間違いだらけの恋だった

伊月
@Itk_oO

絵本の中の王子様はいつだってカッコよくて、誰かを助けるために行動することができて、最終的には助けたお姫様と結ばれる。

 「王子様」なんて肩書きは俺には不釣り合いなものだと、いつも思っていた。


 「あのね、私葵君のことが……」

 放課後、校舎裏に呼び出された俺は目の前にいる彼女に告白されていた。確かクラスメイトの女の子の筈だ。黒くて艶やかな長い髪は彼女の赤く染まる頬を隠す。キラキラと輝く瞳で僕を見る彼女。恋する瞳は美しいと俺は思う。春の訪れを待つ乙女達の瞳はまるで宝石の様だ。キラキラと輝く眼は俺の影を一層濃くした。

 俺と彼女に接点は特にない。ただ、最近クラス以外でも合うことが多いくらいで。

 「…ありがとう、でもごめんね。俺、好きな人がいるから…君の気持ちに応えられないよ。」

 そう答えを告げると彼女は苦しそうな顔をして立ち去ってしまった。走り去る彼女が何を思っていたのか、俺には分からない。残された俺は静寂の中、幼馴染の待つ教室へ向かう。

 2階の窓から幼馴染がこちらを見ていることに俺は気付いていた。


 「おー、王子様のおかえりだ」

 俺の席に座って突っ伏していた新は俺の足音が聞こえたのか、顔を上げた。いつもの様に間延び声で俺を茶化している彼だが、その表情は晴れない。尤も、それに気付ける人間は少ないだろう。新の気持ちを分かるのは俺だけなんだから。

 「もう、からかわないでよ新。…さ、帰ろっか。」

 いつもならさっさと鞄をもつ彼が座ったまま動こうとしない。どうしたのかと声を掛けると彼は俺の名前を読んだ。いつもの気だるげな声ではない、何かを探るように言葉を紡ぐ。

 「さっき呼び出しされてたのって、告白…されてたとか?」

 〝告白〟という言葉を絞りだして彼は首を傾げた。見ていた事を気付かれていたとは思っていないらしい。

 「あはは…そう、なのかな?」

 笑って曖昧に誤魔化すと、彼はいつもの無表情でそうか、とだけ返した。


 ━━新、俺本当は新があの子のこと好きだって知ってるんだよ。

 彼女を見ていた新の目、いつだってキラキラしていたんだ。小さな時から隣にいる俺が気付かないわけがなかった。

 その事に気付いた俺は新のいない場所で彼女と距離を詰めていった。彼女の好意が俺の方に向くように。「王子様」の自分は彼女に対しての嫉妬心を上手く隠すことが出来たのだろう。彼女が俺に向ける視線が新が彼女に向けるものと同じになるまで、そう時間はかからなかった。

 一方新は女の子の事は好きだけど、こういう事には慣れていないみたいで、俺の行動に気付くことはなかったし、彼女も新の事を〝俺と仲の良い友人〟として見ていた。

 俺が裏で何をしているのかなんて二人共知らないんだ。


 新は俺を責めることはしなかった。「あの子のことが好きだった」と、そう言えば俺はどんな顔をしていたのだろう。

 「王子様」の自分が俺の首を絞める。俺は一体どこで道を踏み外してしまったのだろうか、その問いに答えるものは誰もいない。


 この間違いだらけの恋は、王子様とお姫様は結ばれるわけでも、幸せになれるわけでもなく。ただ、誰もが報われない結末であることだけは確かだった。