黄金の貴族怪盗~トランシルヴァニアの怪事件~

Episode2 仕立て屋の出会い

「お針子も大変なんだなぁ……」

「そりゃあそうさ、貴族たちのうるさい注文に“完璧”に応えなきゃいけないんだから」

「ウム、今の話を聞いて私も寛大な心を持って彼女たちに仕事を発注せねばならんと思ったぞ」

 ウンウンと頷いていると、二度目の付け直しを終えたカトリーナが二階から下りて来た。

「お待たせ致しました、お客様。――今度は前以上に頑丈に取り付けましたわ」

「お……おお、すまない。ただでさえ忙しいのに余計な手間を掛けさせてしまったな!」

 ジュリアンはベストを受け取ると、またもや直したボタンをつまむ――と、さすがに今度ばかりはクラウスとイザークに制止された。

「アニキ。ダメ、ダメ――絶っっっっ対に触っちゃダメ」

「さすがに二回もやらかしたら業務妨害ッスよ」

「お、おお――す、すまん。私としたことがまたやらかすところであった! ……あっぶねー」

 少々の紆余曲折はあったが、何とか目的を達成し代金を支払うと3人は仕立て屋を後にする。その帰り道――3人は今日出会ったカトリーナとラウラの美女ふたりの“余韻”に浸っていた。

「はぁ~……今日は絶世の美女をたくさん(※ふたり)見られて幸せだったなあ~……」

「ですねぇ~……あーあ、俺たちもそろそろ“彼女”欲しいよなあ……なあ、イザーク」

「うん。……もうイイ歳だもんなあ、俺たち……」

「イイ歳って、お前たちまだ20であろう? 全然ヨユーではないか! 私なんか『30までに身を固めないと城から叩き出す』と父上から“脅されて”いるんだぞ!? あとたった5年しかない!」

「そりゃあアニキが毎日遊んでばかりいるからいけないんでしょ?」

「そうっスよ! 第一、アニキなんか社交界に出ればもう女の子たちからモテモテなのに!」

「だってメンド―なんだもんよ~、いちいちダンス踊って“つまらない話”ばかりして」

「……。ね、アニキ。貴族の令嬢とはいつもどんな話するんです?」

「えー? ……んー……例えば『今日は舞踏会日和ですね~』とか『〇〇家の✕✕嬢が□□家のご令息となんちゃら~』とか、本当にくだらなくって尚且つ下世話な世間話ばかりよ」

「うわっ、本当にくだらねぇ!」

「そりゃあ次から参加したくもなくなりますよねぇ……」

「だろう!? あんな退屈で腐りそうなところに長時間いるくらいなら、城下町の酒場で住民たちと酒を飲んで歌って踊って朝まで騒いだ方が1000倍有意義だし楽しいぞ!」

「ひええ……俺たち、平民でよかった~! なあ、イザーク!」

「だなあ! 今のアニキの話を聞いてたら退屈のあまり脳ミソにカビ生えちまいそうだ!」

 震え上がるふたりを尻目に、ジュリアンは懐から一枚のカードを取り出す。

「実はな、タイミングよく〇〇伯爵家から舞踏会の招待状が届いてるんだ。舞踏会は今夜――どうだ、クラウス、イザーク。社会勉強がてらお前たちも私と共に舞踏会に来るか?」

「えーっ! 嫌っスよ! 今の話聞いたら尚更行きたくない!」

「俺も! それに俺たち、社交ダンスなんて踊れないし、貴婦人たちが喜ぶようなシャレた会話だって出来ないし、第一、あんなコテコテの悪趣味な服だって着たくもないッスよ!」

「バッカお前ら、何のために私の従者――もとい子分をやっているんだ? 社交界に供をするのだって立派な子分の務めだぞ! それにお前たちだって、派手にとは言わんが“それなり”に着飾れば女性たちにモテるかもしれないじゃないか! そうであろう?」

「俺たち、どうせモテるなら同じ平民の女の子がイイっス! ねっ、兄貴!」

「そうそう。仮に貴族の令嬢たちにモテて付き合ったとしても、“生まれも育ちもまったく違う者”同士が上手くやっていけるとは到底思えないッス。価値観の違いで1週間もしないうちに“スピード破局”するのがオチッスよ」

「……。それもそうか! じゃあ今夜の舞踏会のお誘いはキッパリお断りしようっと」

 クラウスの言うことは真っ当だ。貴族と平民の“身分違い”の恋――そんなものが成立するのは物語の中だけ。しかしこの男、ジュリアンの目は既に“やる気”の炎に燃え上がっていた。


***


 その日の夜――。

 ギュスターヴの城下町の片隅にある酒場。仕事終わりの領民たちで賑わう店内のテーブル席の一角で、ジュリアンは何やら両手で頬杖をつきながらニヤニヤしている。傍から見ればとても怪しいし気持ち悪い。案の定というべきか、「おい」と同席する人物に声を掛けられる。

 亜麻色の美しい長髪に釣り合う端正な顔立ちと、深緑色を基調とした煌びやかな衣装を身に纏った文字通りの貴公子。呆れを含んだ透明度の高い青い眼差しが、すっかり自分の世界に入り込んでしまっているジュリアンの“マヌケ”な姿を捉えて放さない。

「おい、聞いているのかジュリアン? さっきから何をニヤニヤしているんだ? 気味が悪いな」

「えへへへへ……実はなあ、今日、アルバ・マリア・・・でイイものを見つけたんだ~」

「アルバ・ユリア・・・だろう? へぇ、イイもの……金貨でも拾ったのか?」

「それが違うんだなあ、ギルバード! 超・超・チョ~~美人と可愛い女性ふたりだ! 今までに色んな場所で色んな女性を見てきたが、あんな美人と可愛い女性は見たことがない!」

「そんなに!? それはすごいな、私も是非ともお目にかかりたいものだ。特に可愛い方に」

「ダメダメ! 可愛い方はもう私が目をつけてるんだからな!」

「目をつけている――って……えっ!?」

 ジュリアンの語弊のある発言に耳を疑ったギルバードは思わず椅子から立ち上がる。

「まさか“一目惚れ”でもしたのか? お前が!?」

「ウム! だってあんなに可愛いんだぞ!? 男なら誰だって惚れるに決まっている! それでな、今、クラウスとイザークのふたりに彼女の“素性”を調べてもらっているんだ。何分、まだ仕立て屋で働くお針子だということしかわからんからな!」

「……素性って、まさか……ジュリアンお前、将来その女性と“結婚”でもする気なのか!?」

「当然! あんな超上物、逃す手は無い。父上が反対したって私は彼女と結婚するぞ!」同じく椅子から立ち上がり、両手で握り拳を作ると高らかに“宣言”するジュリアン。そんな彼をよそに、ギルバードはもう開いた口が塞がらないでいる――そして、ややあって椅子に腰を下ろすと額に手を当てて深~いため息をついた。

「……何というか、ものすごく可哀想だな、そのお針子の女性。貴族――それもよりにもよってジュリアンの目に留まるなんて。私が彼女の立場だったら、絶望のあまり首を括っているぞ」

「何だとコラーッ! ギルバード貴様、それでも私の親友か!?!?」

「親友なら相手の何もかもを肯定せねばならんのか? そんなものは真の友情ではないよ」

「うっ。――そ、それもそうだな……」あっさり論破されると、すごすごと椅子に腰を下ろす。

「では、次は美人の方の話を聞かせてもらうとするかな」

「ウム、美人の方はゲスタルトの侍女よ。……まるで女神のごとく煌く女性だった……えへへ」ラウラの美しい容姿を思い出すと、ジュリアンの顔がみるみるうちにだらしなくなっていく。

「ジュリアン。顔、顔」

「――はっ!」

 ギルバードに声を掛けられると、ジュリアンは我に返って咳払いと共に色を正す。

「ゲシュタルト公といえば今日、アルバ・ユリアでひと騒ぎあったそうだが」

「そうそう! あのゲスヤロー、危うく御者の不注意で子どもを轢きそうになったというのに、謝罪をするどころか『たかが下層民の子どもの命が何だ』とか『文句があるなら裁判でも何でも起こせ』とか抜かしやがって! あああああ~~もう思い出したら怒りが収まらぬわ!」

 顔を真っ赤にしてグシャグシャと頭を掻き毟るジュリアンの正面で黙って愚痴を聞いていたギルバードも、ゲシュタルトの言動を聞くと思わずその端正な顔を引きつらせた。

「だからイシュトヴァーンの領地でも騒ぎになっていたのか……しかし、ひどいな! 父上からゲシュタルト公は冷酷非情な男だと聞いてはいたが、身分差別・人命軽視も甚だしい。――あんな男が我らが君主にお仕えしているなど、考えただけで背筋が凍りそうだぞ。ジュリアン」

「だろう!? ――あのゲストカゲ! 今度会ったらボコボコにブン殴ってやる!」

「やめておけ、あの男は戦神と呼ばれる猛将だ。それに、公爵家に睨まれればタダではすまん」

 やんわりと忠告されるとジュリアンは不貞腐れたのか、ギルバードを一瞥して唇を尖らせる。

「ジュリアン。そんなふうに不貞腐れてもダメ」

「……」

「ダメなものはダメ。――絶対にダメ」


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