海辺の彼女

さとうましろ
@lily_edd

いつもの日常

憂鬱な月曜日。俺は今日も重たい腰を持ち上げて朝飯を食べ

歯を磨き、少し跳ねた髪をちょっとだけ整えて制服を着る。

スヌーズでかけたスマホのアラームを止め、イヤホンをつけて

音楽をかける。


「いってきまーす。」


誰からも返事は返ってこないアパートに言葉をかけてドアノブに手をかける。


まぶしんだよなあ…この階段…。

眠たい目を擦りながら階段をたんたんと降りていく。

自転車にまたがり、学校とは正反対に走る。

時刻はまだ6時前。登校の時間よりもまだまだ余裕はある。


俺はいつも平日はこの時間に家を出る。

向かう場所は例の海。

誰か分からない女から頼まれた守らなくてはいけない少し離れたあの海。


なんで俺が守らなきゃいけないんだろう…


たびたびそう思うが誰か分からない女の正体が明らかになるまでは

少し待とうと最近は思うようになってきた。


朝の活動はポイ捨てされたゴミを捨て、大きめな流木などをどかし、

息を整えてまた自転車にまたがる。

特に汚れた海でもないし、することはあまりない。

でも記憶の片隅にあるあの女のために…俺のために活動を続ける。




今日はのんびりし過ぎたか…。月曜日はロングホームルーム、略してLHRがある。

LHRの始まりぎりぎりに教室に着いた。


「おーっす。今日遅くねぇ?遅刻ぎりぎりじゃーん。どした?」


同じクラスの中川が挨拶がてら理由を聞いてきた。

最近よくつるんでる仲のいい友達だ。

初対面の時は慣れなしくてなんだこいつ…とか思ってたけど

つるんでみるとなかなかの良い奴だった。


「いや、ちょっと寄り道したら危なかった。」


中川には女の存在は言ってないしこれは嘘ではない。

海は寄り道だし間違ってはない。


ふーんと興味なさそうに自分の席に戻って行った。

俺も席に座ったところでチャイムが鳴った。



てきとーに退屈な授業を受け、いつも通り…を過ごしてるはずだった。


「おい橘!!!!!」


担任の罵声ではっとした。

え、え?

なんで俺みんなの視線浴びてんの…?

え……

あ、まじか、俺寝てた?

やっちまった。俺今日日直じゃね…?


「おい橘聞いとんのか。日直日誌まだかぁ?」


みんなの視線が痛い…

注目されるの嫌いなんだよなあ…

日直なの忘れてたし…やべー…日誌とか書いてねー…。

どうしたものか…。

てきとーに言い訳して期限延ばそうと声を出しかけた時に


「__________。」


え、今なんて…?


「おう。待っとるな。」


「____はい。」


ぼーっとしてる間に俺への視線はなくなっていた。

そして帰りのHRが始まった…。

あの声は誰だったんだろうか…

なんて言ったんだろ…。


新しく出たゲームに夢中になりすぎたせいか、

寝不足気味だった俺はまた眠りについてしまった。




「_______くん。_______くん。」


声がかすかに聞こえる…。

意識が遠い俺の耳には届かない。


「_______くんっ。___橘くん!!!」


「ふあ…っ!」


「もう!いつまで寝てるのよ!!みんなとっくに帰ったよ!」


「へ…。」


突然の大きな声に俺は女みたいなひょろい声をだして飛び跳ねた。

机に突っ伏して寝ていたからか、腕が痛いし頬がひりひりする。


俺の机の前に仁王立ちして立っていた女に状況説明された。

俺ずっと寝てたのか…。弁当食った覚えもないし

移動教室で席を立った覚えもない…。


「みんなが揺さぶっても大声だしても叩いても起きなかったのよ!

今も起きなかったから逆に心配しちゃったよ。」


「そう…なんだ…。」


なにをされても微動だにしなかったみたいだな…俺…。

ゲームをやり込んでしまったせいか…。


「はー…。日誌書いといたから提出して帰りなさいね!!」


ばん!と大きな音を立てて日誌を置いたままどすどすと帰って行った。

あの女は確か…安達…だったか?

顔と名前が未だに一致しない。とくに女子は。

もうこの高校に入学して半年以上経つっていうのに

まだクラスメートの名前すら覚えきれていない。

そろそろ覚えねーとやべえな…


そんなことを思いながら日誌を手に取り、朝のLHRから全く出してない

教科書やらなんやら入ってるリュックを背負って

教室を出た。


職員室に入って、学年、クラス、名前と要件を言って日誌を担任の机に提出する。

なぜか緊張するんだよなあ…職員室って…。


「1年B組橘理央です。日直日誌を提出しに来ました。」


とくに注目もされずすっと提出し、寝てたことに少し怒られながらも

担任に心配された。体調のこともだが成績のことも。

俺は人並みの成績で上がりもしなければ下がりもしない

平凡な頭だった。

だからこそ少しづつあげていかないと抜かれるぞと余計な心配を

聞き流して職員室を出る。


ポケットからイヤホンをだして音楽をかける。


好きなバンドの曲を選択しながら靴を取り出し、駐輪場に向かって歩き出す。

昼間のカラッとした空気より少し潤った気がするような…

風なかったからか…。窓際なのに風全くあたんなかったんだよなー。

ちょっとさわやかな風が吹いてて気持ちいい。


自転車にまたがり、そよ風にあたりながら海に向かう。

あれ?あんま今日荒れてないなー。

月曜日は子連れで夕焼けを見に来る人が結構いて、荒れてたりすることがよくある。

でも今日はそうでもなさそうだ。


来た意味あんまなかったかもな…。

しょっちゅうこの海に来るけれど、なんだかんだいって少し家と学校から距離がある。

こんな日はなにもすることがなくてまた憂鬱になる。


「…かーえろ。」


ぼそっと呟くように声をだしてくるっと振り返った時だった。

女の声がしたのは。


「______ねぇ。なにしてるの?」