ダークエルフと悪役令嬢

第19話:初めての仕事

 洞窟で驟雨を見つけたアエルスドロ達は、ナガル地方に戻ってきた。

 アエルスドロは傷ついた驟雨をベッドに寝かせ、マリアンヌと交代で彼を看病する事にした。

 これで二度も、驟雨はベッドに運ばれたという事になる。

「一応、傷の回復はしておいたけど、

 まだ痛みは残ってそうだからしばらくベッドで休んでもらうよ」

 驟雨が負った傷はエリーが治したようで、彼女の光る手がそれを物語っている。

「しかし本当に、エマ・クレーシェルに驟雨を取られなくてよかったですわ」

 マリアンヌは驟雨の戦闘能力に目を付け、何が何でも武官にしようと思っていた。

 しかし驟雨は「速雨に仕えている」という理由でマリアンヌに下るのを頑なに拒否していた。

 何とか彼を無力化させる事は成功したものの、マリアンヌがへまをやらかしたせいで

 洞窟に逃げられ、エマが勧誘する前に驟雨を倒しここに運んだのだ。

「今度こそ、正式にナガル地方で働けるといいですね……」

 ルドルフは、心配そうな顔で眠っている驟雨の顔を覗き込んでいた。


「というわけで、これから何をするかを考えていきますわよ」

 マリアンヌは驟雨が目覚めるまで、これからどうするかを皆で相談する事にした。

「まずは土地の開発からいきますわ。住民達をここに迎えるためには、家が必要なんですもの」

「そうね、あたしは賛成だわ! このナガル地方をもっと豊かにしたいもの!」

「……」

 ミロは賛成したが、妖精のエリーは「開発」という行為が

 自然を壊すという行為になるため不機嫌な表情になった。

「別に、必要以上に開発するわけではありませんわ。

 ある程度住みやすくするためには、切り開く事も必要ですのよ」

「なら、いいんだけど……開発の道中で野生動物に遭遇したら、しっかり身は守ってよ?」

「わたくしは弱くはありませんわよ? それよりもあなた達がもっとしっかりしなさい」

 マリアンヌはホルダーから二丁拳銃を取り出すと、それをくるっと回して自慢した。

 ユミルは「根拠のない自信じゃなかったらいいんですけどね」と心の中で思っていた。


「……ん」

 しばらくして、驟雨が目を覚ました。

 その目に光はなく、表情は虚ろで何も映していない。

「目覚めたんだな」

 アエルスドロが、ようやく目を覚ました驟雨に近づく。

「……誰、だ? お前は……」

「何? 覚えていないのか?」

「……」

 驟雨が自分の事を知らない事に、アエルスドロは首を傾げた。

 ルドルフは驟雨の顔に手を当て、彼の記憶を読み取ってみた。

「どうでしたか?」

「……驟雨さんは忘れたわけではありません。彼の記憶は、消えています」

「どういう事なの、ルドルフ?」

 エリーがルドルフに問うと、ルドルフは深刻な表情でこう言った。

「あの傷が原因だったのでしょう、もう彼の中に僕達の存在はないのです」

 ルドルフの言葉に、アエルスドロ達は一瞬だけショックを受けた。

 しかし、対照的にマリアンヌは不敵な笑みを浮かべていた。

「という事は、氷雨という奴に仕えていたという記憶も綺麗さっぱりなくなったって事?」

「ひ……さめ……?」

 マリアンヌの「氷雨」という言葉を聞いても、驟雨は思い出せなかった。

 速雨に関する記憶も無くなっているため、マリアンヌは彼を雇う事ができると確信した。

「彼の事が分からないのならば、わたくしが雇い主になってもよろしくてよ?」

 そう言って、マリアンヌは驟雨に手を伸ばした。

 驟雨は、彼女の手を握ると、ゆっくりと立ち上がった。

「……まぁ、悪役令嬢的に言うならば『飼い主』の方が最適な言葉ですわね!」


 何はともあれ、何とか驟雨をナガル地方の武官にする事ができたマリアンヌ。

「よく見たらあなたの格好、少し汚くてよ。

 わたくしが着替えを持っていきますわ、そこで待っていなさい」

 そう言って、マリアンヌは箪笥の中から新しい服を持ってきた。

「エリー、魔法のカーテンで隠してくださりません? ほら驟雨、これ持って着替えなさい!」

「はーい」


 しばらくして、新しい衣装に着替えた驟雨が姿を現した。

 驟雨は黒い生地で作られた服と漆黒の頭巾を身に纏っており、

 忍者そのものと言える格好だった。

 ちなみに、頭巾はフェルプール特有の猫耳を隠さないように、上の部分が広がっている。

「闇に溶け込む感じの色か。俺に相応しい色だな」

「あなたは暗殺者ですからね。この方が、仕事の邪魔にならないでしょう?」

「それで、俺はどうすればいい?」

「この辺境の地を開発しましょう。エリーが困るので、必要以上にはしませんけど。

 さぁ、行きますわよ!」

 マリアンヌが開拓に行こうとすると、どん、どんとドアを叩く音が聞こえてきた。

「な、なんですの!?」

 マリアンヌが大急ぎでドアを開けると、漁師のフォリアが慌てた様子でやって来た。

「ナガル地方の入り江を、サハギンが占拠しました。

 その入り江さえ解放すれば襲撃はなくなるでしょう」

「ええ……と、アエルスドロ、驟雨、ルドルフ、エリー、様子を見てきなさい!

 ほら驟雨、初仕事ですわよ!」

 驟雨は頷くと、アエルスドロ、ルドルフ、エリーと共に、外の様子を見に行くことにした。

 なんでマリアンヌは行かないんだ、とアエルスドロは言うが、マリアンヌは「こっちも忙しいんですのよ」と答えた。


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