TREM

ダルメシアン
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4章 節目

、、、安全装置解除よし!、、、

青年の頭の中は真っさらな状態であった。

心境としては至って冷静。

一瞬の時の中で事務的に簡易の点検を始めた。

青年は銃の状態を手早く確認すると犯人へと照準を合わせる。

照準の中には犯人の体が不安定に出入りを繰り返していた。



、、、まだだ、、、落ち着け、、、



青年は一言自分へ言い聞かせると確実に射撃するために距離を詰め、体全体が照準に収まるまで待機した。



犯人との距離およそ8メートル。



急激な速度で犯人との距離は縮まっていたが青年だけは異次元の境地にいた。

まるで犯人が徒歩と変わらぬ速度でゆっくりと自分へと向かって来ている。

それ程までに青年は時の流れを鈍重に感じていた。

集中力が最高潮にまで達し一つ一つの感覚が研ぎ澄まされている。



、、、もうちょい、、、



打ち損じだけは確実に避けるべく瞑る右目に力が入る。

失敗は死を意味する。

猛然と走り来る犯人の体はやがて青年が持つ銃の照準へと吸い込まれる。

瞬間、青年は犯人の体が完全に照準へと収まったのを確認した。



、、、照準、、、よし!!!!、、、



青年は確実に犯人を仕留める手筈が整った事の最終確認を終えた。

発砲の覚悟と準備が双方とも揃い、青年はいつでも犯人を制圧できる。

そう確信した。


、、、じゃあな、、、、



犯人との距離およそ5メートル。













、、、、、、、は?、、、










おかしい。

青年は異変へと気付いた。

引き金を引けない。

体が一切動こうとしないのだ。



、、、、、、は?、、、へ?、、、



青年はまだ自分の状況を把握出来ない。

勿論、動かないで済まされる状況でない事は火を見るよりも明らか。

青年は一瞬の時の中で原因を自問自答するが結局のところ未解決で終わった。

焦りをよそに犯人との距離は縮まる一方であった。



犯人との距離およそ4メートル。




、、、戻れ!戻れ!!戻れ!!!!!、、、



青年はこの時人生最大のパニックに陥っていた。

大袈裟な気はするが恐らくこの表現が最も適切であろう。

幾度となく起きた形成逆転。

青年は肩から腕にかけて猛烈な倦怠感が襲い、持っていた銃を一旦下ろしてしまう。


、、く、くそ、、


言う事の聞かない体への苛立ちは言葉とは裏腹にさほど感じなかった。

再び銃を持ち上げようとしたが体が言う事を聞かずそれは叶わなかった。

この時には倦怠感のせいも相まって青年の興奮状態も沈静化されていた。

無情にも再び腕を下ろすと同時に握力すら残されていなかったのか青年の手より拳銃がすりおちる。

それは青年の敗北を意味した。



犯人との距離およそ3メートル。






、、、、、、そりゃそうか、、、



青年はこの日、再三の焦燥感を越え一喜一憂を繰り返したが最終的に無我の境地へと辿り着いた。

青年は再度頭の中が真っさらな状態になるのがわかった。

それと同時に全てを悟る。

今日一日の自分の勤務状況や体調。

その状態での追跡と死闘。

そして今のこの状況。

普通に考えれば誰でも分かる。

青年は体を酷使しすぎた。

ただそれだけの事。

自分が動けない理由を体と頭の両方で理解するとそこからは恐ろしい程に脆かった。



、、、あぁ、終わりはオレの方か、、、



青年は既にあらゆる覚悟は出来ていた。

それ故に恐怖すら感じない。

思考は一切及ばず乾ききった体は膝から崩れ落ちる。

青年はそのまま瞼を伏せた。

それを見逃さなかった犯人の口元が更に緩むのを朦朧とする意識の中で青年は確かに見た。



犯人との距離およそ2メートル。





、、、、、、、



青年はもう何も考える必要がない事を知っていた。

動けない。何も考えつかない。

感情、思考、行動のすべてを奪われた。

しかしそれは成るべくして成ったのだ。

この日を総括的に見れば諦めなど幾らでもつく。

青年は霞行く意識の中でそう思った。

今、感情を凌駕した最果てにいる。

青年は全てを受け止め静かに意識を手放す。



犯人との距離およそ1メートル。





、、、、、、、、




グシャ。



鈍重だった時間軸が一気に正常へと戻る。

包丁が青年の胸部を貫いた。

それと同時に鮮血が飛び出す。

双方とも状況を完璧には把握できていない。

そんな混沌とした状態であった。

この決着が着くまでの経過が全て幻想だったのではないかという錯覚すら覚える。

青年にとって何秒も無いはずの出来事がやけに長く、尊く感じたのはこれが初めてであった。痛みはほぼ感じなかった。

恐らく一瞬だった為、あるいは意識を手放したせいか体の感覚が追いついてないのであろう。

しかしその代償に青年に死の瞬間が徐々に迫ってきているのだけは理解していた。


、、、バッドエンド、、、


冗談を言う余裕などは無かったが意識の最後に発したのはその言葉であった。

青年は天を仰ぐように地面へと倒れ込んだ。








、、、、

人生の節目とは天災のような物。

その節目がいつ訪れるのか、何が起こるのかも誰にも予測は出来ない。

一口に人生の節目と言ったところで節目には善悪の両方が存在する。

例えば良い節目の場合は目視は可能であるが悪い節目の場合は目視が不可能である。

突然訪れた悪い節目に絶望して死んでいった人はどれ程いるのだろうか。

あるいは絶望する時間すら与えられない場合もあったであろう。

この青年は果たして最期の時に何を思ったのか。 それはこの青年にしか分からない。

青年はこの日までにいくつもの日常を過ごし多数あった分岐を選びいくつかの刹那を越えたあと、この瞬間にたった一つしかない節目で最期を迎えた。

最期の次とは存在するのだろうか。








青年は今日、最期の先と遭遇する。