前世からあなたを想ってる

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@nai9_twitwi

序章

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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何故、奴がここに、


「##NAME##・ホフマン中尉、ただ今着任いたしました。」


いや、そんなわけない、奴がここにいるわけが、だが、あまりにも似過ぎている、

その、アジア人にしては彫りが深い顔立ちが。

全ての光を奪うような黒髪が。

同じく深い闇を孕んだ黒い瞳が。

それでいて人好きのする眼差しが。



大隊編成にあたって、ターニャの壁をより質の良いものにするために行う簡単な試験を行っているときのことだった。その日は、東部軍から参謀らもその場にいたのにも関わらず、あまりのことにターニャは動揺を隠せなかった。そして暫定一生会いたくなかった奴はこちらを見据えて『日本語』でこう言った。


『久しぶりだね、ターニャちゃん♡』


そして、疑念は確信へと変わった。
















私は奴に嫌われていた。

奴とは幼馴染であった。

奴はよほど存在X(一般に神ともいう)に愛されていたのか、容姿が整っていた上、才能もあったため、周りにはいつも人がいた。

いつからかその才覚を発揮し、両親にはことあるごとに比べられ、私の自尊心は傷つけられた。

そんなことを知ってか知らずか、奴はいつでも私に構ってきて、嫌味を言ってきた。


「今回のテストも一位だったよ。」


自分より格下の人間を構うのがそんなに楽しいか。


「今度数学オリンピックに出ようと思うんだ。」


才能のない人間に自分の才能を見せるのがそんなに楽しいか。


「この前作ったスマホアプリがヒットしてさ、ぜひやってみてよ。」


なけなしの自尊心をズタズタにするのがそんなに楽しいか。


奴は私より格段に頭がいいくせに、高校も、大学も、あろうことか就職先も同じにしてきた。


一度何故か聞いてみたことがあったが、一緒に居たいから、という訳の分からない返事が返ってきた。

恐らく私ほどいじめがいのある人間がいないという意味なのだろう。

そうか、とだけ返した。


奴は私と同じ時期に会社に入ったが、私より数段上の立場にいた。

その立場を利用して、私にばかり仕事を振ってきた。

既に多くの案件を抱えていれば、一緒に残業してきた。

私にばかり仕事を振るのだから、嫌がらせだと思ったが、一緒に残業する意味は分からなかった。


--死んでもなお、理解できなかった。
















私は彼が大好きだった。

彼とは幼馴染だった。

小さい時から私は彼を愛していて、ことあるごとに彼に話しかけた。


「今回のテストも一位だったよ。」


だから私に勉強のことは聞いてよ、少しでも話がしたいんだ。


「今度数学オリンピックに出ようと思うんだ。」


校内順位が一位でも質問してもらえなかった。全国順位が一位なら聞いてもらえるのかな。


「この前作ったアプリがヒットしてさ、是非やってみてよ。」


君が好きなFPSだよ、楽しそうな顔が見たいんだ。


想いを伝えることができないまま月日が経ち、関係が無くなるのが怖くて高校も大学も、就職先も同じところにした。


一度何故か聞かれて、普段話しかけられることがないから、舞い上がって、思わず素直に答えてしまった。

一緒に居たい、なんて付き合ってもないのに気持ち悪がられるだろうか、と思ったが、そうか、と興味なさそうに返された。

引かれなくて良かったが、好きの反対は無関心というのはよく聞く話で、悲しくなった。


彼の上司になった私は、なんでもいいから会話がしたくて彼にばかり仕事を振った。まぁ、できた会話は、これお願い。了解しました。で終了する義務的なものだったが。

彼が既に多くの案件を抱えていれば、これ幸いと私も手伝った。

その度に不信感に満ちた目を向けられている気がしていたが、二人きりの空間に緊張して理由を問えなかった。


その日も彼はリストラ宣告をして、定時通りに業務を終了した。

もっと上手い言い方をすれば、あんなにあの無能は怒らなかっただろうが、前から言っても「上手い言い方」をする必要性を理解してくれなかった。


上司命令だと言って、あんな恨みを買うような言い方はやめさせれば良かった。


そうすれば、彼は--




















私はいつも通り、彼が退社したのを見送って、自分も退社した。

そしていつも通り彼の数メートル後ろを歩き、同じ車両に並んだ。

全ていつも通りだった。


『まもなく3番ホームに電車が参ります、黄色い線までおさがりください。』


その放送が入った直後、今日彼がリストラ宣告した無能が、彼を突き落としたこと以外は。


時間が止まったようだった。

世界が、私にこの瞬間を目に焼き付けさせようと、私に、あの時もっと強く忠告していれば、あの時こいつのリストラを別のやつに言わせれば、あの時彼の後をつける私以外の影に気づいていれば、あの時、と、後悔させようとしているようだった。

彼は宙を舞い、やがて電車に轢かれた。

私は絶望のあまりその場にへたり込み、そのあとどうやって家に帰ったのか覚えていなかった。


後日、彼の葬式が行われ、私も参列した。

私はメイクが崩れるのも気にせず、ボロボロ泣いた。いや、むしろメイクなんてしていなかった気がする。葬式の記憶もやはり、朧げだった。


唯一、はっきりと覚えてる場面がある。それは、彼の友人から話しかけられた時だった。


「彼からは貴方は彼を嫌っているのだと聞いていた。」


何故そんなに泣くのか、と聞かれ、彼を愛していたのだ、と伝えれば、拍子抜けしたように彼はそう言ったのだ。


信じられなかった、しかし、そうだとすれば全て辻褄が合った。

そりゃあ、自分を嫌っている人間が、あんなに話しかけてくれば、嫌悪と懐疑の目で見るだろう。

そりゃあ、自分を嫌っている人間が、進学先も就職先も一緒にしてくれば、何故か聞くだろう。

そりゃあ、自分を嫌っている人間が、一緒に残業してくれば、不信感に満ちた目を向けるだろう。

そりゃあ、ーー



私は、葬式の後は、他人の仕事すら奪うように打ち込んだ。

仕事だけが、彼を忘れてくれるものだった。

たとえ、それが少しの時間だったとしても、何もしていないよりは圧倒的にましだった。

職場を変えた。もう彼と残業することはないのだから。

住処も変えた。もう彼と同じ車両に乗ることはないのだから。

趣味も変えた。もう彼がゲームをすることはないのだから。まぁ、これに関してはやってもらったことは無かったけど。


それでも、夜になって目を瞑ると、脳裏に焼き付いたあの光景が浮かんできて、毎晩泣いた。


どのくらい月日が経ったのかわからない。

私はいつしか祈るようになった。そんな存在に縋るのは弱者のすることだと、バカにしていた行為をするようになった。

どうか、神が、神様が存在するのなら、私を彼のところへー-


そう祈り出して暫く経ったとき、世界が突如消えた。


そこにあったのは見渡す限りの白、それとテンプレ小説によくいる老翁。


「誰、ですか?」


『貴様の祈りを叶えようとするものだ。』


「何故、」


『向こうでの実験の結果、やはり【奇跡】は信仰心を芽生えさせるのに有効だと分かってな。ランダムで貴様が選ばれた。』


「そうですか、では、XX年XX月XX日XX時XX分......流石に秒数までは分かりませんが......XX駅3番ホームX号車X番ドアの列に並んでいたところ、クソ野郎に突き落とされた彼をご存知ですか?」


『......気持ち悪いほどに詳しい情報をありがとう。あぁ、分かるぞ。奴のところへ行きたいのだな?』


「えぇ、ですが死の先にあるのは無、いえ無を知覚することすらできないのでしょう?祈りを叶えるのは無理では?」


『いや、死の先にあるのは輪廻だ。そして人類は解脱を目指すべきなのだ。』


「あぁ、成る程。では、この世に転生しているところを教えていただけるということですね。」


『それが、奴は実験的に異世界に転生させたのだ。』


「成る程わからん」


いや、待て、この神を自称する老翁は先刻「向こう」での実験の結果と言っていたな。ということは向こうは今言った「異世界」でこの老翁は現代人が失うべくして失った信仰心をまた広く普及させるために「実験」を行なっているのか。


『随分と機転が利くようだな。』


「えぇ、まぁ。で、そちらへ私も転生させていただけますか?」


『あぁ。ついでだ、何か要望があれば叶えてやろう。』


「そう、ですね。ではその前にその異世界について教えていただけますか。」


『いいだろう。』


曰く、その世界では魔導適正なるものがあるらしい。

曰く、その世界では絶賛世界大戦中らしい。

曰く、彼は「ターニャ・デグレチャフ」となって帝国で大活躍しているらしい。


「成る程、では、時間の操作は可能ですか?」


『あぁ、できるが、』


「では、私の要望は四つです。」


一つ、男性に生まれさせること。

二つ、彼ー現ターニャより先に生まれさせること。

三つ、ターニャより魔力量を多くすること。

四つ、それを秘匿できる能力を与えること。


「彼は戦争ごっこをするのは好きでしたが、身の危険が生じるものはできるだけ遠ざけたいはず。彼が本当に望んでいるのは最前線ではなく後ろ。よって私が彼より出世して、偽装婚約でもなんでも結び、擬似寿退社で後ろへ下がらせます。」


『好きにしろ。では、よい第二の人生を。信仰心もお忘れなく。』



















これが、私の覚えてる前世の記憶。


一般家庭に生まれた私は両親に愛され、健やかに成長したが、魔導適正診断の結果、適正ありとされ、どうせ徴兵されるならと生存確率を上げるため、軍に志願した。最も、あれから毎週日曜日の祈りの時間、私に『奇跡』をもたらした自称神-私は無神論者だったため未だに神としては信仰していないーにターニャの遍歴を教えてもらい、彼女が「幼いのにも関わらず」という印象を多くの人間に与えていると推測し、それを変えるのは好ましくないと思って徴兵される前の年にだが。


そして、月日は流れ、既に誕生していたターニャは軍を志願し、軍大学を卒業し、いくつかの修羅場を超え、大隊編成を任された。

私は当然入隊を志願した。

かくして、私と彼女は再会を果たせたのだ。



「ターニャちゃん♡どこ行くの?その荷物持つから貸して?お礼は今度ランチを一緒にしてくれるだけでいいからさ♡」


「やぁ、ホフマン中尉。これから自室へ戻ってこの資料を精査するところだよ。その申し出は嬉しいが、生憎ランチを一緒にできる時間がない。自分で持つとしよう。君も予定があるだろう。さっさと離れてくれても構わないのだが。」


成人男性の平均身長より高いホフマン中尉と戦場に引っ張りだこのため栄養不足で発育の悪い、その歳の平均身長より低いターニャの組み合わせは、知らぬものが見れば通報しかねないほど不自然であったが、軍では見慣れたものとなっていた。

あまりのニコイチ具合に、実は恋仲なのではという噂すらあった。どうやら大隊採用試験時にその場に居合わせた参謀らには分からない暗号で会話をしていたらしい、という情報はそれをさらに加速させ、もはや一回りも違う年の差は気にされず、応援すらしているものもあった。


今世もその顔の良さからモテ、告白されて断ったら「いいんです、ほんとは分かってるんです。デキてるんですよね。」と聞いてもいないこの噂をつらつらと述べる女子から知ったホフマンは、今までロリコンと思われるのを避けてあからさまなアプローチを避けていたが、これ幸いと作戦をガンガンいこうぜに変えた。


しかし成果は上記の通りである。

ターニャ-正確に言えば彼女の前世だが-同様オタクであったホフマンは、その一貫で恋愛シミュレーションゲームもやっていたがあれはターニャには通用しないらしい。


「なーにがダメなんですかねー」

そう不満そうに言えば、即座に返答がある。

「そりゃあ、不誠実そうだからだろ。」

ターニャに振られたホフマンは代わりに上官ながらも親しくしているレルゲン中佐を誘い、食堂に来ていた。

「いやー、前からなんですよね。どうも彼女に対しては茶化しながらじゃないとうまく喋れないというか。」

「その辺の女性だとどんな話し方なんだ。これとはまた違うのだろ?というかお前は私に対してもう少し敬意を示した話し方をするべきだと思うのだが。」

ホフマンは、レルゲン中佐から友人なのだから、とこの話し方を推奨すらしたくせに、とムッとする。

「プライベートぐらいいいじゃないですかー。ちゃんとたまにある会議の時は堅く喋ってるんですし。」

ホフマンは立ち上がると少し離れた席に座っているヴィーシャに話しかける。

「あぁ、セレブリャコーフ少尉じゃありませんか。お一人で?」

ヴィーシャはK-brotを飲み込むと、ニコニコと答える。

「ホフマン中尉、こんにちは。えぇ、生憎友人とは予定が合わず......」

「なら向こうで私と一緒に食べませんか?レルゲン中佐も一緒ですが。」

「えぇ、もちろんいいですよ。光栄にも私は見本相手に選ばれたのですね。」

そういうと、ホフマンはしまった、と焦る。

「聞いていたのですか⁉︎不快ですよね、申し訳ありません‼︎」

その様子に、誤解を与えてしまった、とヴィーシャが弁解する。

「いえ!謝らないでください!私が、食堂に来た時にお二人を見つけて、どんなことを話すのか気になって耳を傾けてしまっていたんです!それに、私を選んだのも、他の女性を誘えばこの前のようなことが起きてしまうからですよね。むしろ私を選んでください!」


この前のようなこと、とは。と、いつの間にか隣の席までやってきたレルゲンが問う。


「あぁ、すみませんレルゲン中佐。私の分のランチまで持ってきさせてしまって。」

「構わないよ、勝手にこっちまで来たんだ、あまりに君らが互いに謝り倒してて面白くなってね。で、さっき言ってたのは?」

あまり話したくないことなのか、ホフマンがしどろもどろと口を開く。

「あー、今となってはどう考えてもあれはまずかったと思えるのですが、その時はあまりに私の想い人がツレなくて焦っててですね。」

よほど嫌なのか、中々本題に入らない彼が珍しく、レルゲンは思わず、それで?と続きを促した。

「そうです!本当にひどいんですよ!この方!デグレチャフ少佐へのアプローチの仕方が一般受けするか確かめるために他の女性にアプローチしたんです!」

ひどいですよね!あぁ、全くだ、と二人からの冷めるような視線に耐えきれず、ホフマンは思わず目を逸らした。

「いや、そんな目で見ないでください。こちらも必死なんです。一時期は、というか今もかもしれないですけど、彼女に私が彼女を嫌ってるとすら思われてたんです。

えっと、そうじゃないですよね。それで、その女性が、それで私が彼女を好きだと勘違いしたらしく、『私たち両思いだったのね!』とその、あろうことか軍寮でことに及ぼうとされたところを、ターニャに見られてしまいまして。」

「翌日『昨晩はお楽しみだったな。』って相当絞られて......彼女から逃げきれたから誤解だったし、訓練はキツかったし、あの冷めた目はもう一生見たくないですよ。」

自分より力がないはずなのに中々抵抗できなかった恐怖を覚えた直後に自分の好きな人からの軽蔑の目は相当効いたのか、ホフマンは思い出して泣きそうになるのをレルゲンが慰める。

「なるほど、ぜひ次はないようにしたいな。」

「あー、えっと本題はなんでしたっけ。」

ホフマンは話が飛びすぎてわからなくなり、問う。

「そうそう、少佐にもそのように敬語で話してみたらどうだね?」

「んー、前にやってみたんですが、『何を企んでる』って不審がられてしまって。」

もちろん、なにも企んでいない、企んでることがあるとすれば、ターニャと仲良くなりたいだけだと伝えれば、また嫌な顔をされたのだが。

純粋な疑問なのですが、と前置きをしてヴィーシャが質問した。

「何したらそんなに好感度がマイナスになるんですか?少佐は嫌いな人にも理性をもって接するイメージですが。」

「君には紳士的に振舞えているようだが、好きな人にはどうも軽薄なふりをしちゃうそうだぞ。」

心底可笑しそうにレルゲンが笑う。


「ほう、お前が私以外に軽薄に振る舞う奴がいるのか。知らなかったな。」

いつの間にか空いた向かいの席に座ったターニャが興味深そうに言った。


















「ほう、お前が私以外に軽率に振る舞うやつがいるのか。知らなかったな。」

そうターニャが面白いことを聞いたと、ニタニタして言うと、3人は目を見開いて各々驚きの声を上げた。


「デグレチャフ少佐⁉︎」

「いつから聞いてた⁉︎」


「たった今のことしか聞いてない。で?誰なんだ、その相手は、」

ホフマンが露骨に焦り、ターニャは目を泳がせる様子をますます面白がって返事を促す。

「あーっと、ですね、」

ホフマンはそう言いかけて、咳払いをする。

「勿論ターニャだけだよ、こんな振る舞いをするのは!」

ターニャは、またか、と呆れた。

「そうか、で、誰なんだ?」

ホフマンは基本的に明瞭快活に返事をするー少なくともターニャにはそう心がけているーが、珍しく口をもごつかせているのを不思議に思った。

「あー、珍しいね、ターニャがこんな話に乗るなんて」

ホフマンのわざとらしすぎる話題転換に、まあ確かにな。と多少不憫になってきて素直に答える。

「まぁ、そうだな。お前とは長い付き合いだが、一度も浮いた話を聞かなかったからな。」

「長い付き合いって、一体いつから知り合いなんだ?」

そう問うレルゲンにターニャはしまった、と狼狽えるが、ホフマンは間髪入れずに答える。

「そりゃーもう前世からに決まってるじゃないですかー!」

「ほう?それは確かに長い付き合いだな!」

と、可笑しそうに笑うレルゲンに、どうやら誤魔化されてくれたらしい、とターニャは安堵する。

「でしたら、ホフマン中尉殿の想いも前世からですか?」

ヴィーシャがキラキラした目でホフマンに質問する。想い?あぁ、私への嫌悪か。いや、嬉々として関わってきてたのだから、それとはまた違うか。ほんと、なんだったんだあれ。と、ターニャは少し思考を飛ばしているとホフマンの顔がみるみる赤くなっていっているのに気がついた。

「少尉、えぇと、あぁいえ、やっぱりなんでもありません。えぇ、勿論。私は、前世から、ターニャのことを。」

「ほら、ちゃんと最後まで言わないと。さっき、今も誤解されてるかもしれないと言っていただろう。」

またも言い淀むホフマンに、レルゲンがニヤニヤと、でもその眼差しは優しく、先を促した。

はて、先程からなんなのだろうか。もしやこいつ具合が悪いのではないのだろうか、そうターニャが心配し始めるほどに、これは珍しいものであった。

「うぅ〜......無理ですよ......二人とも意地が悪いですよ!そろそろ昼休憩も終わってしまいます。お先に失礼しますね。ターニャ、またね。」

「お、おう。」

まだ昼休憩が終わるまでには時間があり、明らかに言及から逃げるホフマンをターニャは見送った。

「それにしても意気地がないですねー。もう少し頑張ればよかったのに。」

「あぁ、全くだ。」

そう頷き合う2人に、いつの間に仲良くなったのだろうか、と思いつつも、ターニャは質問する。

「お二人は彼の想い人を知ってるので?」

「あぁ、知ってる。だが、くれぐれも私たちに聞くなよ。本人から聞いてやってくれ。」

全く意図が分からない指示にターニャは、はあ、と訝しげに答える。

「デグレチャフ少佐は好きな人など居ないのですか?」

ヴィーシャが前のめりになる勢いにターニャは若干気圧された。

「い、いや、恋愛的な意味を期待してるなら、特にいないが。」

「で、では、ホフマン中尉はどう思われてますか!?」

「ど、どうって。そもそもあいつが望まないし、私も望まない。」

そう、答えるとヴィーシャとレルゲンは後ろを向き、耳打ちし合っている。ほんとに仲いいな。私もそのぐらい打ち解けたいのだが。

「何故、そう思うんだね?」

今度はレルゲンが問う。まだこれ続くのか、というか貴方もですか、と呆れるが、幸いまだ時間もある。これを機にレルゲン中佐と親しくなれるかもしれないしな。とターニャは答える。

「彼が私を嫌いだからです。」

「そう考える理由は?」

まさか前世の話をそっくりそのまま話す訳にもいかないので、ターニャは頭で推敲しながら話す。

「彼は、私の頭の出来が良くないのを知っているのにもかかわらず、自分の知性を見せつけてきたり、私の持たない才能を披露したりと、何かと私に突っかかってましたからね。最近は、それがない代わりに別な突っかかり方をしていますし。大方自分より上の立ち位置にいるのが気に入らないのでしょう。」

そうターニャが告げると、2人はまた後ろを向いた。
















ヴィーシャとレルゲンは頭を抱えた。どうしてこんなにもすれ違っているのか。

2人は以前、ホフマンからアプローチの仕方がいけないのかもしれない、と相談を受けた際、彼がやった大体のアプローチを聞いていた。

ターニャに「勉強を教えて!」と頼られたくて、自分が勉強ができるということを示した。

だとか、

ターニャに尊敬してもらいたくて、ちょっと人には出来ないことを、それもターニャの好きな分野のことを、学んで、披露した。

だとか。

他にも色々と聞いたが、さっきターニャが言っていたのはこの2つの事だろう。どうもちょっと遠回りかな、でもまぁ、何もしないやつよりは頑張ってるじゃないか、と楽観視していたが、全て裏目に出ていたのだから、頭が痛い。

これは、どうにか誤解を解かなければ、と、二人の間で強迫観念にも似た何かが起こった。















「いやぁ、それは考えすぎじゃないか?ほら、さっきも好きな人は君だと言っていたじゃないか。」

少しの間の後レルゲンが返すのに、ターニャは乾いた笑みを浮かべる。

「あぁ、好きな人には軽薄になってしまう、でしたっけ?」

「それに、それを前提として見れば、ですが、先程少佐殿が仰ったことも別なとらえ方が出来ます!」

ヴィーシャがそう言うと、ターニャは、確かに自分はどうも偏った考えにいきがちなので、興味が湧いた。

「ほう、どんな?」

「自分の知性を見せつけてきたのは、少佐に勉強を教えたかった、とか、才能を披露したのは、尊敬されたかった、とかどうでしょう、割と真理なのではないでしょうか。」

なるほど、確かに。あいつが私を好きでいるのならば、という前提は必須だが、そういう捉え方もできる。少し、考え直した方がいいのかもしれん。「前」はともかく、今は嫌味ーたった今嫌味じゃなかった可能性も出たがーも言わないし、むしろ好意を示してるようにさえ思えるのだから。
















「さて、そろそろ本当に昼休憩が終わりそうですよ。さっさと片付けましょう。」

ターニャはそう言って、席を立つと、2人も片し始めた。

「是非、ホフマン中尉について、真剣に考え直してみてください!」

「彼のことで何か困ったら、気軽に頼って欲しい。」

何故か最後までホフマンの話が出たが、まぁ、部下と上司と親交が深まったので、気にしないでおこう、とターニャは食堂をあとにした。




















その夜、ホフマンはレルゲンとヴィーシャにディナーに誘われた。珍しいメンツだな、と思ったが、あのランチで意気投合したのだろうと1人合点して、誘いに応じた。作戦会議と称して長時間拘束されるのも知らずに。