その恋が不毛かどうかなんて縁が切れるまではわからない

男は猿な年頃を越えて人間に進化する

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屋上は生徒の立ち入りが禁止されている。

つまり、校内で最も人気のない場所と言えるかもしれない。

その場に残された俺にあるのは恐怖心のみ。

そんな人気のない場所で俺は高杉に何を言われるのか、どんな目で見られるのか、軽蔑の眼差しを向けられ罵られるのか。

はたまた口止め料と称して性玩具のように扱われるのか…それはちょっとおいしいな。

いや、ノンケのアイツに限ってそれはないか。

ありとあらゆるシチュエーションを考えて、今から心の準備をする。


「おー!優希!」

「浮かぬ顔だが、何かあったか?」


校門を潜ろうとしたところで銀時とヅラがやって来た。

銀時は俺の肩に腕を回し、ヅラは顔を覗き込んでくる。

二人のそれらの行動は別段変わったことではないが、今回ばかりはそっとしておいてほしかった。

というか、来るならもっと早くに来てほしかった。


「あー…恋煩いみてーなもんだよ」


「何でもない」と言ったところで妙に鋭いコイツらが納得するわけがない。

そこで半分嘘で半分事実のような理由を述べた。


「マジでか!?誰!?」

「やめんか銀時。無粋な真似をするな」

「そんなこと言ってヅラも気になってんじゃねーの?」

「ヅラじゃない、桂だ。バカを言うな。気になどしておらん。ただ佐藤先生はいかんぞ。何でも早くにご主人を交通事故で亡くされたそうでな…」

「お前ェほんと未亡人や人妻が好きだよな」


普段ならウザさしかない、俺を間に挟んだまま繰り広げられるバカ話が今は少しでも気を紛らわせるために有り難かった。

何ならずっとそうしててくれとさえ思った。だが、そうもいかない。

それぞれの教室の前にくると銀時もヅラも「またな」と別れてしまった。

そして俺が向かうのは高杉のいる教室。

いつもなら「高杉と同じ空間!」と秘かに楽しめる場だが、今はまるで酸素の薄い監獄に思えた。

放課後になんてならなければいいと思う俺の気持ちとは裏腹に、いつもは長く感じる授業も今日に限っては時間の経過を異様に早く感じた。


そして放課後…

高杉に言われた通り、屋上へと向かう。

階段を一段上がる度に足が重くなるように感じた。

無視して帰ろうかとすら考えた。けれどそれは問題を先伸ばしにするだけ。

屋上に出る扉の前まで来ると、大きく深呼吸を一回…そして、扉を開けた。

屋上は教師達の喫煙所として使われていたようで立付けの灰皿があり、そこに高杉がいた。

扉の開閉の音に高杉はこちらを一瞥しただけで、元のように遠くを見ながら煙草を吸っていた。

その側には行ったが俺から高杉に言いたいことなんて何一つなく、高杉の言葉を待つだけの時間。

高杉はまた煙を吸い込むと、まるで溜め息のようにそれを吐き出した。


「お前ェ…昨日のヤツと付き合ってんのか」


俺の顔を一目と見ずに告げられた言葉。

やっぱり見られていたんだ。

何て答えればいい…?

付き合っていることにしようか…それとも、正直にアレはただの遊び相手だと言おうか…どれならいい?


「答えに詰まるって事ァ付き合ってるわけじゃねェんだな」


何の感情も読み取れない高杉の言葉。

お前は一体何が目的なんだよ…。


「俺ァ別に軽蔑も何もしてねェ…ただ、アイツはやめとけ。半グレともつるんでるって話だ。深入りするとろくなことにならねェ」


灰皿に灰を落としながら言う高杉の表情は相変わらずで、何も読み取れない。

あくまでも冷静に…と思う一方で、心臓ははち切れんばかりにうるさく脈打っているのがわかる。


「心配してくれてんの?」

「お前ェに何かあったらうるせェ奴が二人もいるからな」

「なんだ、高杉が心配してくれてるわけじゃねーのか」


本当はわかってる。

高杉が心配してくれていることくらい。

ただ、コイツはこんな言い方しかできないだけだと。

す、と向けられた視線に何を言われるのかと固唾を飲み込んだ。


「心配、ねェ…病気には気ィつけろよ」

「そっちかよ!!…何なら試してみるか?」


自らの口の前で親指と人差し指で輪をつくって見せてみると僅かだが動揺したかのような高杉。

そりゃそうだよな、男同士だしお前はノンケだもんな。

でも…

アレ?これいけんじゃね?言いくるめればハメるまでは無理でもフェラくらいさせてくれんじゃね?高杉の勃起ちんこを見れるんじゃね?上の口で堪能できんじゃね?

と、頭の中で悪い俺が嬉々としている。


「フェラなんて目ェ閉じときゃ男にされようが女にされようが変わらねーよ」


距離を詰めようと、ゆっくりと高杉へと歩を進めるが高杉はその場を動こうとはしない。

いいのか?本当にいいのか?食っちまうよ?上の口で優しくシちゃっていいのか?


「場所を変えねェか。うちに来い」


煙草を消しながら告げられたその言葉に、言い出したのは自分だが耳を疑った。


高杉と吉成は教室に鞄を取りに行き、学校を出た。

吉成はずっと高杉の背を追うように後ろを歩く。二人の間に会話は一つもない。


高杉は一体何を考えているんだろう?言い出したのは俺だけど…


「ふざけんな」

「じょーだんだよ」


とか、そういうのを期待していたのに。

俺としては付き合えなくても、下の口で高杉の高杉を味わえなくても、上の口で堪能できるならそれだけでも美味しい展開だけどさ?口だけに。

それにしても高杉ってどんな生活してんのか想像できねー。

銀時が高杉にボンボンって言ってたからやっぱでかい家に住んでんのかな?それともでかいマンション?

アレ?金持ちならお袋さんは専業主婦で家にいるんじゃねーの?挨拶しなきゃ…


吉成が高杉の背を追いながらアレコレ考えていると、マンションが立ち並ぶところへと来ていた。

高杉はその中でも一番新しいと思われるマンションへと向かう。

吉成は高杉に続いて入り口を通り、エントランスの壁や天井の装飾を目新しそうにキョロキョロと見回す。

高杉はそんな吉成の姿につい笑みが溢れる。

そしてオートロックのパネルに鍵を差し込み、解除した。


「てめェは“お上りさん”か。早く来い。閉まるぞ」


開いた自動ドアのセンサーの真下からいつまでもキョロキョロしている吉成を呼ぶと、小走りで寄ってくる様はまるで犬だなと笑んだ。


ドアが閉まらないようにセンサーの真下で待ってくれていたのも、その笑みも、とにかく…俺は高杉が好きなんだと改めて認識した。

そして高杉に並んでエレベーターを待っていると緊張してきた…。


到着したエレベーターに二人して乗ると、高杉は「閉」のボタンと10階のボタンを押した。


「もっと上の階に住んでるかと思った」

「高いところに住むと降りるのがめんどくせェ」


ポツリポツリではあるが、吉成は高杉と会話ができていることが嬉しかった。

だが、緊張は強まる一方…


まずはお袋さんに挨拶して、えーっと、それから…高杉の高杉をアレして…て、お袋さんが途中で部屋に入ってきたらヤバくね!?


吉成の考えていることなどお構い無しにエレベーターは10階に到着して、高杉は廊下を進んでいく。

そして一室の前までくると解錠し、扉を開けて吉成に先に入るように促す。

だが、吉成としてはこういう場合は高杉が先に入って「ただいま」と言うものなのではないかと戸惑っていると、それを察した高杉が先に入っていった。

それに続いて吉成も中へと入るが、屋内に人の気配はない。

靴を脱いでいるとスリッパを用意され、それを履いた。


「両親とは別居で一人暮らしだから好きに寛げ」


高校生の息子を一人暮らしさせるために用意したにしては豪勢なマンション。

そして、通されたリビングのだだっ広さやテレビやソファの大きさ。

同じ高校生の一人暮らしと言っても大学生向けのワンルームマンションに住まう吉成とは大違いだった。

道理で銀時が高杉のことをボンボンと言うわけだ。

あまりにも広い空間に妙な居心地の悪さを感じながら吉成はソファの隅に小さく腰掛けた。


自分から誘ったとは言え、こうも間が開くと緊張せずにはいられない。


「水とお茶とコーヒー、どれがいい」

「水で…」


アイランドキッチン越しの問いに短く返すと高杉は500mlペットボトルの水を冷蔵庫から二本取り出して、そのうち一本を吉成に差し出した。


「ほら」

「ありがと…」


差し出されたそれを受け取るとさっそく蓋を開けて一口、二口と飲み込む。

それでも緊張からか、吉成の喉は渇くばかり。

高杉は自らのために持ってきた水をテーブルに置いて学ランの内ポケットから喫煙具を出し、それもテーブルに置くと学ランを脱いでソファの背もたれに掛け、その隣に腰掛けた。

そこには手が届きそうで届かない、もどかしい距離があったがテーブルに置かれた灰皿の位置からしてそこが高杉の定位置なのだろう。


「いつからだ」

「えっ」

「“吉成なら五千円でヤれる”って噂になってるぞ」


高杉は自身のために持ってきた水を一口飲むと、煙草を咥えて火を着け、煙を吐き出した。


20190406