黄金の貴族怪盗~トランシルヴァニアの怪事件~

Episode2 仕立て屋の出会い

 取れてしまった服のボタンを直してもらう為、近くの仕立て屋へと向かったジュリアン一行。通り沿いにまっすぐ歩いていると、ややあって立派な建物が見えてきた。〔“szabó仕立て屋”〕と書かれた立派な看板があることから、ここが目的地で間違いない。

 この仕立て屋はアルバ・ユリアに数多くある仕立て屋の中でも一番大きく立派で、尚且つお針子たちも全員腕利き揃い。そして主な客層は王室やその周辺の貴族というまさに“超高級店”だ。無論、今、ジュリアンが着ている衣装もすべてこの仕立て屋で作られた代物である。

 ドアを開けて中に入ると、作業中のお針子数人と彼女たちの雇い主の親方がジュリアンたちを出迎える。超がつく高級店らしくお洒落で落ち着いた雰囲気の店の奥には、貴婦人たちから注文されたものなのだろうか、リボンやレースでコテコテに飾られた見るからにド派手で重たそうなドレスが何着も飾られている。

「うわ、何だありゃあ。コテコテしてて“悪趣味”なドレス……」

「ほんっと、貴族の趣味って理解出来ねぇや……」

「お前たち、我が母上とおば上を侮辱しているのか?」

「いやいやいや! ミレイユ様とクラウディア様は上品だけど、あれは――なあ?」

「そうそう。だって見てくださいよアニキ、あの孔雀みたいなド派手なドレス!」

 ジュリアンもふたりが指すドレス群を何気なく見ると、そのド派手さに思わず二度見した。

「うわっ、何だありゃあ!? 本当に孔雀そのものだ!」

「でしょでしょ!? アレを着るとか絶対性格の悪い女ッスよ」

「そこから更に厚化粧と宝石で“武装”するんでしょ? あのゲスタルトでも逃げそうッスよね」

「ウム、我が父上とおじ上でも逃げ出すぞアレは……」

 身を寄せてヒソヒソ話をしていると、ひとりのお針子が近づいてきて3人に声を掛ける。

「いらっしゃいませ。――あの、何かお探しでしょうか?」

 声を掛けられた3人はギクリと跳ね上がると、咄嗟に振り返って苦笑いを浮かべる――と、そのときだ、女性の姿を見るなりジュリアンたちは硬直した。

 柔らかな白肌に大きな茶色の瞳、リボンをあしらった栗色のゆるい巻き髪に真紅のワンピースが映える可憐な女性。固まったままのジュリアン一行を見て、不思議そうに小首を傾げている。

「あの……?」

「あ、ああ――い、いや! ほら、なんかアレ孔雀みたいにド派手なドレスだな~って!」

「そっ、そうそう! なんか一周回って強そうだな~って! あは、あはははは!」

「ああ、あのドレスは全部△△公爵夫人様がご注文されたドレスなんですよ」

「……。やっぱり、公爵家って同じ貴族の中でも“スケール”が違うな……ゲス――ゲシュタルトといい、あの孔雀ドレスを注文した夫人といい、公爵家は悪趣味なヤツばかりだ」

「ふふ、最近はああいった派手なドレスを注文されるご婦人様が多いんですよ。――それから、今、お客様が仰ったゲシュタルト公爵家からもご注文が入ることもあります」

「ゲシュタルトが?」

「はい、当主や侍女のお衣装を。何分“東洋の衣装”なので、仕立てるのに苦労致しますけれど」

「はあ~~侍女の衣装まで超高級店で……やっぱり公爵家ってスゲーな」

「だなあ……俺たちの服なんてその辺の仕立て屋で買ったヤツなのに……」

「ほら、カトリーナ。いつまでもお喋りしていないで、お客様からご用件を伺いなさい」

「あっ――すみません、親方」

 店主の男性にやんわりと注意されると、カトリーナはペコリと3人に頭を下げる。

「失礼致しました。――それで、本日のご用件は?」

「ああ、ウム――実は服のボタンが取れてしまってな。付け直して頂きたい」

「ボタンの付け直しですね、かしこまりました。すぐにお直しさせて頂きます」

 ジュリアンから取れたボタンとベストを預かると、カトリーナは二階の作業場へ上がって行く。その後ろ姿を3人は見送ると、再び身を寄せてヒソヒソ話をし始めた。

「おい、見たか!? 見たか!? ふたりとも」

「見ました見ました! ――すっっっっごく可愛い!!」

「あまり場慣れしてなかったみたいだけど、新人の子っスかね?!」

「ウム、数日前に母上と一緒に来たときには見なかった娘だ」

「やっぱり超高級店ともなると、お針子も超・チョー可愛い・美人揃いなんスね~」

「しかし今の娘は“格別”だ。……ウーム、もう交際している“男”とかいるのかなあ……」

「えっ!? ……、……ま、まさかアニキ……!?」

「も、もしかしてもしかすると……!?」

 ジュリアンの発言に何やら“悪い予感”がしたクラウスとイザークはビクビクし始めた。そんなふたりを尻目に、当の本人は満面の笑みを浮かべると大きく頷く。

「ウム、私はカトリーナに一目惚れ・・・・したぞ!」

「えーっ!?!?」見事に的中した予感にふたりは思わず驚愕の声を上げて飛び上がる。

「アニキが!? あのアニキが一目惚れ!?」

「どこの有力貴族の令嬢にも見向きしなかったアニキが!? 平民のお針子に!?」

「何だ、ふたりして!? 私が女性に一目惚れしてはいけないのか!?」

「いや、別に悪いなんてひと言も言ってないッスよ!? むしろ“良いこと”っス!」

「そう! そうっス! でも、相手は貴族じゃなくて“平民”ッスよ!? あの“超絶石頭”のシモン様が平民の女の子との付き合いをお許しになるか――」

「私が決めたことだ、父上のご意向は関係ない」

「か、関係ないって……」

「それにもう、カトリーナには恋人がいるのかもしれないし――」

「フン、だったらその恋人に“決闘”を申し込むまでよ!」

「……、……」

 その気満々なジュリアンを尻目にクラウスとイザークはおもむろに互いの顔を見合わせると、背を向けてまたもやヒソヒソ話をし始める。

「お、おいイザーク。俺、何かすんげー“悪い予感”するんだけど……!」

「兄貴も? 実は俺もさっきからスッゲー悪い予感してる……!」

「だよな。俺の経験上、これ、絶対あとで“マズイことになる”パターンだよ」

「えーっ!? やっぱり!?」

「ああ~~ヤバい、本当にヤバい。俺たちもいよいよ命運尽きたって感じだ」

「命運尽きたって、まだ何も起こってないだろ」

「バカ! 何か起こってからじゃ遅いんだよ!」

「お前たち、さっきから何をコソコソ話しているんだ?」

「ひいっ!」ジュリアンの声にふたりは思わずマヌケな声を発しながら跳ね上がると、怪訝そうに睨むジュリアンに精一杯の愛想笑いを浮かべた。が、その場しのぎになっているかどうかはわからない。


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