キャラメルアワー

昔から歳の少し離れた兄は、私が何かと頑張ろうとすると応援するかのようにキャラメルをくれた。兄の頑張る時のルーティンらしい。

兄にキャラメルを貰うと魔法にかけられたように頑張ろうと思えるようになった。

だから、嫌な宿題だって乗り切った。

そうやって勉強を続けてきたからなのか、キャラメルのお蔭なのか、無事に大学を卒業するまで頑張りきった。

それから頑張る前に必ずキャラメルを食べるようになった。

「よし、ラストスパート!」

定時のチャイムが鳴る。

残りわずかな仕事を片付ける。

金曜日は月曜日までに仕事を残さないために少し残業しなくてはいけない。

キャラメルを舐める。

すると、上司が身を乗り出して聞いてきた。

〈今日残業?〉

あっ。

あまりこの会社は残業をいい風には捉えていないらしい。このオフィスで残っているのは私と上司の2人だけだ。

もしかして、私が帰るのを確認しないと上司も帰れない決まりがあるのかな……

毎週この状況が続いている。

申し訳ない。

1秒でも早く終わらせないと。

(キャラメル舐めて秒で終わらす!)

彼氏にメールを送る。

(ボクもラストスパート頑張るね)

今日は一緒に呑みに行く約束をしている。

金曜日のご褒美だ。

本当は知ってる。

婚約指輪買うために最近お仕事頑張ってるって。でも、知らないふりをする。

プロポーズされた時に思いっきり喜ぶために。

「……っと。よし、終わった」

上司に確認を貰いに行く。

あっ、誰かと連絡取ってる最中?

デスクの下で弄る携帯が見える。画面までは見えないけど。

私は堂々と彼氏にメール送ったのに。

学校じゃないんだから、デスクの上で弄っても誰も怒らないと思うけど。

申し訳ないけど声をかける。

ゴン。

今思いっきりぶつけたよね?

大丈夫!と笑う上司が確認する。

〈うん、おっけ!〉

よし、帰るぞ。

待ち合わせ時間には少し早いけど飛んでいきたい気分。

すぐに帰り支度をする。

「お疲れ様でした〜」

走りたくなる気持ちを必死に抑えながらも早足でオフィスを後にする。

廊下で誰かが鞄を漁っている。

探しものかな。

確かあれは……

「経理部の部長さん?」

だっけ。

部署が違えばよくわかんない。

たまぁに会議のお茶汲み係になった時に目にするくらいだ。

そんなことは今どうだっていい。

今するべきことは待ち合わせ場所に行くことだ。

待っててね、秒で行くから!

私は走り出してた。

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