一牛吼地

もた
@m_o_t_a

食み痕

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翌朝。ヤミは再びキッカの町へ来ていた。昨日の彼女の様子を気にしてつい足を運んでしまったが、未だに耳の奥には彼女の厳しい言葉が突き刺さったままだ。


「(弱い者扱い、か……)」


言われて、初めて彼女の苦痛を知った。両腕に呪詛を受け、魔法騎士であることを諦めた彼女がこれ以上の不幸を背負わないよう、自分が身代わりになる覚悟で護り抜こうと勝手に誓った。だが彼女はそれを、自分自身の力が認められていないからこそ、護る対象となったのだと思っているようだ。


「ったく、相変わらず頭が固え女だ」


一人ぽつりとぼやきつつ、ヤミは骨董屋「アメフラシ」へと歩いていく。しかしいざ店の前へ来てみると、扉の前には「臨時休業」の張り紙が貼られている。何だこりゃ、と張り紙を剥がし店の扉を開けると、店内には店主のカジがちゃんと居る。


「おい、親父。何だよこの張り紙」

「…ロアが……」

「あ?」

「ロアが…攫われたんだ…!」


思わぬ言葉にヤミは目を見開いた。朝店主が起きたら部屋に彼女の姿は無く、部屋には彼女の魔導書まで残されていただけで、店の扉には一枚の紙が貼られていたという。その紙にたった一つ書かれていた言葉を見て、ヤミはすぐに犯人の顔を思い浮かべた。


「…”石棺の呪い花”…」


あの時の、石化魔法を使っていた盗賊だ。しかし残された魔導書の形が残っているということは、彼女の身はまだ無事である証拠だ。紙を手に考え込むヤミに、ロアの父親である店主が縋り付いた。


「あの子は俺にとっての宝だ…頼む、ロアを…ロアを助けてくれ…!」

「…心配ねえよ、親父。俺が連れ戻してくる」


それだけ告げ、ヤミはロアの魔導書を手にするとすぐさま骨董屋を後にした。その途中、ちょうど町での買い出しを終えたアスタとノエルが走って来るヤミを見つけ「ヤミさーん!」とぶんぶん手を振った。


「無事買い出し終わりました!これからアジトに帰るとこで…」


アスタがそう声を掛けるも団長は風のように二人の真横を走り去っていってしまった。何やら急いでいる様子だが、二人は訳が分からず首を傾げた。


「…どうしたのかしら、ヤミ団長。あんなに急いで」

「突然とてつもない便意に襲われたとか!?」

「ハァ…いくらなんでもそんな理由…あら?」


すると、ノエルは地面に一枚の紙切れが落ちていることに気付きそっとそれを拾い上げた。そこには”石棺の呪い花”とだけ書かれているが、どうやらヤミが落としていったようだ。


「ヤミ団長の落とし物だ!!急いで追い掛けるぞノエル!!」

「ハア!?ちょ、ちょっと待ちなさいよアスタ!!」


一方その頃、「黒の暴牛」アジトではヤミの姿が見えないことに気付いたラックがきょろきょろと辺りを探し回っていた。


「あれ?団長居ないの?」

「あぁ、団長なら朝早く出掛けたぞ」

「えー!なーんだ、今日こそ相手してもらおうと思ったのに…じゃあマグナ、暇つぶしに僕と遊ぼう?」

「やだね!オメーとつるんでもロクな事にならねえからな!」

「そんな事言って、また僕に負けるのが怖いんだ?」

「”また”って何だ”また”って!?俺がいつテメェに負けたんだよ雷野郎!?」


またいつもの張り合いが始まったと、騒動に慣れている他の団員は特に気にした様子もない。団員達は任務に関する連絡も受けていないので、各々自由にアジトで過ごしている。


「あっ!じゃあロアさんに遊んでもらいに行こうかな!」

「あぁ!?ロアの姉貴は暇じゃねえんだぞ!テメェなんかが言ったら姉貴の邪魔になるだろうが!!」

「そんな事ないよー。お姉さんはいつも会いに行くと優しくしてくれるもん」

「そりゃあ無理してるんだよ!ンな事も分かんねぇとかお前バカか!?」


そんな話をしていれば、バァン!!と大きな音を立てて開け放たれたドア。何事かと全員がそちらに視線を寄越すと、入って来たのはヤミだった。


「あ、団長!ねぇねぇ、僕と殺り合おうよ~!」

「おう、後でな。フィンラルは居るか」

「はいはーい、どうしたんですか団ちょ…」

「急用だ、来い」

「ぐえっ!?」


フィンラルを呼びつけるや否や彼の襟ぐりを掴まえて早々にアジトを後にしていくヤミ。何やら急いでいるようだが、彼はその用件も話さないまま「恵外界の東だ」と場所だけ淡々と告げる。

状況がうまく呑み込めていないフィンラルは「ちょっと待って下さいよ!」と団長を振り返った。


「そんなに急いで何を…」

「いいから早くしろ」

「は、はあ…」


威圧を込められてはそれ以上先を訊ねることも出来ず、フィンラルは言われたとおりに恵外界の東に位置する町へとヤミを転送させた。彼の姿が消えても尚腑に落ちない様子だったが、そこに買い出しから帰ったアスタ達が追いついた。


「フィンラル先輩!ヤミ団長戻ってきましたか!?」

「え?団長ならちょうど今恵外界に行っちゃったけど…」

「よし!俺も行ってきます!!」

「ハア!?ちょ、待った待った!アスタ君…!?」


フィンラルの言葉も聞かず、アスタはそのまま空間魔法の中へと飛び込んでいってしまった。魔力が途切れ空間の扉が閉じると、状況がうまく飲み込めていないフィンラルは「何なんだあの二人」と驚くばかりだ。

ノエルはそんな彼に、町で見つけた例の紙切れを見せて事情を説明した。


「”石棺の呪い花”…何かの暗号かな」

「ちょっとー!大変よあんた達!!」


すると、そこへ飛んできたのはバネッサだ。今日は任務も無いからと彼女も町へ出掛けていたようだが、何やら慌てた様子で飛んできた。


「さっきアメフラシに行ってきたんだけど、ロアさんが何者かに誘拐されたって!」

「んだとおおおおおお!!!!!????」

「誘拐って…だからヤミさん、一人で…」


只ならぬ事態を察知した団員達の顔色も暗くなる。しかしそんな空気を掻き消したのは、アスタの声だった。


「フィンラル先輩!俺も今すぐヤミ団長が向かった場所へ連れて行ってください!」

「俺も行くぜ!ロアの姉貴に手ェ出す奴らは血祭にあげてやらァ!!」

「ちょ、ちょっと待って!連れて行けって言っても相手はどんな奴なのかも…」

「どんな奴らでも関係ないよ。お姉さんを傷つける奴らは僕が殺してあげなきゃ」


呟くラックの瞳に光はなく、他の団員達の目にも強い意志が感じられる。フィンラル個人としてもロアを助けたい気持ちはあるが、どんな敵なのかもわからない状態で彼らを送り届けていいのか迷ってしまう。

すると、そんなフィンラルの気持ちを察してか、アスタは「大丈夫です!!」と胸を張りこう言った。


「絶対に負けない!何たって俺達は黒の暴牛ですから!!」


その言葉に根拠はない。だが彼の言葉は、不思議と安心を抱かせてくれる。

フィンラルは降参し、「わかった」と言い空間魔法「堕天使の抜け穴」を発動し、団員達を振り返る。


「ロアさんを助けたら僕がすぐにこっちに連れてくる!敵は任せたよ!」

「はい!!任せてください!!」

「あと何かトラブルが起きても僕は責任取らないから、自己責任でお願いね!」

「しっかり責任転嫁するところはアンタらしいわ」


ともあれ、フィンラルの魔法で道が開けた団員達は意気揚々とその中へと飛び込んでいった。