一牛吼地

もた
@m_o_t_a

無意識の行き違い

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懐かしく、苦い夢を見た。呪いを受けたあの日のことを夢に見るのは、彼に言われた言葉が引っ掛かるせいだろうか。

夢見の悪い夜を過ごし、その日ロアの気分は落ち込んでいた。そしてそんな日に限って、会いたくない人に会う羽目になってしまうのだ。


「やぁ、ロアじゃないか!」

『…ユリウス様…』


現魔法帝ユリウス・ノヴァクロノ。彼が変身魔法を使い側近の目を盗んで町中をぶらついていることは知っているし、今まで何度か遭遇したことがあるから驚きはしなかった。


『今日も町の散策ですか?』

「あぁ!今日はお爺さんに変身してみようと思ってるんだ」

『そうですか』

「…何だか元気がないね。具合でも悪いのかい?」


優しく問いかける彼だが、それでも晴れないロアの表情。タイミングが悪かったかな?と苦笑するユリウスは、「そうだ」と一人の男の名前を口に出した。


「そういえば、今でもヤミとは会っているのかい?」

『…ごめんなさい。今はあまりあの人の事は…』

「あれ、そうか。それはすまなかった」


ヤミの名前を出せば元気を出すかと思ったが、どうやら逆効果だったようだ。


「(ヤミと喧嘩でもしたのかな…)」

『…ユリウス様』

「何だい?」

『私は、二度と魔法騎士にはなれないんでしょうか?』


唐突な問いに、ユリウスも一瞬虚をつかれた。

彼女が元魔法騎士であることも、脱退した経緯も知っている。勿論彼女の腕のことも。ユリウスは真剣な面持ちになると、正直に意見を述べる。


「そうかもしれないね」

『……』

「君はまた魔法騎士になりたいのかい?」

『勿論です。この国に生まれた以上、この国を護ることこそが私の使命だと思っています』

「使命、か…」


一国民の心持としては素晴らしい考えだ。しかしユリウスは、その言葉がロアの口から発せられたことを少し悲しく思ってしまった。


「…君の気持ちは分かる。だが魔法騎士でなくとも、君に出来ることはたくさんあるよ」

『ユリウス様…』

「少し冷静になって考えてみるといい。君は、今のままでも十分素敵さ」


意味深な言葉を残し、ユリウスは老父に姿を変えて町中へと消えてしまった。

骨董屋へ戻ると、若い男の客が店内を見ていた。だが彼はロアを振り返ると「ロアさん!」と親しげに声をかけてきた。


「良かった。出掛けていらっしゃると聞いて今日は帰ろうかと思っていたんですが」

『チャノラ様…今日はどんな御用で?』

「はは、分かっているくせに。用向きはただ一つ…先日のお返事を聞かせてもらおうと思いましてね」


チャノラは貴族家の御曹司だが、偶然この町を訪れた際にロアに一目惚れしたと言って以来、彼女に求婚を迫ってきていた。ロアはその申し出がある度に断りを入れてきたのだが、今日も懲りずにやって来たようだ。


『申し訳ありませんがチャノラ様。私は貴方の元へ嫁ぐつもりはありません』

「はあ…またその台詞ですか。どうして駄目なんですか?私を嫌いになりましたか?」

『いえ、私程度の女が貴方のような貴族家の方と釣り合わないと思ってのこと』

「そんな事気にしなくていいんですよ!文句を言う奴が居れば私が黙らせてあげます!」

『そのような強引な手段は好きではありません。どうか、お引取りを』


冷たい彼女の言葉に、チャノラはやれやれと肩を竦ませるも「諦めませんよ、僕は」とどこか誇らしげな顔をしながら帰っていった。彼の姿が見えなくなると、ロアはハア、と思わずカウンターに手をついてしまった。


『しつこい男…いい加減察してもらいたいわ』

「随分滅入ってるみてぇだな、ロア」


一人だと思っていた店内に低い声音が聞こえ、ロアは驚き思わず店の入り口を振り返った。そこにはいつの間にか来たのかヤミが立っていた。


『………いらっしゃい、ヤミさん』

「何だよ、そのすっげえ嫌そうな顔は」

『別に。貴方には関係ないわ』


ツンとした物言いにカチンときたヤミは、先程店から出てきた男の姿を思い出して「成程な」とにやにやと嫌な笑みを浮かべる。


「さっきの男のことか?何だお前、ああいうひょろっちいのが好みなのかよ」

『冗談でも笑えないわ。あの男がしつこく結婚を迫ってくるから困ってるの』

「へえ、お前相手に根を上げねえなんて、根性だけはありそうだな」

『…人の気も知らないで』


能天気に感心してみせるヤミに、ロアは更に重い溜息をつく。珍しく男相手に滅入ってる様子の彼女を見かねて、彼はある提案をした。


「だったら俺があの男を追っ払ってやろうか?」

『別にいいわよ。遊び半分で首を突っ込まないでよ』

「まぁそう言うなって。こういう面倒ごとから守ってやんのも魔法騎士サマのお仕事ってな」


守ってやる。その一言に、ロアは敏感に反応した。


『…そうやって、また私を弱い者扱いするのね』

「あ?」

『あの日からヤミさんは私を仲間ではなく、護る者として見るようになった』

「おいおい、何怖い顔してんだよ。怒るとシワになるぞ?」


急に饒舌になったかと思えば妙な物言いをするロアに首を傾げるヤミ。だがそんな彼を、彼女は忌々しげに睨み付けている。


『魔法騎士団を抜けて只の平民になった私はそんなに弱いかしら?確かに昔ほどの魔法は使えないけど、それでも志なら貴方達魔法騎士にも負けないほどに強いわ』

「はいはい、分かったからちょっと落ち着けって」

『何が分かったのよ。ヤミさんは何も分かってないわ。私をずっと弱い女だって見下してるだけじゃない』


いくら憎まれ口を叩いても、一度爆発した怒りは収まる様子はない。

ついには彼に詰め寄って興奮気味に言い放った。


『貴方に護ってもらわずとも、自分の身くらい自分で護れます』

「ロア…」

『私を弱い者扱いしないで!』


ハッキリそう告げると、ヤミはそれきり口を閉ざしてしまった。はっと我に返るも既に取り返しのつかない状況であることを察し、ロアは『ごめんなさい』と咄嗟に謝った。


「…また出直すわ」

『や、ヤミさ…!』


追いかけようとしたが、無情にもドアは勢いよく閉まってしまった。

黒の暴牛のアジトへ戻ると、「お帰りなさい」とフィンラルがソファに座りながら声を掛けた。


「あれ?どうしたんですか、ヤミさん。何だか神妙な顔しちゃって」

「…アッシー君よ」

「フィンラルです。何ですか?」

「お前、何で女が好きなんだ?」


唐突に聞かれて驚くフィンラルだが、すぐに「可愛いからですよ!」と即答した。


「可愛い子って何だか守ってあげたくなっちゃうっていうか、触らずにはいられなくなるっていうか~」

「お前に聞いた俺がバカだった」

「あ、団長がバカだって認めた」

「誰がバカだぶっ飛ばすぞテメェ」

「自分で言ったんじゃないですか!?」


訳わかんないですよ!と憤慨するフィンラルを無視し、ヤミはロアに言われた言葉を何度も思い返しては深いため息と共に紫煙を吐き出した。


「どこで間違ったんだろうな、俺は」

「え?」

「何でもねえよ。それより明日恵外界で任務だから、また移動頼むわアッシー君」

「だからアッシー君て呼ぶのやめて!」


煙草を咥えながらふとアジトの外へ出て夜空を見上げれば、暗い空に浮かぶ満月は、憎たらしいくらいに明るかった。