ダーボク50音小説

💸ぴかたそ💸
@pika_con0603man

【か行】

『カップルデー』※ボクちゃん片想い気味

「カップルデーで割引となります」

受付の若い女性がそう言って機械のように淡々とレジを打ったので僕とダー子はお互い顔を見合わせた。

カップル。そうか、僕ら二人は他人からはカップルと思われているのか。

僕は受付の女性に申し訳なさそうに「あの」と間違いを訂正しようとしたが、それはダー子によって阻止された。

驚くことにダー子は女性の目の前で突然僕の腕をギュッと掴んできたのだ。

そして猫なで声で「ね、お願いダーリン。お金払っておいて~」とわざとらしく言ってくるので僕は恥ずかしくなって、早くこの場から立ち去らなければと思い財布から手早く合計分のお金を出した。

チケットを二枚貰い、まだ腕から離れる気のないダー子を引きずりながらチケットをスタッフに渡してシアターに入った。

そしてチケットに書いてある席を見つけ、腰掛ける。

「おい、どういうつもりだダー子」

腕を掴む力が更に強くなっているのを感じながら、僕はダー子に問い詰めた。

「どうもこうもないわよ?」

「僕らはカップルでも何でもないだろ!

カップルデーの割引で入るのはおかしい!」

「相変わらず真面目ちゃんね。

いいじゃない、通常より安く入れるんだから。」

そうは言っても、僕はなかなか納得できなかった。

その様子をダー子は察したのか、ため息を一つついて体重をこちらへと預けてくる。

「今日だけカップルってことなら、いいでしょ?」

「え?」

「私たちは、今日だけカップル。

だからカップルデーの割引で入っても何も問題ない。

そして、明日には別れちゃうのよ。」

それでいいでしょ、とスクリーンに繰り返し流れ続けている広告映像をじっと見ながらダー子は言った。

それはそれで悲しくないか、と思ったがそれを口に出してしまえば更に面倒くさいことになりそうだと思ったので大人しく納得することにした。

つまりはこの曜日にまた二人で映画館に来れば、また一日だけカップルになれるということなのか。

ふと脳内をよぎった思考を我ながら気持ち悪いと一蹴し、まだ離れないダー子の手をちらりと見た。

いつかこの手を、この映画館以外で僕から堂々と掴める日が来るのだろうか。

やがて会場は真っ暗になり、僕とダー子のお気に入りの映画が始まるのだった。



『金曜日』※付き合ってる。逃〇恥ネタ。

「ボ~クちゃん。今日は何曜日でしょうか。」

いつも通りボクちゃんがとあるホテルのスウィートルームのドアを開けると、待っていたかのようにダー子が行儀よく玄関に立っていた。

「あー、分かった分かった…」

おもむろに顔を近付けてくるダー子にボクちゃんは厄介そうにしながらも、その唇にそっと口付けをした。

ダー子とボクちゃんは、こうして毎週金曜日にキスを交わすことを決めている。

きっかけはボクちゃんがファンだという某女優が主演のドラマのDVDをダー子に貸したことだった。

以前、原作の漫画を貸したことはあったがドラマを見たことで更にダー子の熱は増してしまったようだ。

私たちも金曜日にキスすることにしようよ、と突然ダー子が言い出すのでなりたてではあるが一応彼氏であるボクちゃんは渋々その提案に乗ることにしたのだ。

「というか、なんでキスなんだよ。

原作はハグのはずだろ?

金曜日である意味も分からないし。」

ボクちゃんにキスをされて満足そうにするダー子を横目にボクちゃんは言った。

もうこれで3回目の金曜日だが、なかなか慣れずにボクちゃんはつい照れてしまう。

「だって、ハグなんかいつもしてるじゃない。」

「キスもしてるだろ。」

「最近は控えてんのよ。金曜日のために!」

言われてみれば確かにリチャードや子猫がいるいつもの日での熱烈なキスは最近無くなっていた。

ダー子はダー子なりに金曜日を楽しみにしているようだ。

「じゃあ、金曜日の理由は?」

「『華金』ってやつ?

平日がやっと終わったって感じがするから幸せになるじゃない?」

平日も休日もお前には関係ないだろ、と口を挟みたくなったがダー子の自由さを知っているボクちゃんはそのまま黙っておくことにした。

「はぁ~今週も疲れた疲れた!」

「今週は珍しくコザカナ釣りいっぱいしてたもんな」

「金曜日があるって考えてたら頑張っちゃったのよ。

ほら、こんな健気で可愛いダー子ちゃんを褒めて!」

ぎゅっとボクちゃんの身体に力強くしがみついてくるダー子を普段なら冷たくあしらうが、確かにダー子が頑張っていたことを知っていたボクちゃんは仕方ないなと優しく受け入れその小さな頭を撫でた。

珍しい反応に動揺しているのか、それともただ単に楽しんでいるだけか分からないが、ダー子は顔をグリグリとボクちゃんのお腹に擦り付ける。

「ダー子、くすぐったい」

「ほれほれ、もっとやったろうかぁ」

『金曜日』という言葉の魔法は非常に恐ろしいな、とボクちゃんは痛く感じながら幸せそうに笑うのだった。




『くしゃみ』※ロマンス編ネタバレ

今まで静かにオサカナ釣りのための資料を読みこんでいたダー子が突然ハクション、と勢いよくくしゃみをしたので、向かいに座って一緒に資料を覗き込んでいたモナコは驚いてビクリと肩を揺らした。

「師匠、お風邪ですか?」

「んー…そんな感じじゃない、と思うけど」

「もしかして…誰かが師匠の噂してるかも!」

手のひらをポンと叩いてモナコはダー子の方へ顔を近付ける。

全ての動作が可愛いなと思いつつも、ダー子はふっと笑った。

「あら、光栄ね。赤星さんとかかしら?」

「いえ…これは……ボクちゃんさんです!」

モナコがいつぞやの占い師姉妹の妹のように手を重ねてはしゃいだ様子で言う。

それを見たダー子は「それは本当なのかしら、ヒカル子」と姉のつもりでモナコのノリに乗った。

「はい。しかも…

お姉様に告白しようとしていますわ!」

「告白?」

「リチャードさんでしょうか…誰かに相談してるみたいです!

今からボクちゃんさんがここに来るかも!

あっ、私隠れてないと!」

モナコは「きゃー!」と高い声を出して完全に興奮状態になっていた。

もちろんモナコは自分の妄想で適当なことを言っているだけである。

すると次いでダー子はお腹を抱えてはははと笑い出した。

「ボクちゃんが告白だなんて、そんな男らしいことできるわけないわよ」

「そうですか?でも、香港で…」

「あれは「演技」って体でやってたからできただけ。

ボクちゃんには本気の告白なんてできっこないわ。」

そう話すダー子はまるで、ボクちゃんの気持ちを全て知っているかのような口振りだとモナコは思った。


「ヘックション」とボクちゃんがくしゃみをしたのでリチャードは心配そうに顔を覗いた。

「ボクちゃん、風邪かい?」

「いや…風邪ではないと思うけど…」

モナコがダー子の部屋で盛り上がっていたその頃、とあるカフェのテラス席でボクちゃんとリチャードは何やら会議のようなものをしているようで、向かい合って座っていた。

「そうそう、だからねボクちゃん。あれよりももっと大きな動きをつけて…」

「だからあれは演技だったからだって!」

ボクちゃんが反論するとリチャードはわざわざ立ち上がり「どんなのだったかな…あぁそうだ、確かこう…」と香港でのボクちゃんの告白の演技を身振り手振り真似して面白そうにケタケタと笑った。

「もういいだろ、あんなのクソ演技だ!

そうじゃなくて、初めからちゃんとどう伝えればいいのか真面目に一緒に考えてくれよリチャード!」

モナコの占い通り、本当に告白の相談をしていたボクちゃんはリチャードに向かって両手を合わせて「頼む」と必死に懇願した。

「うーん、そうだね」

やっと席に着いたリチャードは、ボクちゃんの合わさった両手を上からそっと握って、優しい声で言った。

「ボクちゃんが思っている全てを、素直にぶつければいいだけだと思うよ。」

「僕が思っている全て…?」

「いくら「クソ演技」だからと言っても、あの台詞の全てが嘘ってことではないだろ?」

「………」

ボクちゃんはいざ言葉にされると恥ずかしくなってただ俯くだけで何も言えなかった。

確かに言われた通り、あの台詞が全て嘘だということではない。

むしろ割と本心を言った方だ、とボクちゃんは思う。

続けてリチャードは言った。

「だから、あまり深く考えることはないよ。

その場で、自分の想いをぶちまけてしまえばいい。」

リチャードは改めてギュッとボクちゃんの手を握り直してボクちゃんの目を真っ直ぐ見つめた。

と思いきやすぐにパッと手を離してまた席から立ち上がり「ま、あの動きは絶対にやった方がいいと思うけどね」とまたボクちゃんの真似らしき動きをわざとらしく大きくした。

その様を見て呆れたボクちゃんだが、リチャードの助言には納得できたので感謝を述べてボクちゃんも席を立った。

「もういいのかい?」

「うん。リチャードの言う通り、素直にそのまま伝えることにするよ。」

そう言いながらさり気なくボクちゃんは財布から自分とリチャード、二人分のお金を取り出してテーブルに置き、リチャードと別れた。

ふと雲一つない青空を仰いで、一人ふっと笑ったボクちゃんはモナコが本当に隠れているとも知らずにダー子のいる部屋へと踊るような足どりで向かうのだった。



『喧嘩』

ボクちゃんと喧嘩した。

正確にはボクちゃんが一方的に急に怒りだした。

あんなに本気で怒ってるボクちゃんを初めて見たから、私は驚いていつもの調子で言葉を返すこともできなかった。

そのままボクちゃんは部屋から出ていってしまった。

「どんな話をしてたんだい?」

流石の私も困ってリチャードに相談したらそう聞かれたので「オサカナの相手を一晩したら大量に資金が増えた」という話をした、と言うとリチャードはやれやれと口元を歪めた。

もちろんいつもの冗談だったのよ、と言い加えると更にリチャードは目を優しく細めて笑った。

「ダー子さん。君はもう少しボクちゃんからどれだけ大切にされているのか、考えた方がいいね。」

そう言われて、ようやく状況を理解した。

私ったらそんなにボクちゃんに愛されていたのね。

言葉にしたら更になんだか嬉しくなって、口が緩むのを抑えきれずに声に出して笑った。

「ボクちゃんには私から説明しておこうか?」

「いや、いいわ。

きっと今回は私が行かないと戻ってこないだろうから、私が行ってくる。」

急いでそこらに脱ぎ捨ててあった上着を羽織って、勢いよく部屋から飛び出した。

きっとリチャードのことだから、私がただ単に今すぐボクちゃんに会ってイジりたいだけだと見抜いているんだろうな。



『コーヒー』※モブ女視点

驚かずにはいられなかった。

私が働いているカフェをいつもご贔屓にしてくれている某美人女優似の常連さんが今日一緒に連れてきたのは、某イケメン俳優似の男性だったからだ。

美男美女だが、カップルなのだろうか。

あまりの眩しさに二人の顔を直視できない。

そんな中早速美人女優似の女性に呼ばれた私はなるべく顔を隠しながらオーダーをとった。

「いつものコーヒーで。」

女性がいつも通りコーヒーを頼むと、今度は女性が男性に「何にする?」と聞いた。

男性はしばらく悩んでから「僕もコーヒーで」と頼んだ。

注文を繰り返し、失礼しますと厨房へ戻ろうとすると後ろから女性が「ちょっとすみません」と追いかけて声をかけてきた。

突然のことに私は声をうわずらせて返事をすると、女性はふっと綺麗に笑ったので思わず見とれてしまった。

「あとココアも頼んでいいですか?

お金はもちろん後で払いますけど、「常連へのサービス」って体で。」

小声でそう言う女性は「彼、見栄っ張りでコーヒー頼んでるだけで本当はココア飲みたいと思うんで」と私に説明した。

なるほど、そういうことか。

「それなら全然大丈夫ですよ」

「よかった、いつもありがとうございます。」

女性はまた私に向かって唇をほころばせたので、その美しさについドキマギしてしまいながらもこちらこそ、とぺこぺこ挨拶をした。

やっぱり付き合ってるのかな。お似合いだなぁ。

そんな余計なことを考えながら私は再び慌ただしい厨房へと戻ってコーヒー二つとココアという注文をマスターに伝えるのだった。

そのココアは、この後彼の目の前で彼女によってほとんど飲まれてしまうというイタズラに使われるとも知らずに。