護りたいもの

--自分以外に護りたいと思うものが一つ それがあればいい


俺には確かにあった。


護りたいもの。護り続けたいもの。


それを失った今。


俺は生きる目的とか意味を考えた。


だけど全然見つからなくて。


どうしたらいいのかも分からない。


だからもう周りの人と関わるのは嫌だ。


こんな辛い想いをするくらいなら。


俺は----



『馬鹿兄貴。起きろ。早く。起きているのはわかっているのだ』


『…』


『3秒以内に起きないとどうなるか分かるよね…?3…』


『あーはいはい。起きてますよぉ〜…ふぁ〜…はぁ〜…』


『ため息つきたいのはこっちなんですけど。やめてもらえます?学校で寝るの!』


俺は橘遥輝(たちばな はるき)18歳。


そしてこのうるさい奴が


橘 悠(たちばな ゆう)17歳。


そうなんです。妹なんです。


『別にそのまま帰ればいいじゃーん…キッチリ起こしにくるなんて…ブラコンなんですね。ふぁ〜…』


『殺されたいんですか?殺されたいんですよね?こっちがどんだけめんどくさいと思ってんだ…階段登らないといけないし…死ねボケ兄貴』


『へーへー。死ねるもんなら死にたいね。俺には生きる気力ありませーん』


『…そーゆーとこだよ。いつまで引きずってんの?そんな生き方してて恥ずかしくないの?本当にそうやって思ってるんだったら死んだ方がいいよ。ってか。兄貴が死ねばよかったんだよ』


『………それはちょっと傷つくなぁー妹よ』


『はぁ〜…まぁ…でも本当に死にたいとか言うもんじゃないよ。じゃあね、私起こしたから任務完了なんで。友達と遊んでから帰るから〜』


『あい〜』


妹の言うことは間違ってない。正論だ。


今の俺は誰が見ても恥ずかしい生き方をしている。


あいつが生きてきてくれたら……


今の俺の人生は違っているのだろうか……


そんなことを考えながら俺も帰ろうと席を立った時…


『あの』


小さめのどこか気弱そうな女の子が話しかけて来た。


『…え、俺?』


『はい。橘遥輝さんですよね?』


『え?!俺そんな有名なんか』


『あ、いえ。ちょっと諸事情であなたの事知ってました』


『諸事情…?』


『私の名前は佐藤華(さとう はな)と言います。17歳です。今日はあなたにお願いがあって来ました』


悠と同じ年か。


『お願い事とは…?』


『単刀直入に言いますと、私を護って欲しいんです』


『………へ』


『私を最後まで護り続けて欲しいんです』


『ちょっと待て!どーゆーことだ…?俺が華ちゃんを護る…?何から?何故?!』


『それは私について来て頂けたら分かるかと…』


と言われるがまま、華ちゃんの教室に連れて来られた。


ってあれ…悠と同じクラス…?


『では入りますね』


華ちゃんはどこか緊張した感じで自分のクラスの扉を開けた。


バシャっ


『うわっ…?!』


華ちゃんが扉を開けた瞬間、真正面から大量の水が飛んできた。


俺も多少濡れたが、俺の前に立っていた華ちゃんはずぶ濡れになっていた。


『ちょっ…!!華ちゃん?!大丈夫か?!』


『は、はい。なんとか…』


『あれ…ってか悠の兄貴じゃない…?うわ。面倒いの連れて来ないでくれる?これでどうにかなるとでも思ってんの?』


おいおい。ちょっと待て。


どーゆー状況だ…?


『悠の兄貴さんですよね?水。すいません。大丈夫ですか?』


『…ねーだろ…』


『はい?』


『俺じゃねーだろって言ってんだよ。謝る相手。間違えてる』


『え?いいや…貴方にしか謝る相手いませんけど…』


は…?俺しか謝る相手がいない…?


このクラスの雰囲気はなんだ…


華が見えてないみたいな…


『華ちゃん、見えてるよな?お前ら…』


クラスの大半は下を向く。


ほか半分は笑っていた。


これではっきりした。


華はイジメを受けているんだ。


しかもクラスvs1人だ。


『ああ。この子?この子は別に大丈夫だよね?何しても大丈夫だもんね?』


実行犯と見られる女子1人が華に語りかける。


『は、はいっ!全然大丈夫です』


『…何がだ』


『え…』


『何がどう大丈夫なのか言ってみろ』


『それは…』


『こんなことされてな、大丈夫って本心から言える奴なんていねーよ。強がりの嘘つきだ』


『っ…』


『俺に助けて欲しいから連れて来たんだろ?言えよ。華の本当の気持ち』


『…辛いです…正直…耐えられません…っ』


『は?今更何言ってんの?インキャラのくせに…っ』


『おい。それ以上言うなら女でも俺は殴るぞ』


『…っなんで!悪いのはっ…』


『華だって?お前に対して華が何をしたのかは知らん。だけどな。多数vs1人となった時点でお前らの方が悪いんだよ。やるなら正々堂々と1vs1でやれよ。これは卑怯者がやることだ。卑怯かつ弱い者がする行動だ。権力だと思ってんのか?本当の権力者はこんなことしない。相手を思いやれる奴こそ権力者だ。はき違えてんじゃねーよ』


『っ…』


『このまま同じようなことを言い返してくるならマジで殴るぞ。その顔ボコボコにされたくなければ華に謝れ』


『わ、分かりました…。華…ごめんなさい。確かに…些細なことで私が華のこと嫌いになって…味方を作れば華に嫌がらせ出来るかなって思って…権力というものを違う風にとらえてしまって…本当にごめんなさい。もうしません。クラスの子にも私から言っておくから…本当にごめん』


『…そっか。気づいてくれてよかった。これであなたはもう道を外れて歩くことはなさそうです。謝ってくれてありがとう。』


『華…っ』


『イジメなんてつまんねーことしてんなクソガキども。お前らその歳で殺人犯になって警察のお世話になりてーのかよ。相手が死んだらそれで終わりじゃねーんだよ。犯してしまった方は一生背負って行くことになるんだ。そして友達として…彼氏として…助けてやれなかった奴も後悔として背負って行くことになるんだ。一生そんなん背負って生きてーなら勝手にしろ。でも人生楽しく生きたいなら他の遊びでもしろ。分かったか』


『…はい。先輩元ヤンだったとは思えない発言でビックリしましたけど…カッコいいですね。その感じ』


『一言多いね。元ヤンじゃねーしな。誰だ。そんな噂流した奴。まーいーや。いくぞー華』


『え?あ、はい』


俺は華を連れてクラスを出た。


『…これでよかったのか…?すまん。普通にキレてしまった』


『いえ。やっぱり遥輝さんでした。お姉ちゃんの言う通りでした』


『え?姉貴?なんて名前?つか俺のこと知ってるんか。誰だ…?』


『名字が違うので分からないのは当然です。私は父の方の佐藤、お姉ちゃんは母の方の相川です』


『は……?あい…か…わ…ちさ…か?』


『はい。相川千紗です。あなたの彼女だったのが私のお姉ちゃんです』


『えっ…ちょっと待て……姉貴が…千紗…なのか…?』


『私たちが小さい頃に両親が離婚して、別々になったんです。そっからあまり連絡も取っていなかったのですが、とある日。お姉ちゃんから手紙が届いたんです』


『手紙…?』


『はい。私宛のと…遥輝さん宛の』


『俺…宛…?』


『私宛の手紙がこれです。ほとんどあなた、遥輝さんのことなので、読んでみてください』


『え…いいの…?』


『はい。それがお姉ちゃんの要望なので』


俺は恐る恐るその手紙を手に取った。


"華へ。


この手紙が華の手元に着いた頃にはもう私はこの世にいないと思う。


奇跡的に助かってたら分からないけど。


全然連絡しなくてごめんね。


連絡したかったんだけど、自分のことで手一杯で連絡することができなかったの。


だから手紙。最初で最後の手紙、書くね。


私、今、イジメを受けてて、本当に精神がやられてて辛いです。


わたしには遥輝って言う彼氏がいるんだけどね。中々言えなくて。


信頼してないからとかじゃなくて。


誰にも言えなくて…


遥輝にはわたしのせいで辛い思いしてほしくない。


幸せに生きて欲しい。


私が愛する人達、私を愛してくれる人達が幸せに過ごしててほしい。


そこにもし。まだ私を思い出してくれるなら。記憶だけでも混ぜてほしい。


それが私の最後の願いです。


もし華が遥輝のこと見つけて、遥輝が落ち込んでそうだったら、勇気づけてあげてほしいな。


遥輝に何も言えずに…遥輝の前からいなくなったこと。後悔するかもしれない。


でも。一番は遥輝の幸せを願ってる。


だから…私の代わりを押し付ける形になってしまって本当に申し訳ないけど、遥輝を頼みます。


見つけ出して救ってやって下さい。


絶対自分のせいだと思ってるから。


あなたのせいじゃない。


あなたは私の唯一の心の支えでした。


面と向かって言えなかったこと。


華が代わりに伝えといて下さい。


『『私は遥輝に出会えて幸せでした。

今までありがとう』』"


嘘だ…


俺は…千紗の想いも何も知らなくて…


どうして…何も言ってくれなかった…?


どうして…


『手紙通りです。遥輝さんのせいじゃないんです。周りの環境のせいです。なので私たち家族は誰も遥輝さんを恨んでなんかいません。もちろんお姉ちゃんも。なのでこれはお姉ちゃんや私たちからのお願いです』


『『これからは幸せに過ごして下さい』』


『もう気負う必要はありません。次の新しい恋もして欲しい。だから。千紗のことは忘れて下さい』


『…それは出来ない』


『え?』


『それは出来ないよ。絶対忘れない。俺の初恋が千紗だったから。こんな情けない奴が千紗の最初で最後の彼氏だったかと思うとほんっと情けないし悔しいと思うよ。護りたい人を護れなかった。それはもう俺の罪だと思ってる。だけど。罪だから覚えておくんじゃない。千紗という人間をなかったことにしないために…俺は絶対忘れないっ…絶対…っ…俺の方こそ…ありがとう…っ…少しでも俺が彼氏でよかったと。幸せだと思ってくれたなら俺は嬉しいよ…っ』


『ありがとう…っございました…っ。1つ謝らなければならないことがあるのですが…』


『…何?』


『先ほどのイジメの件、悠ちゃんが仕組んだことなんです…』


『…は?』


『悠ちゃんが"馬鹿兄貴を楽にさせてやりたい"って。私が千紗姉の妹だったこと、知ってたみたいで。お兄ちゃん想いのいい子だなって思って。クラス皆んなを巻き込んで芝居を打たせて頂きました。すみません』


『えっ…え?ああ…じゃあ華はイジメを受けていなかったってこと…だな…?』


『はい。すみません』


『なんだぁ〜…よかった〜…え、俺…ハズっ!』


『いえ、とてもカッコよかったですよ。クラスの子、普通に遥輝さんの話聞いてた感じでしたから』


『うわぁ〜…人生の黒歴史…』


『ふふ。でもお姉ちゃんが遥輝さんを選んだ理由が分かりました。芝居と言えど、護って頂いてありがとうございました。』


『ああ…どーいたしまして…』


『では。遥輝さん宛のお手紙渡しましたので。これで私は失礼しますね』


『あっ…ありがとう…てか…華自体は…大丈夫なのか…?』


『私…ですか?』


『いや、本当にイジメられてないなら全然問題ないし、千紗のこととかも…平気ならそれでいいんだ』


『確かに思い出すと助けられなかったのが悔しくて泣きそうになるあの日のことは忘れられませんが、私が今泣きそうになってることを忘れるくらい、遥輝さんが笑って幸せになってくれてることが嬉しいです』


『…そうか。これからも何かあれば俺に言ってくれ。力貸すから』


『はい。ありがとうございます。では失礼します』


華は帰って行った。


俺の手元に残された一通の手紙。


俺は絶対に忘れない。


千紗を救えなかった罪。


これは俺の中では決して消えない。


でも。


千紗の願いは叶える。


俺、ちゃんと千紗の分まで幸せになるから。


見ててくれよ。


ほんの少し、君より強く生きていくよ。


END

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