夜越しの白昼夢

🌃夜野くん💫
@yoru_sou_410

無神論







神様なんて居ないと思っていた。


いや、今だって思っていないけど、所謂それが本来の神として信じられてきた偶像に、まるでそっくりな人間は存在するんだなぁって知った。



あれは多分、夏も終わりかけのあの日。

またいつも通り家であのひとの帰りを待っていた時のことだった。


自由が殆ど無い自分だけど、何故だか携帯だけは持っていても何も言われなかった。

……とはいっても、いつの間にかGPSアプリが入れられてたりする、ちょっと制限のかけられたものだったけれど。

自分は携帯とテレビによって生かされてると言っても過言ではなかった。

どちらも無いものならきっと、そこのベランダから飛び降りてたかもしれない。多分。


最近、この時間が楽しくて仕方なかった。

何が楽しいって、最近始めたSNSでやっと仲いい人が出来たことだ。


今から数ヶ月前、ふと思い立って、ただの暇つぶしにとSNSを始めることにした。

流石にネットで本名を使う気にならず、動物の中で一番好きな猫、それも黒猫が好きだったので、ハンドルネームを黒猫にして利用することにした。

しばらく右も左もわからず使っていたんだけど、次第に話す人が出来た。

その人は自分と同じハンドルネームで、なんだかすごく親近感が湧いたのだ。

画面越しとはいえ、ちゃんとその先には人がいるということに酷く緊張して、最初の返信なんかは送信ボタンを押すまでに書いた文章を何回も見返したのを覚えている。


黒猫さん、今日はまだ居ないんだなぁ…


心にすこし寂しさを感じたあと、きっと彼は忙しいんだろうと勝手に解釈して勝手に納得した。

いや、でも、実際どうなんだろう。彼が自分のことを話すのはあまり無いような。いやあったっちゃああったかもだけど、うーん、でも、そんなに覚えがないかな。


それにしても暇だ。今日あの人はいつ帰ってくるんだろうか。少しでも遅ければいいのに。


布団に寝転がって画面をなんとなく眺めていると、ふと玄関の方から扉ががちゃんと開く音がした。

その音に酷くびっくりして、慌てて起き上がり、携帯をなんとなく隠す。

やばい。どうして今日はこんなにも早いんだろう。だってまだ5時だ、普段は11時とかなのに。


「…………あ、ええと………お、おかえりなさい……」

「…………ん」


高鳴った心臓を他所に廊下に目を向けると、お兄さんが如何にも不機嫌そうな顔で廊下を歩いてきた。

黙っていたらまた機嫌を損ねてしまうと思って言ってみたら、ぶっきらぼうに跳ね返されてしまった。

機嫌が良い時なんか殆ど無いけど、悪い時は必ずと言っていいほどいつもの“あれ”が始まるのだ。


不意に頬を張られ、身体が布団に再び沈んでいく。


…どうしよう、と思ってもどうしようもない。


張られたところがじくじくと痛み出して、込み上げた悲鳴を無理矢理飲み込む。


…逃れるための方法は幾らでも試した。


鋭い彼の瞳に刺されて動けなくなる。


…けど駄目だった。


今度はお腹の辺りに強い衝撃がきて、口から漏れ出た嗚咽と共に視界がじわりと滲んでいく。


…もしかしたら、死ぬまでずっとこれなのかもしれない。


いつもよりももっと荒くて痛い暴力に、恐怖で身体が震えている。


…それを考えると気が遠くなってしまいそうで。


過呼吸みたいに息をして、それでも今日も耐えなくちゃいけない。


…いっそ逃げられたらどんなに楽だろうか、なんて。


零れた雫が皺だらけのシーツを濡らした。


…思っても、いいんだろうか。