同じ空を見ていた

🌃夜野くん💫
@yoru_sou_410





ふと、昔のことを思い出していた。

何年前だったか、それとも昨日のことだったか、あの日から日付も数えてないから昔というのもかなり曖昧だ。

もしかしたら今のこれも、長い長い夢なのかもしれない。


「…………」


暗闇で目を瞑る。

こんな暗い中で目を閉じたり開けたりしたって、見えるのは似たようなものだけど。

ふと隣から布の擦れる音がして、ああ彼が寝返りをうったのかなんて思った。

たぶん、いくらこの人だって俺が今目覚めてるだなんて思ってもいないだろう。


眠い様な、寝たくない様な、眠くない様な、寝たい様な。

よく分からない迷いが頭の中を反芻して、自分がどうしたいのか分かんなくなった。

目を開ける。

でも、自分が眠る気もないってのはよく分かった。


そういえば、昔のあのひとはどうなったのだろう。

ろくな人ではなかったしきっと人生もろくでもないに決まってるけれど。

黙って抜け出してきてしまったから、きっとあの時は酷く驚いていたに違いない。

でもそのせいで他の誰かが犠牲になってたらそれはすこし申し訳ないな。


ふと思い出した嫌な記憶を、あのひとが今どうしてるのかを想像で吹き飛ばしていたら、少し笑えてきてしまった。

いい気味だ、まさか元の飼い猫にこんなふうに想像されてるとは思わないだろう。

でも直ぐに飽きてきてしまって、仰向けのまま部屋全体をなんとなく見渡した。


なんて言うのかはわからないけど、元住んでいたところとは全く違った造りの部屋だな、とつくづく思う。

暖かい布団と暖かい熱。壁にくっつけた低い机。その上に乗った大きな蝋燭。ふかふかする畳。自然と落ち着く様なこのひとの隣。

今は何時なんだろう。時計もないし、なんなら字も読めないからわからないけど、さっきよりも薄ら部屋が明るい。気がする。


ふと外が見たくなって、隣で寝てる彼を起こさない様に布団から起き上がる。

肌が急に外気に晒され、思わず身震いをする。

立つと一気に眠気が覚めた気がした。


足音を立てないように襖まで歩き、襖をそっと開く。

もう春とはいえ、まだ雪の季節が終わったばかりだ。夜はすっごく寒くて、寒いのが苦手な自分としてはなんでわざわざ外に出ちゃったんだか。

縁側にまで歩を進めると、更に肌に寒さが刺さる。

空にはまだまだ闇と青に染まっていて、浮かぶ星と高い位置にある三日月が白く輝いていた。

その星と月に、うっとりと見惚れてしまう。


「……何してんの」

「わっっ!?」


不意に後ろから声とともに抱きすくめられ、思わず大きな声が出てしまった。

後ろを振り返ると、さっきまで布団で寝息をたてていた彼が眠そうな瞳で立っていた。


「…ごめん、起こしちゃった?」

「………ん」


お腹に回された手に自分の手を重ねる。

少し体温が低い彼は、俺よりも寝起きが辛いのかもしれない。だとしたら結構申し訳ないことしてしまったのかも。

そう思って言うと、後ろからは如何にも眠そうな返事が返ってきた。

眠いのにわざわざ自分の傍に来るために起きてくるなんて、とすこし微笑ましくなったのはここだけの内緒。


「……何、空見てんの?」

「うん。寝れなくて」

「ふーん」


そう言って、彼は肩に頭を埋めてきた。

すぐ耳元で声が聴こえる。

彼の低い声が心地いい。微かな吐息でぞくぞくする。

…気は済んだし、早く布団に戻ろう。


「ごめん、戻ろっか」

「…………」

「……?」


前に回された手を握り、声を掛けても返事はない。すぅすぅという寝息が聴こえる。

もしかして、寝ちゃった?


「……どうしよ」


俺の力じゃ彼は運べないし、起こしちゃうと機嫌損ねちゃうかも。でも、ここにずっといたら風邪引いちゃうよなぁ……そう思ったら、やっぱ起こすのが正解かな。


「起きて?布団、戻ろ」

「んー………」


揺さぶると、彼はゆっくり顔を上げそのまま手を繋いだまま布団に戻った。

俺は襖を閉じて、手を引かれるまままた布団に入った。

ひんやりした空気が遮断され、少しずつだけど熱がまた戻ってきた。


「っわ、」


頭を枕に乗せた瞬間、彼が擦り寄ってくる。

腰を引き寄せられ、さっきよりも距離が近くなる。

わ…………顔が近い。静かに心臓が逸りだしたのがわかる。

どうしよう、更に寝れなくなってしまった。

また寝息を立てだした彼の顔を見て、また目を閉じた。

また明日も同じ空が見れますように、祈りながら。