キャラメルアワー

櫻井翔目線

今日は金曜日。

金曜日には金曜日の予定がある。

①定時ピッタリに退社する。

②嵐タクシーの松本さんが会社の下で待ってくれているから、乗り込む。

③帰り道の途中に買い物でお洒落な百貨店の3階のワインコーナーで赤ワインとちょっとお高いおつまみ。

④会計はカードで一瞬。

⑤大股で歩いてタクシー乗り場で待たせている松本さんに家まで送ってもらう。

⑥そしてゆっくり呑みながら録画したドキュメント番組を観る。

なんて完璧なスケジュールなんだろう。

今日はリスの親子のドキュメントだったっけ。

きっと至極だろうな。

そんなことを考えていると松本さんが、着きました。と素敵な笑顔で振り返った。

よし、時間通り。

「ありがとう、ちょっと待っててね」

そう言って買い物をするために車を出かけた時、目の前に2人の男が走り抜けた。

雅紀?ニノ?

後ろで今にも倒れそうなニノとは違い、雅紀は叫ぶほど元気だ。

今から彼らも呑むのかな。

たまには誰かとも呑みたいな。

呑むなら混ぜてもらえないかな。

1人酒より仲間と飲む方が絶対面白いよね。

「雅紀!ニノ!」

2人は気づかない。

楽しそうに走っちゃって。

余計混ぜてもらいたくなるじゃん。

今日の予定は緊急変更。

俺は絶対あの2人と呑むぞ。

「松本さん」と呼びかけると少しビックリして振り返る。

[ど、どうしましたか]

ちょっと声が裏返ってる。

「近くのコンビニに寄ってください」

[えっ、ここでの買い物は……]

「予定変更します!」

松本さんは理解しきれていないながらも車を発進させた。

近くのコンビニに着くなり手当り次第に買い物カゴにおつまみ、お菓子、お酒を詰め込んでいく。

会計はカードで一瞬。

店員の声を聞き終える前に店を出てタクシーに乗り込む。

確か年賀状を書く際にメモしておいたはず、と携帯のメモをタップする。

松本さんは画面を見るなり、

[この二宮さんという方の自宅に行けばいいんですか?]

雅紀と昼食を食べていた時に聞いた。

最近、金曜日にニノが励まし会?をしてくれるんだって。

今日の行先もニノの家だろう。

「お願いします!」

ドヤ顔の俺を確認すると、出発しますと車が動き出した。


ニノが住んでいるマンションの下まで着くと、2人はもう着いているみたいだった。

「おーい」

俺の呼びかけに雅紀が反応する。

目を輝かせながら近づいてくる雅紀は、まるで主人の待っていた犬のようだった。

《ニノ!翔ちゃん呼んだの?》

今にも吐きそうなニノが俺を見る。

あっ、今邪魔だって思ったでしょ。

わっかりやすいなぁ、ニノは(笑)

地面に座り込むニノは歩くことは元より立ち上がることすら難しそうな状態だった。

それにお構いなく雅紀はマンションに入って行こうとする。待って待ってニノは?

身体全体で息をしているニノを指さす。

「雅紀!ニノ、ニノ!」

雅紀が振り返らずに俺に指示を出す。

「翔ちゃん、ニノ持ってきて」

無理無理。

確かにニノは細身だよ?

でも、もう40近いおじさんに頼みますか?

しかもニノって男じゃん。

雅紀に放置されたニノは意識があるのかないのかわからないが、ずっと俺を睨みつけていた。

その顔やめて、怖いよ?

せっかくの可愛い顔が台無し。

仕方なくニノを持ち上げようとすると抵抗される。

こいつ、意識あったんだな。

雅紀に置いてかれて不機嫌真っ最中ですってか?

勘弁してくれよ。

俺別に悪くないだろ?

だから、睨むなって。

「俺で我慢しろよ」と強引に肩に担ぎ寄せようとする。

すると後ろから声が聞こえた。

[あっ……あのぉ…]

松本さん?

振り返ると申し訳なさそうに話を続ける。

[お代金の方…まだ頂いてないのですが…]

あぁ、忘れてた忘れてた。

うっかり。

1万円札を渡す。

「細かいのないんだ、ごめん」

松本さんは丁重に受け取ると車内にあるお釣りを取りに行こうとした。

すると、肩から思いっきり崩れる。

「ニノ!?」

ニノが俺の肩を振り払う。

目はずっと睨み付けたままだった。

クソガキかよ。

嫌な奴でも器用に接しろよ。

お前の得意分野だろ?

ニノは再び地面に座り込む。

呆れていると、松本さんが声をかけてきた。

[ボク、代わりましょうか?]

なんていい子なんだ。

この不貞腐れクソガキとは真逆だ。

好きな奴に放られ不貞腐るニノに話しかける。

[あの、ボクが部屋までお送り致しましょうか?]

でも残念だったな、好青年くん。

このクソガキは何を言っても聞かないと思うぞ。

心の中で健闘を称えた。

《いいんですか?》

思わず2度見する。

今までのクソガキはどこに行った?

えっ、俺にしか見えない存在?

可愛く目をキュルキュルされるニノに呆然とする。

なんなんだあいつ。

えっ……ニノって俺のこと嫌い?

大切な仲間だと思っていたのに。

な、わけないか。

ニノは仲がいい俺に八つ当たりしたかっただけだよな、可愛い奴め。

松本さんにおぶられるニノを見る。

ニノはおぶられながらしっかりと俺を睨んでいた。

もうなんなんだよ。

俺なんかした?

まぁこの続きはお酒を呑みながらゆっくり語るとしますか。

すると上から大きな声が聞こえる。

〈しょおちゃーーん!〉

雅紀か。

〈ニノまだーーーー?〉

鍵がないくせに1人で突っ走るからこういうことになるんだよ。

「今行ったーーーー!」

雅紀に買ってきたレジ袋を大きく見せる。

「呑むぞーーーーー!」

雅紀のテンションが上がったことが伝わる。

〈呑んじゃおーーーーー!!!!!〉

雅紀はニノ家の扉の前の通路から真正面に見える月に向かって大きく叫んだ。

おぉ、呑んじゃお呑んじゃお。

でも雅紀、近所迷惑になるから声は抑えような。

その時、松本さんに担がれたニノが家に着くのが見えた。

ニノが鍵を開ける。

雅紀とニノが手を振って松本さんに感謝し、家の中に入っていく。

よし、俺も行っちゃいますか!

ニノにいくら睨まれたって、俺は今日お前らと呑む!

帰らないよ。

帰るなんて予定はない。

前進あるのみ!

俺はニノの家に向かって歩き始めた。

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