黄金の貴族怪盗~トランシルヴァニアの怪事件~

Episode1 ジュリアン=フィリベール=ギュスターヴ

 それから約3週間が過ぎたある日――ギュスターヴ城にアランがやって来た。その表情はとても明るく、身なりも街で出会った頃の浮浪者同然の小汚い恰好から一変して、どこへ行っても恥ずかしくない綺麗なものになっている。

「ジュリアン様、どうも、ご無沙汰しています!」

「おお、誰かと思えばアランではないか! 今な、アルバ・ユリアへ遊びに行くがてら、お前の家へ様子を見に伺おうと思っていたところだ! ――どうだ、母君はお元気か!?」

「はい! お陰様でお袋の病気はすっかり快復しました! 今は元気に家事と内職をしてます!」

「おーっ! それはよかった! ――で、新しい仕事の方はどうだ? 順調か!?」

「はい。結構、力仕事が多いから『若い男の人が来てくれてとても助かってる』と、牧場の人たちもみんな喜んでくれています! 」

「ウム、それは何よりだ! 私も紹介した甲斐があったというものよ!」

「本当にもうジュリアン様には感謝してもしきれません。このお礼は、いつか必ず……!」

「よいよい、気にするな! お前と母君が元気ならば、それが私への“恩返し”よ」

「はい! 本当にありがとうございます。――あっ、アルバ・ユリアへお出掛けされるんですよね? じゃあ、俺はこれで失礼します。他の皆様方にも、よろしくお伝えください。では!」

 輝くような笑顔で手を振りながら去って行くアランに、ジュリアンも応えるように手を振り見送る。そして、アランと入れ違いで若者がふたり、駆け足でジュリアンの元へやって来る。

 同じ顔、お揃いの服装、お揃いだが色違いのマフラー、唯一違うのは髪型だけ――という“典型的”な双子の若者。何やら諍いをしているようで、お互いを小突いたり押したりしている。

「おお、ようやく来たかふたりとも! 首を長くして待っていたぞ!」

「アニキ! お待たせしてすいません! イザークのヤツが寝坊して!」

「なんだよ! 俺が悪いみたいに! 兄貴だって寝坊したじゃないか!」

「なんだとーっ!」口答えにムッとした兄がポガッと弟の頭を小突く。

「いてーっ! 何すんだ! 本当のことだろ!?」

「コラ、喧嘩するな! ――で、肝心の馬車の手配は? 出来ているのか?」

「はい! バッチリっス!」

「向こうで待機してもらっています! ――で、アニキの方はどうです?」

「ウム、翻訳の仕事は予めすべて“完璧”に片づけておいた。これで文句も言われんだろう」

「おおっ! 溜まりに溜まった2週間分の仕事をたった2日で!? さすが俺たちのアニキ!」

「アニキ、めちゃくちゃデキる人なんだから、いつもこの調子でやればいいのにー」

 クラウスのひと言に、ジュリアンはムッと顔をしかめると、言葉を続ける。

「おい、クラウス。――お前、いったい何年、私の“子分”をやっている? え?」

「え? じゅ、10年――ですけど?」

「10年! 10年も子分をやってて、私の“性格”を知らんのか!? クラウスお前、この10年間、いったい何をやっていたんだ? 牧場の牛のようにただボーっと生きていただけか!?」

「いや、性格って言われても、アニキの性格なんて掴みようないですからね!?」

「いいか、よーく覚えておけクラウス? 私はな、“その気”にならないとペンを握ることすら出来んのだ! ベストセラー作家だって、アイディアが降ってこなければただの人間だ。だから――」

 何かを察したイザークが、ジュリアンとクラウスの間に割って入る。

「わかったわかった! わかりました! 御者待たせてるんで早く行きましょ!? ね!?」

 そう言うと、イザークはジュリアンの背後に回り、その背中を両手で押しながら歩き出した。

「ああっ、チョット待て! まだ話の途中――」

「長話なら城に戻ったときにゆっくり聞きますから! ――ほら兄貴、行くよ!」

「ああっ、チョット待ってくれよー!」


***


 場所は変わりアルバ・ユリアの街――。

 行き交う大勢の人々。いつもと何ら変わらない光景だ。その中を歩くジュリアンとお供のクラウス・イザーク兄弟は街の“名物”と化しているようで、すれ違う人たちがみんな振り返って彼らを見ている。ときには、彼らに声を掛けて手を振る人も――すっかり“アイドル”扱いだ。

「おっ、また声掛けられたよ。いや~本当にアニキはどこ行っても注目の的だな~」

「アニキそのものが目立つからなあ」

「わははははっ!ま、私は絶世の美男だからな! 私のこの美貌に人々の目が眩んでしまうのも仕方あるまい」

「顔もだけど、一番はやっぱり……その恰好? どう見ても“吸血鬼”ですもん」

「フフ、我がギュスターヴは吸血鬼一族、なんて陰口を叩かれているくらいだからな」

「じゃあ、俺たちは吸血鬼の“手下”ってことッスね!」

「じゃあ、明日から俺たちも“それっぽい恰好”しないとな!」

「だな! ……。でも、吸血鬼の手下って、いったいどんな恰好してんだろ?」

「わかんねぇけど、アニキと一緒にいても恥ずかしくない恰好だ」

「じゃあ、このままでいいか!」

 ふたりの中身のない会話にジュリアンも笑っていると、突然、どこからか現れた数人の街の子どもたちがジュリアンの元へ駆け寄って来ると、その進路を塞ぐ。


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