一牛吼地

もた
@m_o_t_a

夜蛇

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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その夜、貴族家の御曹司チャノラは自らの身分に不相応だと思いながらも恵外界のとある町外れに来ていた。と言うのも彼がこの場へ望んで来たのではなく、ある男に呼び出されたからなのだ。


「まさか盗賊になって生き延びていたとはな…グリス」

「あぁ、まさかあんな所でチャノラ様…いや、昔みてぇに兄貴って呼んだ方がいいか?」

「やめろ。家を追い出されたお前に兄などと呼ばれたくない」

「けけけっ、そいつぁ悪かったな」


相変わらずの高慢ぶりだ、と弟は小さく舌打ちする。

グリスはチャノラの実弟であるが、横暴かつ非人道的な性格を両親に非難され幼少期に貴族家を追放されていた。その後は強盗などを繰り返し盗賊団を結成。現在はその頭領となっていた。


彼が偶然キッカの町で見かけたのはかつて兄と呼んでいた男だった。家を追い出された今ではチャノラに対し何の情も沸かないが、どうせなら実兄を脅して金を巻き上げた方が手っ取り早いと考えてのことだった。

相手の油断を誘おうと、弟は何気ない会話からスタートさせた。


「で、チャノラ様は何でまたあんな平界なんかに居たんだよ?」

「野暮用があっただけだ」

「野暮用?貴族のアンタがあんなボロっちい骨董屋に何の用だよ」

「…やはり見ていたのか。白々しい」


詳細を話すつもりはなかったが、過去には兄弟として過ごした男だ。チャノラは傾けていた盃をぐい、と一杯呷ってからグリスに打ち明けた。


「私はあの骨董屋の娘を気に入っているのだ」

「へえ、それはそれは。アンタが目をつけるって事は相当な別嬪なんだろうなァ」

「あぁ。ロアさんはとても美しい方だ」

「ロア…?」


どこかで聞いた名前だ。そう思って少し思案し、グリスは思い出した。

かつてこの盗賊団を捕えようと派遣されてきた魔法騎士の内の一人が、確かロアと呼ばれていた筈だ。もう何年も前の話だが、彼の脳裏にはしっかりとあの時の光景が焼き付いている。


「そのロアって女、骨董屋の娘なのか」

「あぁ。昔は魔法騎士として魔法騎士団にも所属していたそうなんだが、ある時に脱退したそうだ。詳細は不明だが、それ以降は骨董屋で働いているとか」

「そうか…魔法騎士団をねえ…」


恐らくあの時自分が掛けた呪いが原因だろう。まさか魔法騎士団を辞めていたとは思わなかったが、思わぬ情報を手に入れグリスは愉悦に歪む表情を隠せなかった。


「チャノラ様よぉ。アンタ、その女がどうしても欲しいのか?」

「…あぁ。私は彼女以外の者と契るつもりはない。だが、どうやら私には脈が無いようでな…」

「そいつぁ悲しいねえ。けど、俺だったら何とかしてやれるぜ」

「何?」


思わず顔を上げれば、かつて弟として可愛がっていたグリスは当時の面影を微塵も感じさせないような、惨忍な笑みを浮かべている。盗賊となったこんな愚弟の力を借りたくないとは思いつつも、チャノラは藁をも掴む思いだった。


「ど、どうしたら彼女を私の物に出来る!?」

「俺の言う通りにすりゃ間違いねえよ…絶対にな」



***


今日の満月はやけに明るい。自分の部屋のベランダに出て月を眺めながら、ロアは昼間のヤミへ向けた言葉を復唱し、後悔していた。


『(ついカッとなって言いすぎちゃった…ヤミさん、怒ってるよね…)』


明日アジトにでも行って謝ってこよう。久々に黒の暴牛の皆にも会いたいし。

そう考えてからベッドに戻ろうとした時、何かが背後で光った気がした。


『何…?』


振り返るともう一度キラッと何かが光った。それが路上から反射する何かだと気付いてロアが下を見ると、チャノラの姿がそこにあった。寝間着であることも気にせず慌てて一階へ下り店を出ると、彼は手にしていた小さな鏡を懐にしまい込んだ。


『チャノラ様…?こんな夜更けにこんな所で何を…』

「…すみません、ロアさん」

『え?っ…!』


チャノラが言った直後、ロアは突然背後から何者かに口と鼻を何かの布で塞がれてしまう。甘い香りがしたかと思えばすぐに頭の中がボーッとしてしまい、視界もぼやけていく。ふと全身の力が抜けてしまうと、その体をグリスが肩に担ぎ上げ三人は夜道の向こうへと消えていくのだった。