キャラメルアワー

二宮和也目線

定時。いつもならすぐに帰るけど、今日は廊下でアイツを待ち伏せる。

携帯がうるさくなる。

画面には(ニノ!ニノ!)の文字。

来ましたね、待ってました。

ちょっと冷静を偽ってみる。

(なんですか相葉さん)

廊下からゆっくりアイツのオフィスを覗き込む。若い女の子と二人きり。頭を突っ込んでデスクの下で必死に文字を打つ姿が見えなくてもわかる。

(やったよ!!!!!)と言う文字と共に流れてくる全力笑顔の自撮り画像。

いい顔してる。

男の私でもわかる。

アイツの顔はいい。

どうせすぐに話をすることになる。

(話はまた今度(。-人-。))

そう送るとデスクの下から不満がだだ漏れしてるのがわかる。面白い。

あっ来るよ。

女の子が書類を持って行く。

ほら、目の前のことにのめり込むから。

驚いて思いっきり頭をぶつけた。

あれは痛いな。

誰にでも見せる笑顔を彼女に向けたことに優越感を感じた。

自分の方がいい笑顔知ってるし、とさっき送られてきた画像を眺める。こっちの笑顔の方がずっといいもんね。

オフィスから出て来る女の子にバレないように鞄を漁ってる演技をした。女の子が見えなくなるのを待つと電話をかけた。

(前見て)

相葉さんが顔を上げる。

びっくりした顔してる。いい顔。

手を振り、一言言って電話を切る。

毎度毎度懲りないね貴方は。

相葉さんは涙が溢れそうな瞳を必死に笑わせようとする。

今すぐ泣きたいんでしょ?

でもここでは泣かせないよ。

相葉さんの泣いた顔を見ていいのは私だけ。

毎週金曜日に少しだけ残業するあの女の子に惚れてること知ってる。

あの女の子がもうひと踏ん張りする時キャラメルをなめることも。

そして毎週金曜日に残業後呑みに行くのも知ってる。それも彼氏と。

でも相葉さんは知らない。

あの女の子に彼氏がいること。

相葉さんの恋は実ることはない。

あの女の子、もうすぐで結婚するかもよ。

この前呟いてた。もうすぐかもって。

全部知ってる。

だって相葉さんのことだもん。

相葉さんに関係する生き物は、どうでもいい女でも猫でも幽霊でも調べ尽くす。

でも言わない。

あの女の子にはまだ残業して貰わないと。

相葉さんは絶対に食事に誘えない。

あぁ見えても結構人見知りなんだよ。

誘えたとしても断られる。

そして真珠よりも綺麗な涙を流そうとするんだ。そんな綺麗な涙、ホイホイ誰にでも見せるんじゃないよ。

もし見た人が惚れたらどうするの。相葉さん優しいから断れなくて死ぬまで寄り添っちゃうかもじゃん。そんなのイヤ、許さない。

私は相葉さんの慰め役の皮を被ってずっと傍にいるんだってもう決めてるから。

「どうします?」

昨日、今晩慰め会するってわかってたからいっぱいお酒買っておいた。

用意周到でしょ?

当たり前、相葉さんと私のことだもん。

「ちょっと仕事残ってるかr」

残させないよ。

絶対今すぐ家に連れて帰るんだから。

「だからどうします?」

迫る私に抵抗する相葉さんもいい。

本当はこんな雑な扱いはしたくないんだけど。今日は仕方ない。

強引に腕を引っ張る。

鍛えてるんだな。いい腕してる。

でもちょっと重くない?

私みたいな脂肪の方が体重軽く済むよ?

一生懸命腕を引っ張る。

小刻みに伝わる相葉さんの振動。

笑ってる?

えっ、顔見たい。

でも今振り返ったらダサいよね?

ここは我慢我慢。

それにしても、ちょっといい匂い。

これはソフランだな。

新しくなったってCMしてたし、相葉さんが興味持って手に取った場面が想像できる。

と、そんな煩悩に苛まれていると頭上から声が聞こえた。

「贅沢搾りで」

咄嗟に理解出来なかった。一生の俯角。

「だから贅沢搾り!」

次は理解出来た。

ありますとも!ありますとも!

昨日、プレモルと麦とホップと一緒に買っておいたんだ。やっぱり私って気が利く。

はいはい、と堪えて応える。

本当は顔みて、目を合わせて……

でもそんなことしない。

こういうのはホロ酔いの時じゃないと。

家には当たり前のように揃えてある相葉さんのお泊まりセット。

明日はお休みだってさっき言ってた。

もうウフフが止まらない。

顔には出さないけど。

でも、何故か相葉さんにスイッチが入ったのがわかった。

ちょっと待って。

この時の相葉さんはちょっと嫌な予感がする。

「よし、ニノの家まで走ろ!」

予感的中。

最悪。せっかくちょっと整えた髪が一瞬で崩れる。

走るなんて聞いてない。

ちょっと待って。

本気で待って。

電車乗ろうよ。タクシーでもいいよ。相葉さんのためなら貯金崩すから。だからどうか走るのだけは、運動だけは……助けて。

それからの記憶は正直ない。

繋いだ相葉さんとの手がもげるくらい引っ張られたくらいしか覚えてない。暴れん坊の大型犬の散歩ってこんなんなのかな。

思考完全停止。

でも絶対手を離すものか。

それだけは命に刻んであった。

仲間を呼ぼうか、と言ったのはただの誘い文句であって今日は相葉さんと二人きりだと企んでた。

でも、私の記憶が再起動して一番最初に私と目を会ったのは翔さんだった。

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