キャラメルアワー

大野智

はぁ、夜勤って面倒くさそうよね。

事務専門だっていっても、正直仕事内容はクレーム処理。

どうせ眠くなるんだろう。

どっかコンビニかスーパーに寄って珈琲買ってくればよかった。

にしても暇だな。

暇つぶしに彷徨くついでにトイレに行く。

スッキリすると眠たくなっちゃう。

欠伸をしていると誰かが焦ってる。

「……松本?」

若いのにお仕事頑張っているんだご苦労なこと。

話しかけてみる。

「どうしたの?」

松本が焦りながらも丁寧に説明する。

「おいら行こうか?」

散歩で暇つぶしできるし、もしかして帰りに珈琲買えれるんじゃないか。

おいらの考えに気づかない松本が困惑する。

責任感強いな。

でも、おいら眠いし行くなら早く行きたい。

時計を見る。

最近早くから仕事を始めるくせに帰りは変わらない。それって労働法的にどうなの?

頑張りたいのはわかるけど、最終的に申請書を書くのは事務であるおいらの仕事。

おいらはこれ以上仕事が増えて欲しくない。

松本にはもう帰ってもらわなきゃ。

そして、そのお客様に連絡をすると今呑んでる、と住所を教えられた。“嵐タクシー”と背中に書かれたジャケット羽織って奥にいるもう1人の事務のおばちゃんに、「行ってきます」と声をかける。

はーい、と奥で返す返事を聞くと、おいらはその指定された住所に向かった。


「ここか。」

ちょっと古そうなマンション。

オートロックがないからそのまま中に入れる。

電話を聞きながら書いたメモを確認する。

「617号室……」

エレベーターに乗り込んだ。


チャイムを鳴らす。

出てきたのは感じのよさそうな男性。

お釣りの入った封筒を受け取り確認すると、はいっ!と言って笑った。

会社に戻ろうとしたら家の奥から声が聞こえた。

〈あれぇ、その人しょおさんの友達?〉

お客様はすぐさま応える。

[ちげぇ、さっきニノのせいでお釣り受け取り忘れたから持ってきてもらったの]

〈友達なら2人で今から呑みに行けばぁ?〉

[だからちげぇって!]

無能なやり取りを聞くのに飽きて帰ろうとしたら腕を取られた。

〈待ってよぉ〉

いつの間にここまで来たんだコイツ。

「すみません、会社に戻らないと」

お客様が申し訳なさそうに言う。

[申し訳ないです。ほらニノ、家にもどって]

無理やり中に押し込むと、ニノと呼ばれた男は〈相葉さぁん〉と奥に戻って行った。

お客様は見送り文句に、

「また来週もよろしくお願いします」と告げた。

おいらのお客様じゃないのに、なんだか嬉しくなってくる。

あの人、いい人だな。

嬉しくなったら目ぇ覚めてきちゃった。

「よっしゃ、頑張りますか」

帰り道、コンビニに寄り珈琲とキャラメル買った。

ちょっと冷える夜に珈琲の温かみが心地いい。

少し妹のことを思い出す。

あいつ、今頃頑張ってるのかなぁ。

よし、頑張るかなぁ。

キャラメルを1つ口に入れる。

「いち、にの、さん!」

走り出したおいらは仕事に向かって舵を切った。

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