ナンバーズーThe Story of Outside World

YSH@創作の倉
@YSH_createMW

・新世界の戸を叩く旅人(0ー4)

どこまでも広がる蒼天の下、ログレス大陸ハンター一行を乗せた船はとある港町の港に停泊していた。道中、大嵐や巨大水棲モンスターに襲われるといったアクシデントも特に無く無事に上陸することに成功したが、新世界の洗礼が待ち受けていると警戒していた一行からしてみればちょっとした海外旅行の様に平和ボケじみた渡航はそれなりに退屈なものであったようだ。


「やっと着いたか…。にしても結構賑やかなモンだな。」


先行部隊の面々が次々と新天地に足を踏み入れていく中、その殿にいたヨハネスも例に漏れずコンクリートで出来た港に足をつく。ルシェメル大陸の殺伐としたオーラからかけ離れた賑やかな雰囲気に少々驚いている様子すら伺える。


「よーしみんな上陸したな!?これからルルハ会長の支持通り各自散開して調査を開始する!くれぐれもみんな死ぬんじゃあないぞ!以上!」


身長くらいある片刃の無骨な大剣を背負う隊長と思しき大柄な1人のハンターが遠足の自由行動を告げる先生を彷彿とさせる声色で調査開始の宣言をする。各員軽く頷き5名のハンターは各々その場を後にするのであった。どうやらルルハからの司令は「情報収集の効率化を図る為、明らかに危険では無いと判断した後各々散開して調査に当たること。」のようだ。まだ見ぬ新天地の港でログレス大陸から派遣されたハンター達の調査任務が今開始された。


「さーて、とりあえずこの街について色々聞いてみるか…。話が通じればいいがな。ん、 ウェルカムトゥー…リース…?どうやら言語についての問題は無さそうだ。」


長い船旅に疲れたのかヨハネスは背伸びをぐっとしながら呟き、その時目に入った「welcome to Rith」の看板を見て積み重なる問題の1つが解決したようでほっとした様子を見せる。どうやらこの港町はリースと言うらしい。周りを見渡すと赤、白、緑の三色の中心に錨をあしらえる国旗らしきデザインが所々で散見される。港町ということで彼らが乗ってきた船以外にも金属製の小型船や幽霊船を彷彿とさせるような船舶も停泊しており、至る所で貿易が盛んに行われているようにも伺えた。


「こんだけ店が並んでりゃ本屋のひとつくらいありそうだな。そこで地図帳っぽいモン買うだけでも相当な情報は得られそうなんだが金がねぇ、まず金銭面をどうにかしねぇとな…。」


当然の事ながらログレス大陸から初めてこの地を訪れたヨハネスはこの地の通貨たるものを持ち合わせてはいない。情報収集するにしてもまず金が無ければ生活すらままならないだろう。自給自足をするにしてもこの港町ではなかなかそうもいかない為ヨハネスは今後の行動について思惑しながら賑わう港町を放浪するであった。


「オイオイあんちゃん、アンタ見ねぇ顔だな?旅のモンか?俺達金に困ってんだわ。ちょーっと面貸してくんねぇかな?」


途方に暮れるヨハネスに最初に声をかけたのは邪悪な笑みを零す2人組のゴロツキであった。人が集まるということはそれだけ治安を脅かす不穏分子も生まれるという事だ。怪我をしたくなければ金目のものを置いていけと言わんばかりにその2人はナイフの様な小刀をチラつかせる。

「はァ、ほんっと幸先の悪い。生憎この旅人のあんちゃんも1文無しでね。カツアゲしたきゃ他を当たるんだな。」


「そうか てめぇ1文無しかよそりゃぁ残念だ。そんなら身ぐるみ剥いで小遣いのタシにでもしてやるぜェェ!!」


深い溜息をつきながら面倒な様子でゴロツキ達を足蹴にするが逆にあしらわれた事に火をつけたのか2人組はヨハネスに白昼堂々襲いかかる。突然の暴動に驚いたのか偶然周囲にいた人々も彼らを円の中心に据える様に距離を置く。


「シャァァァ!オラオラオラァどーしたよォ旅人のあんちゃんよぉ!?!?」


野戦慣れした2人が織り成す小刀の軌道の猛襲を紙一重で難なく躱す。1人のゴロツキがヨハネスに目一杯の突きを放つがそれも片手であしらわれ逆にその突きはヨハネスに懐に入る隙を与えてしまう結果となる。その瞬間ヨハネスはそのゴロツキの両腕を掴み瞬時に彼の顎に膝蹴りをクリーンヒットさせる。完璧に顎に入ったのかそのゴロツキは口から微量の血を吐き出しながら糸の切れた人形の様に倒れ伏した。


「くっ…くそぉぉ!!!」


片割れが倒された事に激情したもう1人のゴロツキはヨハネスに向かい渾身の突進で刃物を突きつけ、それはヨハネスの頬を掠り血が滴る。その流血を一瞥するや否やよくもやってくれたなと言わんばかりにゴロツキの顔面をアイアンクローが如く鷲掴みにし軽く持ち上げた後地面に叩きつける。


「チッ、マジで幸先悪すぎるわこりゃ。この俺が何したってんだよまったく…。」


ゴロツキの頭部を中心にヒビの入る地面を見下ろしながら滴る頬の血を親指で拭う。拭われた頬の傷は不思議な事に何事も無かったかのように消え去っていた。一連の騒動を傍観していた人々もあまりに一瞬の出来事に息を呑んでいる様子である。


「す…凄いな兄ちゃん!ワシらもコイツらにいい加減迷惑していた所なのじゃよ!助かった…!ありがとう!」


ヨハネスと倒れ込む2人のゴロツキ達をに中心にドーナツ状に群がった民衆の中から1人の少々小太りで小柄な老人が中央に向かいながら声をかける。


「まぁそりゃどーも、ところでこの街にはこんなヤツらがゴロゴロいんのか?」


「なにを心外な!港町故各地から色んなヤツがここに集まるだけの話じゃよ!それより、兄ちゃん金に困ってるんだって?それならここに寄ってみるといい。」


港町の治安に疑念するヨハネスにその老人はそんなことはないと訂正すると同時に持参した地図のある一点をヨハネスに指し示す。


「セントラル傭兵統合事務所リース支部…?ハンターみたいなモンか…。」


「ハンターってのはよく分からんがきっとそんなもんじゃろ。お前さんの様に腕の立つ人なら金には困らんじゃろう。道は分かるか?どうせなら案内させてくれ!」


気前のいい事に、その老人は指し示した「セントラル傭兵統合事務所リース支部」という場所にヨハネスを連れていくと申し出た。ヨハネスも満更でもない様子で老人の後について行き、2人は民衆の円を切り抜け目的地へと歩を進める。


「悪いなじーさん、見ず知らずの俺にこうも親切にしてくれてさ。」


「水臭いことは言わんでいい!困った時はお互い様って言うじゃろ?金が無いようならワシが登録料奢ってやる。それでチャラでいいじゃろ?」


「ありがてぇ、恩に着る。」


かつてログレス大陸で自身を自宅に招待した翡翠の目の男と家に向かう様を彷彿とさせる後ろ姿で2人は人混みに姿を消した。渡る世間に鬼はない。そんな諺を体現するかのような出来事で彼の外の世界への進出の第1歩は刻まれた。同時にこれから外の世界の傭兵として世界を股に掛ける事になろうとは当時のヨハネスは微塵も知る由もなかったであろう。