【バス保】松野 一松の見ている世界【カラ一】

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@breeze_ange

松野一松の穏やかな世界

松野一松の穏やかな世界


共感覚という言葉を知っているだろうか?

普通の人から見たら、ただの黒のサインペンで書かれた文字の羅列が、共感覚者から見たらそれぞれに色がついていたり、匂いがついているように感じられるという特別な感覚のことだ。


松野一松は共感覚者であった。


彼は、すべての音に色や光を見ることが出来る。

音の質は色。音量は光度。

まるで花火のようにはじけ飛ぶこともあれば、川の様に光が流れていくこともある。

それは音が聞こえていればつねに見えるもので、騒がしい街中などに行くと、ただでさえ人でごった返しているというのに、さらに様々な色の光が飛び散り、弾け、流れ回り、とてもじゃないが一松の脳は耐えられない。耳元で騒がれたりなんかすると、意識を飛ばしてしまうことすらある程だ。なので、昔から一松は人のいるところを避けて暮らしいた。どうしても人の多いところへ行かなければならない時は、耳栓をして出向くことにしている。

音が聴こえづらいというのは不便なこともあるが、光が煩くて意識を飛ばすよりマシである。


そんな松野一松には、恋人がいる。

同じ高校で働いている松野カラ松という、英語教師だ。

いろいろあって彼らは交際することになったのだが、勿論職場ではそんな関係性をおおっぴろげにするわけにはゆかないので、普段は隠して生活をしている。

一松は養護教諭だ。なので、英語教師であるカラ松と会うのはせいぜい朝の職員会議にて顔を合わせるくらいで、あとはカラ松が受け持っているクラスの子供が保健室に用があるということが無ければ、あとは廊下をすれ違うことすらあまり無い。

なぜなら、一松は音が目の前で光として弾けてしまうため、騒がしいところは苦手であるので、滅多な事がない限り保健室から出てくることは無いのだ。

ただ付き合う前からお昼は一緒に食べることが多かったので、付き合ってからもカラ松が一松の所へゆき、そして一緒にお弁当を食べる事は変わらない日課となった。


カラ松はコンコン…と保健室のドアをノックする。

お昼になったのでカラ松は、仕事をすべて切り上げ一目散にここにやってきた。部屋に入る時は、一松が急な音でびっくりしない様にちゃんとノックをしてから入るようにしている。…のだが、いつもなら一松の気だるい声が聞こえてくるはずなのに、今日は一向に聞こえてこない。どうしたのだろう?トイレにでもいってるのか?と思い、そろそろと静かにドアを開けた。

すると、一松は意外にも部屋の中にいた。ノックの音が聞こえてないのか、カラ松が来たことにも気づいていないようだ。

こちらに目を向けること無く、机に視線を落とし、真剣な顔をして何かを書いている。

夢中で気が付かないのだろうか?と、カラ松はこそこそと一松の座っているところまでやってくると、一松の背後までやってきた。

それでもまだ気づかない一松。

結構警戒心の強い方だと思っていたのだが、ここまで気づかないとなると恋人としては心配になる。


(oh マイ スイート エンジェル…!!これは無防備過ぎないか…!!)



とりあえず、気づいてもらわねば注意も出来ないと、カラ松は「わっ!」と小さな声で一松の後ろから囁き、両肩をポンと軽く叩いた。大きい声を出してしまうと、一松の脳が音による光を処理出来なくなってしまいショートしてしまうことがあるらしいため、音は極力最小限にとどめた。



「どわぁっ!!!」


と、本当になんにも気づいていなかったらしい一松は、急に肩を叩かれ、体を硬直させつつ、叫び声をあげた。


「な!?え?はぁ!?」


そんな大声を出して平気なのかと思いつつ、思いっきりびっくりしている一松に、


「スィート ハニー?俺だ。カラ松だ!」


と、声をかけてみる。すると、おそるおそるこちらを振り向いた一松は、一転ぽかんとした顔でカラ松を見ると、あぁ…と何か納得したような顔をすると、両方の耳から耳栓を取り出した。


「やっばい。耳栓取るの忘れてたわ。」

「あぁ、だから俺のノックも聞こえなかったのか!全然気づかないから驚いたぞ、ハニー!」

「いやまじでそれやめろって言ったろ。ここ、職場だからな?」


ぶつぶつ文句を言いながら、一松は机に耳栓をしまい込む。

これは、対チャイム用の耳栓だ。

どうやら一松はチャイムの音が苦手らしく(あの甲高い音がすると、大きな光が打ち上げ花火のように爆発するんだそうだ)チャイムがなる前に耳栓をして対処している。

今回はどうやらその耳栓を外し忘れていたようだ。


「俺だったから良かったものの、スチューデンツだったらどうするつもりだったんだ?意外とうっかりさんなんだな、マイスイートハ「だからマジてその呼び方やめろって!!」


カラ松を怒鳴りつつも、言ってる事はそのとおりだと思っているらしく、いつもみたいに恥ずかしさ任せに殴ったりはしてこない。

でも、これ以上いじめてしまうと、今度は拗ねてしまうだろうな…と考えたらカラ松は、ふっ…と微笑むと、


「オーケイ、Mr.一松。」


と、軽くウインクをした。


「なぁ、マジお前ホントなんなの?頭おかしいの?」


そんな辛辣な言葉が返ってくるが、顔は呆れ笑顔。

これは、お気に召した証拠だ。


松野一松は共感覚者である。

音が聞こえると、全てが光として目の前に現れる。

そしてそれはカラ松の声も例外ではない。

一松はどうやらカラ松の声が〝とても綺麗な光〟に見えるらしく、特に綺麗に見えると、どんなに呆れて怒っていても、こうやって顔を綻ばせてくれる。

カラ松はその顔が見たくて、一松に色々喋りかけているようなものだ。もちろん、一松と喋りたいというのもあるが、カラ松はそんな一松の一面がたまらなく好きだった。


お互いに持ってきた弁当を広げて、食べ始める。

と、一松が「ん?手どうした?ひねったのか?」と首を傾げる。


「…分かるのか?」


カラ松はその指摘に驚いた。見た目的には何も変わりはない。強いて言うなら、箸を使う時ちょっと痛いかな?というぐらいだ。なのに、一松は目ざとくそこに気づいたようだ。

授業中、生徒達にも指摘されなかったのに、さすがは養護教諭と言ったところなのか…。


「ちょっと見せてみろ。」

「いや、ランチを食べた後でも…。」

「み・せ・ろ。」


こうなると一松が意地でもひかないのは、よく知っている。

仕方ないとカラ松は一松に右手を差し出した。

一松は、手を観察し、手首をくるくると回してみたり、揉んでみたりして、何処を痛めているか確認する。


「これは?」

「 ちょっと痛い。」

「こっちは?」

「Oh!!Ouch!!い、痛…。」

「手首の筋痛めてるな。お前、休み時間も生徒達とバスケやってたりしてっからだって。一応バスケ部の顧問なんだから、先生が怪我とかしてる場合じゃねぇだろうがよ、アホクソ松。そんなんだから、女バスの連中にも馬鹿にされてんだよ。」


はぁー…と一松はため息をつくと立ちあがり、保健室の棚からテーピング用のテープをハサミを持ってくると、


「とりあえず、邪魔にならねぇ程度に手首固定してやっから。」


と、カラ松の右手に手際よくテープを巻き始める。


だが、カラ松はそれどころではなかった。


「えと、あの、Mr.一松?」

「んだよ、話しかけんな。光って見えねぇ。」

「休み時間とか、女子バスケ部の話とか、な、なんでMrが知ってるんだ…?」

「は?そりゃおま…え………っっっ!!!!」


テーピングの手が止まり、今まで少しイラついたような顔をしていた一松の表情が一転した。

ぼふっと耳の先まで顔が真っ赤に染まり、一松は言ってしまった…という顔をした。


「な、も、もしかして、Mrは俺をのぞき見ていたのか?」

「そそそそそそそんなわけねーだろうが!!!てか言い方!!!た、たまたま見えただけに決まって…」

「でも、ハニーはあんまりこの部屋から出ないじゃないか。」

「うるっせぇ!!で、出る時だってあるに決まってんだろ!」


そう叫びながら、一松は両腕で真っ赤に染まっている顔を覆い隠した。そんなに怒鳴ってしまったら、光が眩しくないのかと思っていたのだが、どうやらそれどころじゃないらしい。


部屋を出ることが少ない一松が、自分の姿を見るために、苦手な騒がしいところにも来てくれているだなんて。


なんて、なんて、愛らしい…!!!!



そう思うと、テーピングの途中だとか、一松にこれ以上言ったら怒ってすねちゃうとか、というかここは神聖なる職場ですよお二人さんとか、もうなんかどうでもいいくらい愛しさが込み上げてきて、カラ松は恥ずかしさで縮こまっている一松にがバリと抱きついた。



「そっんなにこの俺を見たかったらいつでも呼んでくれていいんだぞ、マイハニー!マイスイートエンジェル!!!いつだって、俺はハニーの元に飛んでくる!!!」

「うるっせえええ!耳元で囁くな!!!お前の声は目にも耳にも毒なんだよ…ってか!テーピングやりなおしじゃねぇか!!アホクソ松!!!!」



ちなみに、この会話は廊下に筒抜けであり、またうちのゲイカップル先生達がなんかやってると、生徒達どころか先生達までもが彼らの関係を知っていて黙認していたりする。

知らないのは、本人達だけである。