大っ嫌い……っ!」

「それはある意味、逆説的な表現なのかもしれないよ」

 まるで毛を逆立てて怒る猫のように警戒心を露わにしたヨウに、くすくすと翡翠は笑う。

「もう、翡翠さん何を言ったんですか?」

「さぁ、ご想像にお任せするよ」

 髪を指で玩びながら、神子の言葉にそう笑う男にねめつけるが、彼は何事もなかったかのように笑うまま。

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