TREM

ダルメシアン
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3章 刹那

「応援要請!!15時02分!!日銀本店付近でひったくりが発生!犯人と思われる男は40代から50代と見られ、室町三丁目路地を高架線方向西へと逃走!!直ちに出動願う!!」

青年は猛然と疾走しながら左胸に装備してある無線機から簡潔且つ正確に情報を一斉送信した。

犯人は青年の追跡に気付くと速度をもう一段階上げ、全力で走り出す。

青年はその動向より男が犯人であると確信を持ち追跡を続けた。

青年と犯人との距離は目測でおよそ40メートルといったところ。

、、、遅ぇよ、こんなん秒なんだよ、、、

青年は所轄の中でも一二を争う俊足の持ち主である。

そのため中年の犯人の鈍足など目ではなかった。

「無駄だ!!止まれ!!!」

青年は声が届くであろう位置まで距離を縮めると叫んだ。

「誰が止まるかぁっ!!!!」

今度はそう犯人が叫ぶと曲がり角を左折。

細い裏路地へと逃げ込んで行った。

「いい加減にしろぉ!!!!」

青年も再度叫ぶと更に距離を詰めるべく後を追い、曲がり角を最短距離で曲がり切る。

犯人も青年を振り切ろうと一瞬迷った後に最寄りの交差点を今度は右折した。

、、、バカが。その先は行き止まりだ、、、

青年は勝ちを確信したように呟くと最後の追い上げとばかりに脱兎の如く走る。

「間も無く室町三丁目路地裏高架線前行き止まりまで犯人を追い込む!!至急現地集合。」

青年は追跡しながらも詳しい位置情報を無線で発信し犯人を確実に追い込む準備を整えた。

犯人の後を追い、角を曲がったところで高いフェンスに阻まれ呆然と立ち尽くす犯人がいた。

青年は脱力している犯人へとゆっくり歩み寄る。

「動くな!!手を上げてうつ伏せになれ!!」

青年は犯人へと荒い語気で命令した。

「く、、来るなっ!!やめろっ!!」

犯人は青年の声を聞くと、条件反射で酷い興奮状態に陥った様子であった。

「落ち着け。抵抗すると罪が重くなるぞ。」

青年は身振り手振りを交えて犯人へ降伏の旨を説得する。

「大丈夫。、、、大丈夫だから。」

青年は興奮する人間相手の対応法をマニュアル通りに実行した。

しかしこの日はどうやら逆効果だったらしい。

青年はパニックを起こした犯人の冷静さを取り戻せなかった。

「それ以上近付くと殺すぞ!!!!」

犯人はおもむろに胸ポケットから刃渡り15センチ程の包丁を取り出し鞘から解放した。

それと同時に青年の歩みも止まる。

、、、おいおい、マジかよ、、、

さすがの青年もこれには動揺を隠せなかった。

説得が効かない為これ以上近寄る事も出来ない。

「それ刃渡り6センチ越えてるよね?日本では6センチ以上の刃物を持って外歩いたら銃刀法違反で逮捕されちゃうのよ。わかる?」

青年はこれ以上犯人を刺激しない様に極力丁寧な言葉で再度説得にかかる。

「今それ閉まって降伏したら、その包丁は出さなかった事にして報告してあげるから。」

青年は減刑を天秤にかけ降伏を要求した。

「な、、ならあれだ!!全部無かった事にしろ!!。」

興奮状態とは言え到底受け入れられない条件を犯人から突き付けられた。

「ハハハハっ!!いや、それは無理だろ。馬鹿過ぎるわ!!」

青年は無理難題とも言える条件に素直に声を出して笑った挙句、興奮状態の犯人を馬鹿にしてしまう。

、、、あっ、やべっ、、、

青年は自分の軽率な行動を心から悔いた。

「お、お前、今馬鹿にしたな?殺す、、、殺してやる、、、殺してやるよ!!」

犯人の目は血走り、頭の血管が浮き出ていた。

興奮状態を超越したのだろう。

、、、こいつ薬もやってんだろ、、、

目の焦点や言動で青年はこの犯人は相当危険であると判断する。

、、、つーか応援遅ぇよ!!警察の役立たずがっ!!、、、

青年は自分も警察官である事を棚にあげつつ仲間への不満を全力で投げつけるも現況はそれどころでは無いと言う事も思い知る。

犯人は青年に向かって包丁の刃を向けるとジリジリと詰め寄って来た。

、、、クソッ!出たとこ出やがったな!!ならこっちも出るとこ出たるわ!!!!、、、

青年は最終手段である拳銃を腰から取り出し、銃口を犯人へと向けた。

「っ!?!?!?!?」

形成逆転。

さすがの犯人も動揺を隠せず、声すら出すことが出来なかった。

喉を通るはずだった犯人の叫びは自身の横隔膜へと不本意ながらに戻された。

「王手。詰んだな。お前の負けだ。降伏しろ。」

青年は将棋に例え手短に犯人へと通告すると、犯人は諦めた様に虚ろな目で包丁の刃を見つめていた。

青年は一つ息をついた。

、、、任務完了っと、、、おー、やっと来たか、、、

青年は任務の達成感を感じながら改めて困難な状況であったと噛み締めると共に遠目の方から応援に駆けつける複数の警官を確認できたためようやく安堵の表情を浮かべた。

しかし次の瞬間青年は違和感を感じる。

生温かった風が急に冷たくなり頰を撫でられ悪寒がした。

嫌な予感であるほど的中するものだ。

不自然な雑音が耳に入る。

「@#/€θσ、、、、、」

言葉未満、呼吸以上の音。

、、、え?、、、

青年はそれに気付くと青ざめる。

犯人へと目を戻すと理解不能な呟きを発しながら薄ら笑いを浮かべて青年を凝視している。

暫く目が合うとこちらへと包丁を向けふらつきながら歩み始めた。

その歩みは次第に小走りとなり、そこから徐々に速度を上げ最後には青年へと向かって猛然と襲い掛かって来た。

「止まれっ!!止まれっ!!!!」

青年は虚をつかれ声を上ずらせながらも制止しようとするが犯人が止まる気配はなかった。

その距離10メートルを切った。

包丁に勝ち目のない事など誰の目にも明らかである。

もはや犯人は正気の沙汰を持ち合わせていなかった。

、、、仕方ねぇ!!、、、

青年は一瞬で発砲する覚悟を決める。

勿論、人を相手に発砲した経験などあるわけもない。

しかし青年には考えてる時間も余裕も持ち合わせてはいなかった。

再び突きつける銃を握る手に力を込める。

、、、もう訳わかんねーよ!!!!、、、

刹那、青年は頭が湧き上がりそうな症状に苛まれた。

確かにこの日は色々な事があり過ぎた。

青年自身、この感覚は覚悟よりも投げやりといったものに近いと感じた。

、、、これで終いだ、、、

青年は拳銃の引き金へと指を掛けた。





目まぐるしく戦況は変わり、優勢と劣勢は紙一重。

一瞬一瞬で戦況は変わり瞬間の動きによって物事は終息を迎える。

物事の決着が着くのはいつも刹那の出来事である。

刹那とは生と死の狭間の空間を言う。

青年は刹那と呼ばれるこの空間に住んでいる。

今も。これからも。ずっと。