[短編]高杉BLD

“紅桜”って名前は綺麗なのにその正体は美しくない

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「──と、いうわけだ。優希も高杉には気を付けろ」


昼過ぎにやってきた、ロン毛をばっさり切られて自称イメチェンした桂から事の成り行きを聞いた優希。

一月ほど前に高杉がここへ、手を貸せと言いに来ていたことはとても言えない。

何をしろと言うのか聞いてもはっきりとは言わないために断りはしたが、その“紅桜”のために来ていたのかと合点はいった。

知ってもやはり優希には乗れない話だったが。


「晋助だってその程度の天人にお前ェらが殺られるなんて端から思ってなかっただろうよ。現に生きてるし」

「銀時は重傷を負って今も療養中だ。事もあろうか俺達を売って天人と手を組んだことが何より許せん」


桂の言い分は最もだが、何年か前に高杉と再会して以来、それなりの頻度で会っている優希は桂の口から語られたような高杉の変わり様は感じていなかった。

それ故に何を考え、何を成そうとしているのかはさっぱりわからないし口にもしないが、昔馴染みを売るなどは想像できなかった。

けれどそうまでして天人と手を組んだことには何か理由があるのだろう。

そして、本気で銀時と桂の首を取る気があったとは思えなかった。

二人の首を取る気なら千の天人がいても足りないくらいだ。


「俺は何も知らねーからわかんねーけど…もっと晋助を信じてやれば?」

「優希は高杉に肩入れしすぎではないか?アイツは昔とは変わってしまった…」

「そういうお前ェだって過激派爆弾魔から穏健派電波になってんじゃん」

「せめて“攘夷志士”や“テロリスト”と言ってくれ」


優希の脳裏には、師を失い、失意なんて言葉では足らない程の思いを抱えて去っていった三人の姿が今でも鮮明に焼き付いている。

その誰かの背を追うことすらできなかった当時の自身の情けなさに悔しさすらあったが、追うことが許されないようにも思った。

あの時、高杉の左目になることを誓いでもすればまた違う未来が待っていたのだろうか。


「まァ…アレだ。俺はまたお前らに会えて嬉しいよ」

「話を変えるな」

「そう言うなよ。もう生きては会えないかと思ってたのに銀時もヅラも江戸にいるし、坂本もちょくちょく仕事をくれるし…」


晋助も…と言いそうになり、優希はその言葉を飲み込んだ。

次に会ったら斬ると息巻く桂の前で、高杉がここへ出入りしていることを言うことは憚られた。


「俺は楽しいよ」

「随分と丸くなったものだな」

「年取ったってことだよ」


その後は何でもない話をして桂は帰って行った。






高杉が優希の元を訪れたのは、桂の来訪から半月ほどしてからだった。

夕方、優希がその日の仕事先から自宅に帰るといつからそうしていたのか、持っている笠も被らずに玄関の戸に背を預けてそこにいた。

桂の話から高杉は宇宙にいるとばかり思っていた優希は多少驚きはしたが、家に招き入れた。


「お早いご帰還で」

「何のことだ」

「ヅラがえらくご立腹だったよ」


優希のその一言で察した高杉は顔色を変えることもなく、草履を脱いで上がり込む。

勝手もわかっているため部屋の電気をつけ、来訪時の定位置に刀と笠を置いて、ソファに腰掛けた。

優希は提げていた荷物を仕事部屋に置いてから、手にしていたポストの中身をテーブルに放って台所で二人分の茶を淹れる。


「あんな雑魚に殺られるようなら平和ボケして鈍らに成り下がった証拠だろうよ」

「やっぱりな。ヅラの話を聞いておかしいと思ったんだよ」


高杉が懐から出した煙管に葉を詰めながら、台所に立つ優希の背に言えば銀時や桂への心配も、高杉への疑心もないような答えにいくらか毒気を抜かれて、煙管の葉に火を着けた。

茶を淹れた湯呑みを二つ持って、紫煙を漂わせる高杉の前に湯呑みを置くと優希はその正面に腰掛け、テーブルに自身の湯呑みを置いた。

そして煙草を一本咥えて火を着け、一口吸う。

桂を通して事の成り行きを聞いた優希だが、高杉にその理由などを聞く気配はなく、黙って煙草を吸って茶を啜り、時折煙草の灰を灰皿に落としながら、テーブルに放っていた郵便物やポスティングされたチラシを見ているだけの優希に、高杉は若干の居心地の悪さを感じた。

それは、今回ばかりは小言なり多少の干渉なり、何か言われてもおかしくはないと思っていたからだった。


「聞かねェのか」

「聞いても言わねーだろ」


再会して以来、何度も会っているが高杉のことを何も詮索しない優希と過ごす、“鬼兵隊総督”という肩書きも求められない、ただ一人の人間としていられる時間は高杉にとって貴重なものだった。

それは今回の一件を知っても変わらないらしい。はたまた、優希は高杉に対してもうその程度の興味しかないのか。


「フッ…興味ねェか」

「信じてるだけだ」


自嘲とも取れる高杉の笑いに、優希は視線を手元の郵便物から高杉に変えた。

そして高杉を真っ直ぐに見つめてそう言った優希の目は相変わらず真っ黒で、底も見えないが強さだけは昔と変わらず秘めていた。

その、強さを秘めた闇にも似た黒い瞳が高杉は好きだった。

底が見えないからこそ全て見透かされている気にすらなってくる。

実際にはそんなことはなく、優希は何も知らないし、言った通りただ信じているからこそ何も聞かないだけなのだが。


「でも紅桜だっけ?それは言ってくれりゃ手を貸したかもな。機能しねェようにするために」

「だから言わなかったんだ」

「仕事内容を聞かずに請け負うような闇社会には生きてねーよ。こっちは善良な一般市民なんでな」


高杉の煙管の葉が燃え切るのと、優希が煙草を吸い終えたのはほぼ同時で、先に優希が煙草を灰皿に押し付けて消した。

そして高杉は灰皿に煙管の葉を落とす。


「泊まってくだろ?宿泊料はコレな」


郵便物と一緒に入っていたらしい、寿司の出前のチラシを高杉の前に突き付けた。


「特上と上ちらし」

「どんだけ食う気だ」

「昼飯食ってねーんだよ」

「俺は特上だけでいい」

「決まりだな!」


機嫌よくチラシに載った電話番号を確認してそこに電話をかける優希を見て、いつか平穏な日々が来たらまたあの頃のように戻れるだろうかと思った高杉は、今更過ぎた望みかと密かに自嘲した。


20190410