僕と死神さん

カラス コンパス枠
@konpasu2017

18話 僕と記憶

「………。」


「………落ち着いたか?」


「……うん」


「覚えてるか?」


「……うん、眠る前のこと覚えてるよ」


「そうか」


僕はいつの間にか眠りについていたみたいで拘束も解かれていた。病室には死神さんと僕以外誰もいなかった。


「…………。」


「げぇんきないやぁぁぁあああん!!いややわぁもぉ〜!」


「…………。」


「ちょっとうちの子元気ないですねぇんどないしたらいいやろかぁ〜?なぁ!」


「…………。」


「ゲームでもするぅ?漫画はどないやぁ?」


「…………。」


「はぁ〜…せっかく元気付けようとしてんのに…全て無に返す」


「………。」


「…………。」


「………。ねぇ、死神さん…僕は別に病気でもなんでもないんだよね、体のどこが悪いとか…ないんだよね」


「…まぁ、強いて言うなら精神が悪いってやぁつ?」


「……僕の兄弟は、もういないんだよね」


「せやな」


「僕は…………【流星】













じゃない」








「………。」









「思い出したんだ。ここに来る前のこと…」


「へ〜…」





死神の瞳が灰色に光る




















今から思い出すことは、僕のたった1人の兄弟…兄の【流星】が生きていた頃の話。









僕の兄の流星は、運動神経も抜群で頭も良くて絵も上手くて僕と違って友達が沢山いた。


僕はそんな兄に嫉妬した。少しでも賢く見られたくて、「パパ」「ママ」の呼び方もやめて「お父さん」「お母さん」と呼び方を変えた。


少しでも兄よりお利口に見られたくて


兄はまだパパ、ママと呼んでいた。

こんな事で兄と差がつくわけが無いのは分かってる。だから僕は自分で読めもしないのに、小説や辞書を買ってもらった。分からなかったものは意味を調べ読み方を調べ、ノートや小説に書き込んだ。


手が鉛筆の字に擦れて黒くなる。

こんな努力をしても誰にも気付かれない。洗ってしまえばおしまいだから、別にそれでいい気付かれなくていい…


お父さんでさえもお母さんでさえも…兄でさえも


兄にこの本を触れてほしくない…僕の努力を兄に取られたくない…。

これは僕の努力だから








そしてある日、お父さんとお母さん兄と僕とで公園に出かけた。


兄は凄く楽しそうにボール遊びを僕としてる。

そして、僕が蹴ったボールが道路に飛び出した。


「僕取ってくるよ」


僕は道路を飛び出したんだ。


車が走ってきてることを知らずに






車のブレーキの音がけたたましく聞こえる。

僕は車に威嚇されてるように動けなかった。怖くて動けなかった。







「危ない!!!!」


そんな中、兄は僕の体を押しのけた。


僕は電信柱に強く体を打ち付けた。


兄は車に強く体を打ち付けられた。


「おい!!!おい!!大丈夫か!!おい!!返事しろ!!頼むから!!目を開けなさい!!」


「やだ…そんな!!救急車救急車!!」


お父さんとお母さんはすごく慌てていた。


僕は頭からドロリッと暖かいものが垂れてくるものを感じながら、意識が無くなった。



気付いたら、僕は病院のベッドの上だった。

沢山のチューブに繋がれて、頭に変なのを付けられて、口にはマスクのようなものが付けられている。

息をする事にマスクが曇る…


隣にお父さんとお母さんがいた。


二人と目が合った。二人は泣き崩れた。


「……ど、こ?どこ?」


「ここは病院よ?」


お母さんは泣きながら涙をそう答えた。


(僕が聞きたいのは…そうじゃない)


「……ど、こ?どこ…いるの?」


「………!!!」


お父さんは察したように目を見開いた


「……車のこと覚えてるか?」


僕はお父さんの言葉に頷いた。


「それで…ダメだったんだ」


「だ、…め?」


「死んじゃったんだ……。」


(………え)


「う、そ…だ、よね」


(僕のせいだ)


お父さんは首を横に振った


「あ、…うそだ…う、そだ…あぁ、うぅ、ぅあ、」


僕の目からは涙がボロボロと零れた。息をしずらい泣きずらい。叫びたい。

今の僕の体ではそれさえもさせてはくれなかった。












僕の体は直ぐには良くならなくて、兄の最後のお別れ…お葬式には行けなかった。


退院出来たのはお葬式から随分たった時だった。


退院した日は外食をし、家に帰れば疲れて直ぐに部屋で寝てしまった。久々に帰ってきた部屋はとても、とてもとても懐かしい匂いがした。

兄と一緒に過ごした部屋。

ベッドに寝転ぶと兄の匂いがした気がした。


兄の死を知らされてから、ずっと兄のことで頭がいっぱいで全てのことが頭に入ってこなかった。動くただの人形のようで…

でも、この部屋に来た時…僕の心に感情が戻ってきた気がした。











チーン…チーン…



(……ん?)

その音で目が覚めた。


僕は目を擦りながら音の方向へ近付いた。


「お父さん、お母さん……?」


リビングから繋がる和室の部屋の襖を開けると、お父さんとお母さんは並んで手を合わせていた。


「……お父さん、お母さん」


僕はもう一度そう呼んだ。

二人は肩をピクっと震わせ、こちらにキョトンとした顔を向けた。そして作り笑いのようなぎこちない笑顔を僕に向けた。


お線香の匂いがふんわりと僕の鼻を通り抜ける。

兄が好きだったお菓子やジュースを備えてあった。それと写真が飾ってあった。


(そっか…兄の…)


「ねぇ……













【流星】もこっちに来て手を合わせない?」











「……え」



「明日あたりに体調が良ければ、墓参りに行こうか【流星】」



「…なん、で?」


「流星?」


「流星?どうしたんだ?」


「…違う、僕は…違うよ…違う違う!!」


「ど、うしたの流星?大丈夫?」


「体調が悪いのか?」


お父さんとお母さんが近付いてくる。


「ちが、う!!違う!!違う違う違う違う違う違う!!僕は流星じゃない!!流星じゃない!!!」


「な、何を言ってるの?」


「落ち着きなさい、大丈夫だから」


「なん、で、僕を流星っていうの?!流星の方が優秀だから?!流星の方が生きてた方が良かったの?!」


「……っ!!」


パチーンッ!!


「…………。」


その時初めて、お母さんに叩かれた。


「二人とも…生きてて欲しかったわよ!!二人とも…いきて、欲しかったわよ……どっちが上か下かなんてないわ!」



僕の頬がジンジンする。


「……くっ!」


僕は自分の部屋に走り、扉を勢いよく閉めて鍵をかけた。


「はぁ…はぁ…」


(なら、どうして……僕を流星って呼ぶの?お母さん…)


「う、うぅ……グスンッ」


僕は隅で泣き崩れた。

僕は…もう、お母さんとお父さんの中には存在しないらしい。

僕は…もう存在しなくなってしまった。


「僕は……りゅ、【流星】


僕は流星…僕は流星…僕は流星僕は流星僕は流星僕は流星僕は流星僕は流星僕は流星僕は流星…」






僕はずっとそう唱えた。








コンコンッ


扉をノックする音が聞こえる。


「あ〜…えっと、腹減ってないか?夕飯出来てる、ぞ」


お父さんの声が聞こえる。


「……う〜ん、お母さんがな?大好きな物い〜〜っぱい作ってくれてるぞ!早くしないとお父さんが全部食べちゃうぞ!……なぁ〜んて、…は、ははは!」


ガチャ…


「それは、ダメだよお父さん」


「……!」


扉を開けた僕にお父さんは驚いた顔をした。


「冗談さ!さすがにママに怒られるからな!パパのためじゃないのよってな」


「そうだね…」


リビングに行くと、とても豪華なご飯があった。


「あ、きたきた〜!どう?嫌いなものなんてひとつもないでしょ?今日は特別の特別ね?!ささっ!手を洗ってきなさい!」


「……。お母さん、ごめんなさい」


「…へ?」


「あんな事…言って」


「いいのよ、ママも叩いちゃってごめんなさい。痛かったでしょ…本当にごめんなさいね」


「…ううん、大丈夫だよ」



「…フッ、ママと仲直りしたし!早くご飯にしよう!」


「もぉ〜パパったらはしゃいじゃって…」


僕は手を洗い席に着いた。


「それじゃ!流星の退院を祝って!カンパーイ!!」


「ふふっ…もう、パパったら!それ私が1番に言いたかったのにぃ〜!カンパーイ!!」


「かんぱーい」


もぐもぐ…、もぐもぐ…、


「流星?ご飯美味しい」


「うん、美味しいよ…お母さん」


「流星、今度遊園地に行こうか」


「うん、とても楽しみだよ…お父さん」








こうして、僕は…死んだ。


僕は流星になれた…つもりだった。


でもどこかで…僕だと気付いてくれたら…と思った。








僕は流星じゃないことをした。


小説をねだったり、

「お父さん」「お母さん」もそうだ。流星は呼ばない。


そして、絵も…流星じゃないようにした。僕が描くような絵を描いた。


その度に、お父さんとお母さんに見せた。


そして、段々二人の表情が曇り


僕がここの病院に連れてこられる事件がおこった。












「…いい加減にしなさい!!流星!!お前は…お前は…【△◆♀♯】じゃない!!」


「………」


「パパ…」


「本当のことだろ?!……頭がおかしくなりそうなんだ」


「違う…違う」


「…流星?」


「僕は…僕なんだ!!僕は僕なんだよ!!!」


僕は近くにあったハサミを持ち、お父さんとお母さんに攻撃を仕掛けた。


「流星!!やめなさい!!!」


「きゃ、流星!!やめて!お願い!!」


子供の力では大人に結局勝てなくて、僕はハサミを取り上げられ部屋に押し込められた。


暴走した後、僕の記憶は抜け落ちた。


僕からしたら二人はおかしくて、お父さんとお母さんからしたら僕がおかしく見えたんだろう。


そして、この病院に入院という形になった…。


僕を…流星にさせるために














「………どう?これが僕だよ、これが…僕、ハハハ…優れてる兄の方しか記憶は残らないんだよ…きっと」


「…………。」


「そういや、そろそろお父さんの誕生日だよね?」


「せやな」


「死神さん…死神さんって人生最後のお願い聞いてくれるんだよね?」


「せやな」


「なら、僕のお願い聞いてよ?」


「…分かった。お前の人生最後の願い聞いたるわ」


「良かった……ってもう言わなくても心が見えたなら僕の言いたいこと…わかるよね?」


「あぁ、分かってる」


死神さんは懐から綺麗に巻いた紙を出した。


「ほら、また描くの面倒やろ?これ使え」


僕はその紙を受け取り広げて中を確認した。


「これ…取っててくれたんだ」


「せやで〜、感謝しいやぁ〜♪」


「うん、ありがとう死神さん」



僕は誕生日まで見つからないように隠した。


「それじゃ…お願い…守ってよね」


「わかってる…んで?反対になった場合どうすんや?」


「そうだね…それでおしまいかな?僕の人生最後のお願いは…まぁどっちにしろ最終的な結果は変わらないでしょ?」


「まぁ、せやなどっちにしろやな」


「ふふふ…なんだか、面白いなぁ…」


「そうか」


「…今まで僕のためにやってくれたんだよね死神さん」


「まぁ、行動はせやな…火をつけたりもお前の記憶の一部やしな…俺を変人みたいに思ってたみたいやけど……じとじとっと…」


「あはは…ごめんごめん、でも…僕のためにやってくれて嬉しかった…ありがとう」


「うげっ!!おぇっ!死神にありがとうなんて…うげぇ〜気持ち悪!!マジ無理!!吐き気おぇっ!」



「そんなに?!」


「俺には拒絶反応不可避や…あぁ、まじで…無理や」


「せっかくお礼言ったのに…」


「そ、れ、に、死神にお礼を言うもんちゃう!俺がおらんかったらお前だって俺に魂奪われんで済んだわけで、大人まで生きれたわけやしな」


「…でも、魂奪うのは前に言ってたじゃない…僕は病気で死ぬわけじゃないからきっと…いけないことをするんでしょ?将来…、ふふっ仕方ないよね…仕方ない…何をするのかは分からないけどね…」


「…………。」


「…どうしたの?」


「いや、別に…とりあえず疲れとるやろ?寝ろ。…また明日な」


「うん、また明日…死神さん」


死神さんは窓から出ていった。


「…また、明日……いつまで死神さんにそう言えるのかな?…なんて、ね」













屋上にて……


「…なんのようや、これは俺の獲物なはずやけど」


「絆を感じましたが、私の気のせいでしょうか?あなたの心が揺れている気がします…が、さらに余計な行動が多いようですしね。あなたらしくない」


「…上司やからってなんでも知ったような口聞くな…俺は俺のやり方でやる。前と同じこと聞く気か?おれは執着しとるわけやないただの暇つぶしやし、プライベートまでやいのやいの言われた無いって言ったはずやで…俺のオカンよりうるさいわぁ〜…」


「だから、あなたには母も父もいないでしょ?あなたは純死神…生まれも育ちも死神。愛など知らない死神でしょ」


「…嫌なこと言うなあんた、そんなこと言うために来たんかって」


「いいえ、これは忠告です。どう足掻いても決められた運命は変わりません。肩入れするのはいい加減にしておいた方がいいと思いますよ?後で辛くなるのはあなた自身なのですから…いくら人生最後のお願いを聞いてるとしても…ね?」


「ハッ!決められた運命ねぇ…リストに乗ってないのに魂をとり、1人の少年の決められた運命を無茶苦茶にしたのはどこのどいつやったかなぁ…そんで、それを見て見ぬふりしたんも…誰やったかなぁ…?……なぁ??俺はお前らの汚いケツを拭いたってんねんぞ?……わかっとるやろ?」


「そうですね、それがなければこんなにあなたが苦労することもなかったでしょうに…。まぁ、私はリスト通りにして頂ければそれで構いませんので…あなたがどうするか…とても楽しみにしてますよ」


「はいはい、ストーカーはさっさと帰れ」










(……帰ったか、本当に薄気味悪い奴や…変に好かれとるし、あーあ、嫌だ嫌だ…中々偉いところに位置してる上司やし、気持ち悪…うぇ)


「絆を感じると訳分からんことを言うし……。ふんっ俺は人間は嫌いや…さっきの上司もな…人間より嫌いや」


(愛など知らない…死神。か)


「フッあははは…あははははは!!あははははは!!!!












……めんどくさ」

著作者の他の作品

おじさんの大きな独り言。おじさんについて行って、歩きながら聞くのも自由。...

もしも、思考が僕と同じならいったいどんな世界になるんだろうただ……ふとそう...