キャラメルアワー

相葉雅紀目線

定時の5時、君の残業の合図はキャラメルを食べるか食べないか。

「今日は……」

チームの管理職を与えられている俺の席は、チームみんなのデスクを一望できる所にある。だから俺は君のことがよく見える。

こういう時だけ出世して良かったとつくづく思う。上司の嫌味なんて屁の河童?だっけ?

「……食べた。」

今日こそは食事に誘う。

明日はお休み。

だから時間を気にしなくていいよね?

絶対に誘う。

大縄に入るかのように椅子の上で助走をつけて君に話しかける。

「今日残業?」

君が申し訳なさそうに《はい》って応える。

うん、かわいい。

《でも…!もう少しで終わります!》

と君が頑張りポーズをするから、自然に「手伝うことがあったら言ってね?」と言葉が出てくる。

ずるいなぁ。

一瞬一瞬がかわいい。

君に勝てる男はいないよ、

なんて考えてしまう。

本当、その通り。

勝てない、かわいい。

《ありがとうございます》

そう笑う君は、やっぱりかわいい。

君にバレないようにパソコンをカタカタと適当に打つとすぐさま友達に報告する。

(ニノ!ニノ!)

すぐに既読がつく。

(なんですか相葉さん)

君にバレないように机の下にスマホを隠しながら必死に文字を打つ。

(やったよ!!!!!)と自撮り付きで訴える。

(話はまた今度(。-人-。))

はぁ?今聞いてよ!なんて考えてたら君の声が上から聞こえた。

「わっ!」

思いっきりぶつけたが頭を撫でる暇はない。

《大丈夫ですか!?》

「うぅん、大丈夫大丈夫!…………どした?」

君が、確認お願いしますと差し出してきた書類に手を差し伸べる。

「うん、おっけ!」

俺の言葉を聞くなり、君は安心した表情でデスクに戻り帰り支度をする。

さっき頭をぶつけた際にデスクの奥に飛ばしてしまった携帯を四つん這いになって探していると

《お疲れ様でした〜》

と君が帰って行った。

「待って!待って!待って!」

俺の声は届かない。

それどころか急に立ち上がろうとして、もう一度頭をぶつけた。

今回は頭をゆっくり撫で痛みを晴らした。

また君を逃してしまった。

毎度のことだが、この哀しみには慣れないものだ。どうすればいいんだろ。

自己嫌悪の最終地点はなんなんだろう。

泣きたい。

泣こうかな。

うん、バーッと泣いちゃお。


その時電話が鳴る。

携帯の居場所がわかり、取りに行き電話に出る。

(もしもし?相葉さん?)

(……ニノ)

(前見て)

廊下に目をやると友達が手を振ってた。

(一旦電話切るね)

そう言って俺の方に友達は向かって来た。

[どうします?]

「ちょっと仕事残ってるかr」

[だから、どうします?]

「えっ……ちょっと仕事…」

友達は深く息を吐き、若干睨みつけながら面倒くさそうに聞き直した。

[プレモル?麦とホップ?]

友達は、どうせ、と続けた、

[どうせ貴方、一人で用もなく居残って哀しみに浸るんでしょ?]

「えっ」

[そういうの女々しいし、ダサいですよ]

「うっ」

[明日用事ないですよね?]

「ないけど」

[じゃあゆっくり飲める仲間集めます?]

「だから今飲める気分じゃ……」

俯く俺に膝カックンした友達は強引に俺の腕を引っ張って部屋から出そうとした。

もう、泣きまくる予定だったのに。

頑張って引っ張ろうとする友達を見てると、なんだか可笑しくなっちゃって。

引っ張る友達に合わせて歩みだした俺は、友達が満足そうに微笑むのが見えた。

もう。

「贅沢搾りで」

[はい?]

「だから、贅沢搾り!」

はいはい、とやる気のない返事をする割には耳真っ赤だよ?

笑っちゃうじゃん。

たかが友達だよ?

恋人優先の歳頃なのに。

当たり前のように休日の前日を友達のために割くなんて。

賢いのに、馬鹿みたい。

そんなこと考えていくうちに、テンションが上がってきた。

走っちゃう?

叫んじゃう?

もうなにか発散したい気分!

どっちもしちゃおうかな。

うん、しちゃお!

「よし、ニノの家まで走ろ!」

[えっ、ちょっ……待って…3駅分…!?]

柄になく、大きな声出しちゃって。

[待ってください!無理です無理!]

「行けるって!」

次は俺が引っ張るよ!

月に向かって叫んじゃう?

きっとそれも楽しいよ!

走り始めたばっかなのに、後ろでもう体がモタついてる友達は見なくても想像できる。

[後で覚えとけよ……]

「受けて立つ!」

どうせ、すぐに酔いつぶれるクセに。

今日は飲むぞー!

テンションが上がったらまた君にリベンジしたくなってきた。

「ニノ!」

「俺、来週もがんばろっかな!」

振り絞った声が聞こえる。

「ばっ……かじゃない…の」

今は気分がいいから何を言われても怒らないよ。

今日は走りまくって乾杯しよう。

きっと絶対美味しいよ。

俺達が駆け抜ける夜の街はテレビに映ったあのアイドル達をを照らすサイリウムのようで、今見えてる景色全てが味方してくれてるようでテンションが上がって仕方がない。もう1駅追加したいくらいだが、そうしたら怒られそうだから今のこの景色をもっと堪能したくてちょっと走る力を抜いた。

走る距離が変われないなら、速度を変えればいいのかな。

でもそれは無理かな。

テンション上がっちゃって、下げたはずの速度がぐんぐん上がってくる。

「ニノもう少しだよ、頑張ろ!」

返事の代わりに一瞬繋いだ手が力む。

「ラストスパート!!!!!」

月に向かって叫んだ。

おちおち泣いてられないね。

来週は絶対に誘うんだから。

今日はその前週祭?

ではそろそろ、やっちゃいますかね。

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