一牛吼地

もた
@m_o_t_a

過去の呪い

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今から数年前。

魔法騎士団入団試験を無事通過した中で特に注目されている二人の魔道士が居た。一方の魔道士はその「優秀さ」が、そしてもう一方はその「異端さ」が注目されていた。


『ヤミさーん!』


偶然にもその二人は同じ魔法騎士団への入団が決定し、日々の任務で互いに切磋琢磨し合い魔法騎士としての実績を着々と積んでいた。それが魔法属性「氷雪」の魔導書を持つロアと、魔法属性「闇」の魔導書を持つヤミだった。


『どこ行ってたの?さっきからずっと探してたのに』

「あぁ、便所行ってた」

『……本当にデリカシーっていうものが無いわね……』


呆れながらも後ろについて歩くロアだが、ヤミは悪びれる様子もなく大きな欠伸をするばかり。


「あー眠ぃ…やっぱ徹夜明けはキツイわ」

『ヤミさんが徹夜するなんて珍しいわね。魔法の勉強でもしてたの?』

「ンなわけねえだろ。カジノついでに朝まで呑んでただけだ」

『はあ…そうでしょうね、貴方のことだもの』


同期ということもあり、任務へ同行することが多いこの二人だが、ロアは近々魔法騎士団副団長へ昇進するのではないかとの噂が持ちあがっている。だがその話をしても、彼女は『所詮噂よ』と軽く受け流すだけだった。


「お前、副団長とか興味ねえの?」

『そりゃあ昇進の話が来れば嬉しいけれど、貴方より先に昇進することなんて有り得ないもの』

「おっ、嬉しい事言ってくれんじゃねえか。実は俺の事結構認めてくれちゃってんの?」

『私よりもヤミさんの方が成長が速いのは誰の目から見ても明らか。うちの団長だってそのことには気付いていらっしゃる筈だし、昇進するなら貴方の方じゃないの?ヤミさん』

「マジ?やべー昇進したらやっぱ給料増えるよな?そしたら毎日カジノ行き放題、酒も呑み放題だな」

『…前言撤回。貴方は昇進するにはまだ早いようね』


この男は入団当時から緊張感というものがまるでない。しかしそれ故の安心感も抱ける男だ。

「破壊神」と言わしめる程の絶対的な強さと揺るがない強い意志。異邦人であるとはいえ、彼の実力を認める者は少なからず居るはずだ。それは自分達の所属する魔法騎士団の団長も同じで、多くの者がヤミの今後の成長に期待をかけていることもわかる。


『今日は盗賊退治の案件よ。今まで何回か他の魔法騎士団が派遣されているけれど、全て返り討ちに遭って捕縛に至らなかったそう…相当の手練れが居るようね』

「俺も割りと強いから、多分どうにかなんだろ」

『ふふ、ヤミさんって本当に物怖じしないのね』

「別に普通だろ、俺達魔法騎士がビビってちゃ国護るなんて無理だしよ」


今回の任務遂行に不安を抱いていたロアだったが、全く臆する様子のないヤミのその言葉に勇気付けられた。

「それに」とヤミは自身の刀を取り出し得意げにこう続けた。


「お前が怖気づいて動けなくなったら、その分俺が一人で活躍して星貰えちまうかもしれねぇしな」

『言ったわね?絶対ヤミさんには負けないんだから!』

「せーぜー頑張ってくださーい」


いつものように減らず口を叩きあって、いつものようにアジトへ戻るはずだった。しかし今日この任務が、二人の最後の同行任務となってしまったのだった。


場所は恵外界のとある小さな町。そこから数キロ離れた人気のない山野に盗賊団は拠点を構えているとのことだった。情報にあった場所へ来れば、大きな洞窟の中から複数の気配が感じ取れる。


『場所は分かったけど、まずは作戦を…』

「うっし。殴りこむか」

『はあ!?ちょっとヤミさ…』


ロアの制止も聞かずヤミは一人洞窟の中へと走り出してしまった。『何考えてんのよ!?』と文句を言いつつその後を追いかければすぐに敵に見つかってしまう。


「何だテメェッ…ぐはっ!?」

「魔法騎士団の者でーす。面倒なんで全員捕縛させてもらいまーす」

「ナメやがって!数ならこっちが圧倒的だってんだ!!」


敵も全員魔導書を取り出し攻撃を繰り出すも、ヤミは闇魔法を纏わせた斬撃で敵を一網打尽に薙ぎ払っていく。ロアも彼に遅れまいと魔導書を取り出すと、巨大な獅子の雪像を作り出すと辺りの敵を一掃していく。


「ロア、援護は任せるぞ!」

『仕方ないから任されてあげるわ!』


敵の数は数十人程度。たった二人の魔法騎士に次々倒されていく盗賊だったが、その内の一人は敵の攻撃を冷静に見つめながら薄ら笑いを浮かべていた。


「闇と雪か…面白い」


縦横無尽に暴れまわるヤミに、洞窟を破壊しつくす勢いのロア。盗賊達は既に負けを確信し戦意喪失する者も居たが、突如ヤミの目の前に赤い魔導書を手にした男が現れた。


「魔法騎士風情が随分と暴れまわってくれるじゃねえか」


ポウッ、と男の掌が赤く光るのが見えてヤミが思わず身を仰け反らせれば、体の側面ギリギリの距離を黒い波動が通過していった。すると、躱した波動に当たった盗賊団の数人が一瞬で石像と化してしまった。


「チッ…!」

「俺の魔法属性は”石化”!テメェのその腕、二度と振るえなくしてやる!」

『ヤミさん!』


一撃目を何とかかわしたヤミだったが、敵の男はまだうまくバランスの取れていない彼の背後に回り込み、その背に掌を押し当てようとした。


「石化呪詛魔法”石棺の呪い花”!」


叫んだ直後、ヤミの体は突然横から飛んできた何かに弾き飛ばされそのまま地面へ叩き落された。

ヤミの危機を間一髪救ったロアだったが、敵は目の前に割って入ってきた彼女の両腕を掴みあげた。


「ハハハハッ!馬鹿な女だな!そんなにお望みなら、テメェの腕から潰してやるよ!」

『うっ…ああああああ!!!』


掲げていた両腕に黒い花のような紋様が描かれたかと思えば直後突然岩のように重くなってしまい、耐え切れずロアの腕が垂れ下がる。その手から魔導書が落ちたのを見つけ、敵の一人が刃物で彼女へ斬りかかった。


「退け!!」


体勢を立て直したヤミはそのまま再び飛び上がり、ロアの背後を狙う敵を斬り捨てた。そのまま彼女の体を受け止め離れた場所へと避難するも、彼女の腕を見て絶句した。

その皮膚は呪詛により赤黒く染まり、表面はまるで岩石のように硬い。指一本たりとも動かせない状態に、ロアは嗚咽を噛み殺しながら大粒の涙を流していた。


『ヤミ、さんッ…ごめんなさ……私……!』

「泣くんじゃねえ!!王都に戻りゃ何とかなる…一時撤退だ、早く戻っ…」

「逃がすかよォ!!」


二人の隙を突き止めを刺そうとしたが、瞬時に振り返ったヤミが刀を振り払う。男の頬を黒い斬撃が掠めると、その目にも留まらない斬撃の速さに怯み敵は慌てて距離をとる。

ロアの体を抱き上げると、ヤミはその体に黒い魔力を纏わせながらゆっくりと自分達を囲む敵を威嚇した。


「邪魔だ!退けぇ!!」


その後、何とか盗賊団を蹴散らし王都まで撤退してきたヤミは、急いでオーヴェンの元へロアを担ぎ込んだ。


「敵の呪詛魔法を受けちまったんだ!何とかならねえか!?」

「落ち着け、ヤミ…かなり強力な呪詛だが、何とかやってみよう」


呪詛魔法の解呪の為、ロアはしばらく戦線から離れることとなった。

そして数週間が経った後、魔法騎士団団長の元にロアの回復状況についての報告があがった。


「ロア・ダクマリーは両腕に呪詛を受け治療は困難な状況。今後、騎士団員として力を振るうことは難しいかと思われます」

「…そうか」


報告を受け、団長はある決断を下す。


「ロア・ダクマリーは本日限りでこの団から脱退してもらう」


その言葉に、ヤミは耳を疑った。

脱退。つまり、ロアはこの魔法騎士団を抜け、もう二度と同じ戦線に立つことが出来なくなるということだ。


「待てよ!あいつは俺を庇って呪いを受けたんだ!あいつじゃなくて俺を…!」

「自らの身を挺し仲間を救う事は誉れ。しかし、自身の身を護れぬ者に魔法騎士である資格はない」


副団長の言葉にヤミは悔しさに唇を噛み締めた。

非情な団の決定に、しかしこの時の彼は大人しく従うことしか出来なかった。


治療を受けたロアの姿は、王都内の一室にあった。彼女の耳にも既に脱退の通告は渡っていたようだが、ヤミが部屋へやって来ると彼女はふわりと笑ってみせた。


『ヤミさん。わざわざ来てくれたんですね』

「…お前、魔法騎士団辞めるのかよ」

『…もう闘うことは難しいそうです。戦線に立つことはもう…』


回復魔道士達の尽力もあり、彼女の腕は石のように硬化していた皮膚部分こそ治ったものの、腕の神経までは回復することが出来ず魔法をうまく扱えない状態だった。私生活を送る程度であれば問題はないが、以前のように魔法騎士団として戦闘に従事する為の戦闘力を発揮することは難しいとはっきり告げられた。


だが、彼女はヤミを振り返ると『ごめんなさい』と言った。


『私、ヤミさんに…魔法騎士団の皆さんに迷惑をかけてしまって…』


誰よりも辛い状況下にあるというのに、ロアは自分よりも周囲の人間に対して謝罪した。

その言葉が、ヤミの心に更に深く突き刺さった。


「謝るのは俺の方だ…俺があの時油断しなけりゃ…」


彼女には明るい未来があった。呪詛さえ受けていなければ、彼女は順風満帆な生活を今後も歩んでいくはずだった。なのに、将来を有望されていた彼女の未来が奪われ、下らない自分の人生が護られてしまった。


「俺が油断したせいで、お前の人生を狂わせちまった」


そうだ。ロアの人生を狂わせたのは自分だ。未熟な自分が彼女を苦しませ、彼女に重い枷を背負わせてしまった。

これ以上、彼女に苦しい思いはさせない。


「これからは、俺がお前を護る」


そう告げるヤミの瞳は、しかしどこか暗く閉ざされているような、そんな瞳だ。それに瞳を前にしてロアは素直に頷くことも出来なかった。