黄金の貴族怪盗~トランシルヴァニアの怪事件~

Episode2 仕立て屋の出会い

「ふああああ……」

「しめた!」――警備兵が再びカバのような大口を開けたその瞬間、ジュリアンは部屋から飛び出すと警備兵に渾身の“当て身”を喰らわせた。

「ぐげっ」奇妙な呻き声と同時に白目を向いて床に崩れ落ちる警備兵、ジュリアンは気絶した警備兵を廊下の死角までズルズルと引きずると、衣服を剥いで今度は“警備兵”に変装した。

「よーし、これなら目立たないぞ。幸運なことにサイズもピッタリだ」

 身ぐるみを剥がれ文字通り“丸裸”になった警備兵を縛り上げて放置すると、帽子を目深に被り、ついでに壁に立て掛けてあった“槍”も持って行く。

「ギルバードの話では、あの強欲オヤジが溜めに溜めたお宝は全部“別邸の地下”にあるってことだったな。ん~彫刻類は持って行けないから、狙うとすればかさばらないアクセサリー類だな」

 ブツブツと独り言を言いながら歩いていると曲がり角で警備兵の男と出くわした。

「うわあっ!? ――こ、ここここちらは、い、異常ありません! ハイ!」

「バカ、ジュリアン。私だ、私」

「えっ!?」

 何やら聞き覚えのある声――よくよく顔を見ると、出くわした警備兵はギルバードだった。

「な、なんだギルバードか~……驚かすなよ~。危うく心臓が爆発するところだったぞ」

「人のせいにするな。……まったく、何度も言っているが最後まで決して気を抜くな。無事にお宝を盗んで貧しい人々に配り終えるまでが黄金のカラスの“仕事”だぞ。いい加減に自覚しろ」

「はいはい、お説教は無事に仕事が終わってからゆっくり聞きますよ。お義兄にい様」

「“はい”は一回」

「……。はあ~い。ところで、ギルバード。一階の様子はどうだ?」

「ウム。当然、二階以上に厳重だぞ。警備兵がウヨウヨといる」

「やはりと言うべきか。フーム、警備兵に変装したのは正解だったな」

「ああ。しかし、ここまでは想定内・・・だ。――実はな、ジュリアン。今回は秘策を用意したんだ」

「秘策!?」

「フフフ……そう、秘策とはこれだ!」

 ギルバードは上着を脱ぎ払う――と、その下はなんとジュリアンと同じ“怪盗”の衣装だ。

「あーっ! それ私の――!!」アイデンティティを侵害されたとでも思ったのだろうか、思わず叫びかかるジュリアン。ギルバードは咄嗟にその口を手で覆う。

「バカ、大きな声を出すな! 巡回にバレるぞ!」

「す、すまん――ひ、秘策というのはもしかしてもしかすると……!?」

「そう、“囮”だ。さすがのお前でもあの人数の警備兵をかいくぐり、地下の宝物庫まで行くのは至難。そこで、この私がジュリアンに化けて警備兵たちを邸の外へ誘導する。お前はその隙に地下へ侵入してお宝を持てるだけ頂くのだ。――どうだ、我ながら良いアイデアだろう?」

「おお! さすがはギルバードだ! でも、囮なんて本当に大丈夫なのか?」

「フフ、私の“逃げ足”の早さを侮るなよ? ああ、あとちゃんと“かつら”も用意したから心配するな。――よいな? 私が合図したらお前は大声で『黄金のカラスが現れた』と叫ぶんだぞ」

「ウム!」

「では、私は先に一階へ行っている。――いいか、絶対に最後まで気を抜くなよ?」

「フフ、わかっているよ」

 ウインクを飛ばすジュリアンにギルバードは笑みを浮かべると、再び上着を着込んで走って行く。さすがはジュリアンの幼馴染みであり親友――意外とノリの良い男のようだ。


***


 一方、時を同じくして仕立て屋の二階。親方とカトリーナ、そしてお針子数人が仕上がったドレスをトルソーに着せて全体の仕上がりを入念に確認している。

「……よし、注文通りの“完璧”な仕上がりだ。みんな、お疲れ様! こんな時間までありがとう」

 ドレスが完璧に仕上がったのが確認されると、お針子たちから喜びの声と笑顔が溢れた。

「やったあ! とうとう完成したのね……!」

「ここまで来るのに長かったわねぇ~っ! あーもう、一時はどうなるかと思ったわ」

「本当よ~、急な注文の上に納期は短くって、おまけにアレコレ要求が多いし!」

「それにしても、今回のドレスもコテコテで“悪趣味”よね~。金糸にレースにフリルだらけ」

「そういえば、今日、来てたお客様もビックリしてたわね。まるで“孔雀みたい”だって」

「自分もド派手な“吸血鬼”なのにねぇ」

「あはは! それ言えてる~!」

 相変わらずしょうもない話で盛り上がるお針子たちに、親方は小さなため息をついた。

「こらこらみんな。お客様の噂話はよさないか。――さ、最後に針や道具の欠品が無いのを確認したら、早く家路へ向かうんだよ。もう夜も遅いからな」

「親方はまだ残るんですかあ?」

「ああ、納品の準備とか色々としなければいけないからな。まだまだ残業さ」

「親方も、遅くまでお疲れ様でした」

「うん。じゃあ、みんなまた明日もよろしく頼むよ」

「は~い、お疲れ様でした!」

 お針子たちはそれぞれ針や道具の数を確認し終えると、さっさと帰って行く。最後までうるさい女性連中が全員帰って、しーんと静まり返った二階には親方がひとり残された。

「やれやれ、最初から最後までお喋りな娘たちだなあ。……若いってのは羨ましい限りだ」

 小言を口にしつつ、納品の準備に取り掛かる親方――すると、ややあって誰かが階段を上がってくる音が聞こえた。ギシ、ギシ、と木の板の軋む音がどんどん大きく近づいてくる。

「……ん? 誰か忘れ物でもしたのかー?」

 振り返ることなく棚を漁る親方。足音と人影が、静かに親方の真後ろに迫って来る。――そして、影が重なったそのとき、“不穏な気配”を察知した親方が急に振り返る。

「――!? ――あ、あなた・・・は……! ――なぜ、あなたがここに……!?」

 まったく想定外・・・の人物が現れたことに血の気が失せたその瞬間、親方の胸に“裁ちバサミ”が深く突き立てられる。突然、胸を貫かれた親方は呻き声を上げると、ずるずると崩れていき床にへばりついた。

「……、…………」

 親方の息が絶えるのを見届けると、彼を刺した人物はその場を後にする。――真夜中のアルバ・ユリアの仕立て屋で突然、“悲劇の連続殺人事件”の幕が開かれた。


to be continued


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