BABEL

はねまる
@ha_ne_maru

出会い

__声が聞こえる


透き通るように美しく、しかし同時に地の底から響くような声。

何故か無性に耳を傾けたくなるような、声。


しっかりと聞き取りたいのに、ぼんやりと靄が掛った頭では何を言っているのか理解できない。


__君は、誰…?


声が遠退いていくのを感じて、必死に追いかける。

声の主も僕を呼んでいるかのようで。


__待って、待ってよ

____行かないで、***……!


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ここはイナンナ

交易が盛んで、様々な人間が生活する活気あふれる都。

‘‘人の大陸‘‘の中でも指折りの文明都市で、安全度も高い。


だが外はその限りではなく、まだまだ整備されていないエリアも存在する。

そういった場所は無法者や魔物の巣窟になっている場合が多く

街から街へと移動する事は戦う力を持たない者にとってはまさに命がけの行動なのである。


そのような人間を護り、無事に都へと送り届けることを主な稼業とする者たちがいる。

この青年、キドもその一人であった。


キドは依頼主の商人と話をしている。

今日は何事もなく街に着けそうだ、とか今日は天気がいい、とか。

一見人懐っこい笑顔を浮かべ楽し気に話をしているように見える、が…

その瞳の奥は冷めきっているようだ。


_退屈だ。


_何か、何かないか


_この退屈な日常をぶっ壊す何か…


そんなことが起こり得る筈がないと、彼が自嘲気味に笑ったその瞬間

耳を劈くような獣の咆哮、鋭い爪が地面を抉る音が聞こえた。


「!?…ッおい!俺の後ろから出るなよ!!!」


キドは咄嗟に依頼人を背に隠し、腰に下げた柄から剣を抜き身構える。

声の聞こえた方に視線を投げると、何かがこちらに向かってきていることに気付いた。


(…?なんだあれ…?砂埃がジャマでよく見えねえな…)


こちらに向かってきているのはこのあたりに生息するグランドウルフという魔物だ。

だがキドの視線を奪ったのはそちらではなく


(人…?人が追いかけられてるじゃないか…!)


それを認識した瞬間、キドの脚は地面を蹴っていた

一瞬で距離を詰められた魔物は標的を今まで追いかけていた人間からキドへと移す。

鋭い牙がキドの脚を捕えようと襲い掛かるが、寸でで身を躱し魔物の喉元に蹴りを入れる。


「き、君は…!?」

「話は後だ!あのオッサンのところへ行ってろ!」


魔物は一瞬怯んだものの、直ぐに鋭い爪を地面に食い込ませ、キドに飛び掛かった。

キドは剣を振り上げ、魔物の牙を防ぐ。

グランドウルフは体高1M弱の小型の魔物だが、顎の力が強く持久力が高い。


(早めにカタ付けねぇと、やられんのはこっちの方だな…!!)


腕に力を入れ、魔物を跳ね返す。

剣に跳ね返され、バランスを崩した隙を突き、魔物の急所に剣を振り下ろした。


「ギャンッ」


魔物は短い悲鳴を上げ、満身創痍で近くの森へと逃げ帰っていく。

キドは、剣を柄に収め、短く息をついた。


「……おーい!!もう大丈夫だぜ!」


後ろを振り向き、依頼人に声をかけながらそちらに向かう。

安心したように笑っている依頼人の後に、先ほど助けた人物が居るのが分かった。

よく見てみると…その人物は齢16ほどの少年で、よくいる黒髪だが毛先が金色に透けている。

そして宝石のような蒼翠の瞳をこちらに向けている。


「あの、助けてくれて…」

「いやー!はは!助かったよ!」


少年の小さな声を大きな笑い声がかき消す

商人がバンバンとキドの背中を叩いてくる。少年は少し気圧されてしまっているようだ。

キドは少し困ったように頬を掻き、一先ずは商人を街へ送り届けることにした。


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