東離劍遊紀

東雲 皓月
@ShinonomeKouget

第一章『二年の月日』一

 


また紅葉が美しく咲く秋が山を染めていく季節がやってきた


「師匠!今日はどんな稽古をなさるんですか?」


「走り込みに素振り千回、最後に瞑想をする予定。余った時間で体術をするつもり」


小鳥が囀ずる朝に目を覚ました私は、顔を洗い服を着替えると外に出て紅葉を眺めていた


そこへ、私よりも何故かいつも早くに起きて掃除をしていた弟子らが私の姿を見つけた途端に駆け寄って挨拶をしてから嬉々として本題を聞いてくる


もうこのやり取りも慣れてきたなと思いつつ、今日の予定を話すと少し不思議そうな顔で弟子らが首が傾げた


「あれ、いつもより少ないですね?」


「ん~・・・今日はちょっとね。それに以前、他の武器にも手を付けてみたいと言ったら朱明(シュウメイ)が手配してくれたみたいで持って来てくれてるんだ」


「そう言えば・・・確かに先週何か届きましたね」


「流石です!俺達の尊敬する師匠は!!」


「あー・・・そんな尊敬する事でもないよ」


キラキラとした瞳をしながら弟子らは納得したようで、私は少し引いたように苦笑を浮かべて朝食の準備でもしようとその場を離れた


ココに来て二年になるが、私の周りには何故か両手では数えられないくらいの人達が出来た


最初は戸惑う事も多々あったけれど、この近くにある村の人達は優しく色々教えてくれた


今私が居るココは、西幽でも東離でもなく北迷(ほくめい)と言う忘れられた地の一つらしい


しかも北迷と名付けられた理由が、名の通り迷うからだとか


どうしてだと聞いてみたがそれは誰も知らないらしい


知っていても既に亡くなっているので無理らしく、かなり昔の話で一番年を長く生きている人でも約六十年の間で出入りをしている人は居ないと言っていた


私は仕方なくココに住む事にした


だが、私はこの世界を甘く見ていたかもしれないと思った出来事が起きたから


負かすだけでは生きてはいけない


ただ普通に生活をしているだけでは何も変わらない


生きるか死ぬかの狭間なのだと


確かに西幽や東離という所があると分かって嬉しかったが、私にはまだまだ力が足りない


だから一人山に籠って修行を始めた


来る者を腕試しにしては、自分に足りないモノが何かと考えて相手に何が足りないかを見極めて


そうして弟子入りしたいと願う人も現れ、断ってもコソコソして邪魔だったし好きにさせていたらいつの間にか道場並みに大きい建物を弟子入りしてきた人々が山の頂上に造っていた


彼らは弟子として認められたい一心と私を思って造ったのだと言われ、最初こそは呆れて言葉も出なかったが半年くらい経つと寝床が出来た事に悪くないなと思い始めた


これまではずっと野宿で冬は厳しく夏は暑苦しくて少し困っていたのもある


だから、仕方なく私は弟子入りした彼らを条件付きで受け入れる事にした


自分の命が危険に晒された場合は、たとえ私の身が危うかろうと構わず逃げる事を条件にして


少し不服そうにはしていたが彼らはそれを承諾し、私の弟子として稽古に勤しんだ


コソコソとしていた時は私の修行メニューを真似てしていたようだが、あまりにもハードでついていけないのが常だったらしい


それでも負けじと着いてこようとしていたのは知っていて、何が足りなくて何がいけないのかを適切に指示した


根本的に必要なのは、基礎ともなる体力だと思って山を一時間程走る事を勧めた


少しでも体力が付けば後は慣れると簡単だからだ


中にはついていけない人もいて、弟子を辞退する者もいたがそれでも十人以上は私を尊敬し憧れてついて来ていた


しかも聞いた話しだと、残った殆どが衙門(がもん)という職についていたり元だったりと意外と凄い職の人達ばかりである


衙門とは簡単に言えば警察署のようなもので、実力がなければなれない職業だ


なのに今は私の弟子として通って来たり、住み込みで稽古をしている


もっと驚いたのは、北迷から出られないのにも関わらず東離にある衙門の人と鳥で文通する人も居た事


どうしてそんな繋がりがあるか聞くと、遥か昔にこの北迷をどうにかしてくれる人が居ないかと助けを文に書いて鳥に託したのが始まりで、それからは月一程度の文通をするようになったという


未だ、北迷をどうにか出来る者は現れていないそうだが興味深いという理由で彼方も文通をするようになったらしい


なので、もしもここから出られたら東離に文を渡す約束もしているのだとか


鳥は空を飛ぶ為に、道に迷う事がないと知っただけでも進歩だと衙門の人は喜んでいるそうだ


文を送って半月くらいに向こうに届き、更に半月くらいにこちらに届くと言っていた


それを聞いて私は納得する


だから月一でと


まぁ、その話しは今は置いとくとして


朝食が出来たので、鍋とおたまで食事が出来た合図を三回鳴らした


今日も食事をした後は弟子と一緒に修行をする