黄昏のバベル

はねまる
@ha_ne_maru

1-01:出会い

温かい光の中にいた。


自分の形を、認識することが出来ない程に 深く微睡んだ意識は ふわふわと光の中を浮遊する。


ここはどこだろう 僕はなに?


もう随分と長く ここにいるような気がする。ここは温かくて とても居心地がいいところだけれど。



_____外に出なくちゃ。


突然 そんな考えが浮かんで

光の中をゆっくり ゆっくりと。

徐々に 体に輪郭が生まれていくのを感じながら、外の世界に意識を集中させる。


___さあ 世界を見に行こう




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ここはタランナ


バウムガルドという小さな国の南端に位置する交易が盛んな街。

決して大きくはないが、街中は常に人で溢れ賑わっている。

その為街とその周辺はしっかりと整備されており、安全度は高い。


だが街から離れればその限りではなく、交易ルートを狙う無法者やモンスター等と出くわすことも珍しくはなかった。


その為戦う力を持たない商人たちにとって、街から街への移動はまさに命がけの行動なのである。


まさに今、1人の商人がその積荷を狙う無法者数名に取り囲まれている。


「な…何だあんたたちは…!」


「ギャハハハハッ!荷物置いてけよお、死にたくなけりゃなあ!?」


ゲラゲラと下品に笑いながら 男は武器をチラつかせて商人を脅す。

気付けばすっかり囲まれ逃げ場を失った商人はすがるような目で男たちの方を その向こうを見る。


「ンだぁ?その顔!命乞いでもすんのかよぉ!?ギャハハ!」


男たちはそんな商人を見てゲラゲラと笑う。

この商人から積荷を奪うことは容易だと油断しているのだろう。ーそんな彼らに近づく影が1つ。


「よお、楽しそうだなあ兄さん方!」

「……あ?」


影ー青年は1人の男の肩にぽんと手を置き人懐っこそうな笑顔を浮かべてみせた。


「俺も混ぜてくれや」


言い終わるが先か、青年の拳が男の頰を打ち抜く。

男は抵抗もままならないまま 力なく地面に倒れこんだ。


「ッ…テメェ!!!」


それを見た男たちは一斉に武器を構え青年に襲いかかる。

青年はふう と息を吐き腰から剣を引き抜き、男たちの攻撃を弾き飛ばしていく。

攻撃を弾かれバランスを崩した男の腹に膝をめり込ませ、無力化する。


その動きはよく訓練されたもののようで、青年は息1つ乱さない。

気付けば青年の周りには商人を襲った無法者の全てが倒れこんでいた。


「よし、こんなもんか。…おーい、大丈夫か?」


青年は剣を腰の鞘に収めるとパンパンと手を払って呆然と立ちすくんでいた商人に声をかける。

商人はひどく安堵した様子で青年に礼を言い、辺りを警戒するようにキョロキョロと見渡す。


「キド…悪いがここから護衛を頼めるかい?やはり一人でこの道を通るのは無謀だったよ。」


キドと呼ばれた青年はガサツに束ねた赤髪を揺らし、いいぜ!と軽快に頷いた。




商人が少し乱れた荷を整えて街へと向かおうとした矢先、少し離れたところから獣の咆哮のようなものが響いた。

方向は唸り声に形を変え、どうやら近づいてきているようだった。


「おいおい…今日は続くな……。おい、俺の後ろから出るなよ。」


キドは商人にそう指示し、腰に下げた柄から剣を抜き身構える。

声の方に目を凝らしてみると、徐々にその姿がはっきりとしてくる。


(…?なんだあれ…?砂埃がジャマでよく見えねえな…)


こちらに向かってきているのはこのあたりに生息するグランドウルフというモンスターだ。

だがキドの視線を奪ったのはそちらではなく


(人…?人が追いかけられてるじゃないか…!)


それを認識した瞬間、キドの脚は地面を蹴っていた

一瞬で距離を詰められたグランドウルフは標的を今まで追いかけていた人間からキドへと移す。

鋭い牙がキドの脚を捕えようと襲い掛かるが、軽く身を躱しグランドウルフの喉元に蹴りを叩き込む。


「き、君は…!?」

「話は後だぜ、あの商人のところへ行ってろ!」


グランドウルフは一瞬怯んだものの、直ぐに鋭い爪を地面に食い込ませ、キドに飛び掛かった。


キドは剣を振り上げ、その牙を防ぐと そのまま腕に力を入れ、体ごと跳ね返す。


剣に跳ね返され、グランドウルフは大きくバランスを崩し 立て直そうとするその一瞬 キドは急所に向かって剣を振り下ろした。


「ギャンッ」


グランドウルフは短い悲鳴を上げ、近くの森へと逃げ帰っていく。

キドは、剣を柄に収め、短く息をついた。


「……おーい!もう大丈夫だぜ!」


後ろを振り向き、商人にに声をかけながらそちらに向かう。

安心したように笑っている商人の後に、先ほど助けた人物が居るのが分かった。

よく見てみると…その人物は齢16ほどの少年で、よくいる黒髪だが毛先が金色に透けている。

ガラス玉のような翠蒼の瞳は不思議そうに揺れていた。


「あの、…」

「ああ!助かった!助かったが!早く街へ行こう!!」


商人は立て続けに危険に晒されてもうクタクタのようで

早く街へ行こうとキドを急かしている。

少年は少し気圧されてしまっているようだ。

キドは少し困ったように頬を掻き、一先ずは商人を街へ送り届けることにした。


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