始まりの鐘が歌ってる

ちはやっこ
@mizu_intention

昼休み。

ほんの少しだけお弁当を早く食べて、図書館へ急ぐ。

窓際の、1番陽が当たってぽかぽかする席に、いつも彼は座っている。

ほら、今日もいた。

肩よりわずかに高いところでまっすぐに切りそろえられた髪が、窓からの風にゆられてふわふわ揺れる。

それを心地よさそうに受けながら、いつも難しそうな本を読んでいる。

塔矢……アキラ、くん。

同じ学年だけど、たまにしか学校には来ていないから名前を知ったのもつい最近。

囲碁の……プロ?なんだとか。

そちらの世界のことはさっぱり分からないけれど、なんだかすごい人なんだということは、この前司書さんに教えてもらった。

昼休みはいつもここにいるみたいで、勝手に興味を持ったわたしは、こっそり同じ机に座っている。

とはいっても、6人がけの対角線に。

偶然を装って。


「……こんにちは。」


不意に、分厚い本から視線を外した彼がこちらを向いて、にこりと笑った。

文字を追う真剣な眼差しは随分大人びて見えたけれど、笑うと年相応……いや、ほんの少し幼く見えた。


「え、あ……こんにち、は……」


声をかけられるなんて思っていなかったから、驚きすぎて壊れたロボットみたいに片言しか出てこない。


「キミ、いつもその席だよね。」

「え?そ、そう……かな?」

「ここ、ぽかぽかして気持ちがいいよね。」


僕も気に入ってるんだ、とまた笑った。

そんな表情もするのかと呆気にとられてしまう。

その一方で、心臓の音がぱかぱかうるさい。

塔矢くんに聞こえてしまいそう。


「お、お邪魔……だった?」

「そんなことないよ。今日も来るのかなぁって思ってはいたけど。」


他意はないんだろう。

だって、わたしたちは名前しか知らない。

ううん、もしかしたら塔矢くんはわたしの名前すら知らないかもしれない。

ただ同じ学校の、同じ学年に通っているだけの他人。

そんな関係でしかないのに。


「あっ、あの……明日も、来ても……いい?」


それが精一杯勇気を振り絞って出した言葉だった。

なぜ?と言いたげに一瞬驚いたような表情を返されたけれど、すぐにまたあの柔らかな笑顔で、


「もちろん」


彼は大きく頷いてくれた。

ありがとう、と返す傍らで心の奥がきゅっと切なくなる。


これはなにかの始まりの合図なのだろうか。

その意味に気づくのは、もう少し先のお話。



fin.

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耳を●●せばっぽい青春きらきらをめざした結果・・・(笑)